第23話 天才と試行錯誤

「なに? 商業ギルドに蒸気機関が登録されている? それも最近だと」

「そんな天才が、この世界にも居たのか、ぜひ会おう。デーモンを倒すのに協力をしてもらおう」


 蒸気機関を出したのは、スイヤッセン=カッスメルという、男爵家の二男坊だった。

 家督が継げず、町の外れで機械の開発を行っていた。

 今使われている、足踏み式の織機などを作ったのも彼のようだと言われている…… だが。



 俺達が、五人と親方二人。

 そして商業ギルドの人間一人。


 家の前、土の上で、土下座をしているのが本人。


 蒸気機関を出したとき、実は親方達が言っていた、水の体積が増えると話を聞いて、水鉄砲的な物で羽を回すそんな基本原理を書いた。

 つまり蒸気機関ではない。


 だが出すときに、商業ギルドの係員と話しているうちに、蒸気になった。

 それをギルドの人間は、実際作り、動作をすることが確認をされて認証された。


 この世界特有のいい加減な産物。


 本気でこんなものなど作られないだろうと思っていたら、俺達が現れて、目を回し、細かな設定を聞こうと思ったら、土下座された。

 そこで親方が、商業ギルドの担当者を呼んできて、話をする羽目に…… 


 今ここである。


「まあ良いや、足りないところは俺達が補足をする。共著で権利を半分くれ」

「いやすでに出されており、王国中に通知されています」

「だが本人が言った様に、本来とは違う物が登録されているのはまずくないか? 補足をして、原理などを足すから。それでどうだ」

 そう言うと、それもそうかと、担当者は考える。

 中途半端な物を、勘違いで受け取り、勝手に違う物を作ったら動作をした。


 バレれば非常にまずい。

 それにこれから、俺達はその原理を使った何かを商品として作る予定。

 それが良いものなら、当然のように広がり、登録された資料は目にとまることになる。


「よろしい、許可をいたしましょう。そのかわり再現性と原理を記述してください」

「判ったよ。あんたもそれで良いな?」

 そう聞くと、かれは、残像が残るほどのスピードで、ヘッドバンキングをする。

 死ぬぞ……


 ヘビメタっぽいが、本人は、貴族の端くれ、カイゼル髭のおっさん。

 カイゼル髭は、両側の口角で細くなり、ピンと上に向ける髭のデザイン。

 真ん中で髪をぴっちりと分けて、何だろう。駄目な貴族の典型のような貴族らしい貴族。

 貴族位も、成人の時になくなったらしいので、本人は平民になったから、貴族へのこだわりがあるのかもしれない。


「さておっさん、書き直すぞ」

「はい」

「なら良い。そのまま兵器への転用と、乗り物のエンジンとして使う」

 そう高校生の知識で、安易に蒸気機関を使おうぜと考えたが、なぜ現代に残っていなかったのか、そこを考えていなかった。


 特に蒸気式の銃は今残っていない。

 火薬の方が、安定で使いやすい。


 蒸気も、水を足せば圧が上がるまで待たねばならないし、水がなくなれば空だきで釜が壊れる。

 まあそんなものだが、試作品を作り、動作させる。


「なあ、楓真。これって、いまいち力が無いなぁ」

「ああ、見た目はごついんだがな」

 ハンドルを付けて、弾の入った枠を回す。


 蒸気の経路が、真っ直ぐになったら弾が飛んでいく。

 おかしい蒸気機関車が走り、半分ゾンビになった主人公達が使っていたものは、もっと力があるように見えた。


 だが出来上がったのは、ちょっと圧の強い吹き矢だ。

 だが、紙を丸めたような弾なら良いが、鉛玉だと重くて飛距離が出ない。


 漏斗式にして、テーパーを付ける。

「重さと、摩擦か」

「昔狩猟用の、空気銃を見たら、弾は前方後円墳ぜんぽうこうえんふん型だったぞ」

 おもちゃの空気銃はプラスチックの弾だが、狩猟用はアルミとかでできているらしい。飛距離は七十メートルほどあるようだ。



「おいおっさん、何か考えろよ」

「むっ、我が輩もか」

 このおっさん、やはり貧乏家の次男、基礎的な知識が足りない。

 偉そうなのだが、町民だし。


 カイゼル髭がおもしろいのか、意外と人気がある。

 この前、暇な奴らに方程式を習っていた。


 重力加速度がどうたらこうたらと、定数が九・八だからとか教えて大丈夫なのか知らないが教育をされていた。


 なんか有名な、いMCが、二畳に住んでいるとか、それは教えちゃやばいとか盛り上がっていた。


 そうその時、俺達は、ピンときていなかった。

 語られていたのは、E=mc2乗の話だった。

 うちの学校に来ている奴、危ない公式や難しい漢字が得意な奴が多い。

 そうそこに気がつけば、火薬や兵器の作り方を知っているマニアがいた。

 何たら時計という薄い本を、じいさんがマニアで持っていたらしい。

 発禁本らしいが、かなりの高値らしい。



 話を戻すと、まあ式を知っても、すぐに核へと行き着けるわけもないと思っていた。

 だが、この世界には魔法がある。

 ただ、その魔法は身内からではなく、敵が使ってくるのだが、この時はまだ知らず、平和な時を生きていた。


 そう俺達はその魔法で、戦場にいた兵達、そして仲良くなった冒険者達もろとも一度死ぬことになる。

 俺が必死で、シールドを張って、光と爆風は防いだ。

 だが、直撃を受けなくとも、あの光は体を蝕んだ。

 その時、福山達は……


 そう、だがそれまでに、大変な思いをしながら俺達は出来ることを行う。


 まあ、あれを受けて死んだと思ったら、グランドで、懐かしい先生達。そして、笑顔で差し出される、反省文用の原稿用紙。

 そこから島に戻ったときは、愕然とした。

 また一からだ。


 その時、死に戻った者は、高校の時へ戻り体が若くなることを発見。一部の女の子は、必死で彼氏の元へと帰った。


 そう、元彼との付き合いがなかった事になり、私の初めてをあげると……

 今となってはそんなに重要ではないが、若くなった嫁さんは意外と好評だったようだ。

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