第17話 巡り会い、村

 サンカウロスの町、近郊の村。


「おーい。今日もいい天気だなぁ」

「おお、明宏どん。精が出るなあ」

「ああ毎晩だ。はっはっは、ぐわっあ」

 後ろから、高野 叶恵の肘打ちが、山田 明宏の背中に刺さる。


 そう、会話の相手は、山路 将文。

 彼女にとって、好きで抱かれた事のある相手。

 そういわゆる元彼、そしてまだ数ヶ月だし、嫌いなわけでは無く、自分都合で離れただけ。

 そんな相手に、こいつは…… いや、知っているからなの?

 焼き餅? えへっ……


「もう、言いふらさないでよ」

 そう言って、明宏に向かい手が伸びる。

 赤い顔をした叶恵。


 皆の格好は、装備のままだとまずいので、余っていた古着を借りた。

 借りたのだが…… 皆で、ひたすら洗い、修繕をした。


 生地は、麻か何かの繊維。どう見ても、そのまま着ると、かゆくなりそうだったのだ。

 だから迷彩のつなぎの上に農民装備。

 

 だが、どう見ても立ち姿が違う。



「なあ、あの農民、学校の奴らだよなぁ」

 そう明宏達は、二年四組。

 

 亀井たちは、二年三組。

 隣とはいえ、普通は何か共通の連れか部活でも無ければ、あまり知り合いはいない。

 特にこの学校、クラス単位で競技会をするため、他のクラスは敵である。


 だが……

「あっ、山田君だ」

 嬉しそうに、間中 美加が飛び出す。

 山田と同中なのであった。

 パタパタと走っていくが…… その歩みが遅くなっていく……


 野良仕事の合間、やって来た女の子。

 甲斐甲斐しく世話を始める。


 その距離感、なれなれしさ、どう見てもやってやがる……

 どいつもこいつも、イチャコラしやがって……


「けっ」

 美加は、ついやさぐれてしまう。

 

 向こうが目立つ服装に気がついた。

「おおい、渡ってきたのか? ……?」

 知り合いの美加がぽてぽて歩いてくるが、目付きが悪い。

 確か、クラスが三組か?

 三組と言えば色々問題があるクラスだ、昔のあいつとは違っているかもしれない。

 

 一応、叶恵にハンドサインで警戒をするように伝える。

 そう、美加はやさぐれたせいで、警戒をさせてしまった。


「そこで止まれ、おまえ間中 美加まなか みかだよな。何の用だ?」

 完全に警戒中、背中に回している手には、絶対ナイフがある気がする。


 ぼんやりしている、美加だが流石にその辺りは理解できる。


「ちょっと待って、山田君、山田 明宏やまだ あきひろ君でしょ。闇の羊中学の?」

「そうだが、その目付きが気になる、何を企んでいる?」

 目付き?


「目付きが悪いのは…… あなたもどうせ、横にいる女と付き合っているんでしょ」

 多少ぷるぷるしながら言い切る。


「付き合っているがどうした」

 叶恵はオレの女だぜ、みたいな乗りで答える。


「やっぱり、どいつもこいつも…… わたしなんかぁ」

 そう言って、泣き始めてしまった。

 知り合いに会ったために、多少安心をしたのだろう。


「えーと、どうすりゃいいんだ」

 悩んでいると、後ろからぞろぞろと出てくる。

 丁度男女ペア。

 手も繋いでいるし……

 ああそうか、明宏は理解をした。


 それでまあ、亀井達は三組のカースト制度について説明、そこから脱出をしてきたと言う説明。

 これからのことについて、どうするかを考えたいと説明をした。


「俺達も、向こうから渡ってきて、この村の人を見かけて情報を貰おうと思ったんだが、声をかけたら丁度手が欲しいからと言って、手伝っているだけだしな」

「近くに町はないのか?」

「聞いた所によると、あるが、住人以外は入るときに、入町税を取られるらしいぞ」

 そう言うと、越智 淳おち あつしがじゃらじゃらと小銭を出してくる。


「どうせ、聞いた感じの文明だと、銅貨とか銀貨だろ、銅貨なら十円でいけるんじゃないか? 聞いた感じだと、どうせこの辺りの文明レベルなら素材の重さだろ、百円とかで銀貨の代わりにならないか?」

 それを聞いて皆は、目から鱗状態。

 昔の鳳凰百円銀貨は、一九五七年と一九五八年に日本で発行された。これには六〇パーセントほど銀が含まれていた。


 そう、現在は違う。ただ珍しい合金であることには違いない。

「百円も銅貨だろ、銅とニッケルか何かの合金だったよな、確か五百円もおなじだよ」

「バレるかな?」

「判らんが、基本偽金は罪が重いぞ」

「それはこの国の通貨だろ。余所の国の通貨だと言えば、重さでいけるだろ」


 そうなれば試そうとなったが、以外と十円を持っていない。

 最近は、小銭が要るときは、カードかスマホで払うんだよぉ……


 そして、彼らが門番に対して硬貨を見せたせいで、少し町が騒然となる。

 見たことがないレベルの規格通りのサイズ、そしてこの世界では作り得ないくっきりした刻印もそうだが、アルミだよ……

 アルミは、ボーキサイトという赤茶けた土から精錬をするが、製錬時に苛性ソーダを用いた融解浴に溶かし込み、千度ほどで溶かした後、電気分解が必要になる。

 軽い金属であり便利だが、実は発見されてまだ二百年くらい。


 そんな金属を見せたら……




  驚く……

 文化外デカルチャーだと……


 門番も、一組の仲間だと思っていたのだから、そのまま通れば良かったのだが、越智達はそんな事を知らない。


 途中、周囲を見回せば、一組の連中が仕事をしていたのだが、気がつかなかったようだ。


「あの奇妙な連中何者ですか? 見てくださいこの金属を……」

「軽いな? もしかして、伝説のミスリルなのか?」


 地球上でもまれに天然アルミニウムが発見されることがある、だが酸化しやすく発見はまれのようだ。


「ミスリルを貨幣に? 彼らは一体何者なんだ……」

 話はすぐに、代官の男爵へ繋がる。


「とりあえず、わたしは、伯爵様に会いに行き、その後辺境伯様に会いに行く。ひょっとすると、王様にまで報告が必要かも知れぬ。彼らを逃さないように努めよ」

「はっ」


 こうして、この町を治めるオサメルーデ=マーチン男爵は、寄親である伯爵に連絡するために旅立ってしまった。

 一円玉は、それはそれは見事な箱に収められて、大事に持っていかれた。

 無論他の硬貨も、大事に持って行かれる。


 そう、均一な形、ハッキリした精細な刻印、ハッキリ言って王国の技術では造ることなど不可能である。


 そうそれは、言うならばオーパーツ……

 時空を越えたところから、現れたもの…… ハッキリ言ってその通りだが、そんな事情を男爵達は知らない。

 知ればもっと大騒ぎだろう……

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