第一章 先ずはサバイバル

第2話 出発。そして開始。

「おら、喧嘩をするな。さっさと並べ」

 修学旅行は学年全部、集まると、クラス同士で当然のように威嚇が始まる。


 だが、一組だけはおとなしい。


「京都方面て、どこですか?」

 気になって仕方が無いから聞いてみる。


「今から説明をするから、落ち着け。いいか京都は北東だ。はい。ちゅうもーく。これから異世界に向かいます。向こうへ進め」

「はっ?」

 ここはグランド。


 北東には、さっき出てきた校舎がある。

 だけど、そこには、運動会とかで使いそうな、アーチができていた。

 まあ修学旅行と言いながら、実習用迷彩服を装備。


「ほら出発だ、あのアーチをくぐれ。一組から行け」

 そう言われて、渋々向かう。


 そのアーチが境界だったらしく、世界が変わる。


 小山の上、森の中にぽっかり開いた広場。

 周囲は木がびっしり。


 奇妙な空間の揺らぎから、生徒達がぞろぞろでてくる。

「よく見りゃ、あのアーチ状に空気の揺らぎが見えるな」

「相変わらず、ぶっ飛んだ学校」

 そう言って、杉原は喜んでいる。



「さてみなさん、ちゅーもーくぅ。ここはデイムンディ、まあ異世界ですね。此処が修学旅行先です。皆さん楽しんでください。そして…… 生き残ってください。それでは解散」

 そう言って、学年主任のティアマト先生は、朝礼台と共に消えた……


「あー、えーと今のだけ? 放置?」

「そうだな」

 クラスのみんなも、状況が判ったようで、集まってくる。


「どうする?」

 皆が聞いてくる。

「サバイバルの基本、水の確保だ……」

 ぐるっと周りを見回す。


 まあ他のクラスの奴らが居てじゃまだが、この始まりの島は、

瞳型に東西に長く、ここはどうも森の中心にある小山。

 

 北側に千メートルくらいの山地がある。 

 周りは海だが、海の向こうにうっすらと島影が見える。

 

「あの山地に向かおう、他のクラスもだが、周囲を警戒しながら移動だ」

「「「おう」」」

 そう言って速やかに、そしてこそこそと、一組は消えた。



 他は……

「おう奴隷ども、水と食い物、それと家を造れ」

 二年三組のボス。

 志賀 雄介しが ゆうすけが、当然のように命令をする。


 だがここは、学校ではないし、装備はB。

 ナイフやロープ、その他必要な物は揃っている。

 当然のように逃げて、彼らは帰ってこなかった。


 そして、これ幸いと、食料などを探し始める女の子を襲う奴達。

 学校から離れた開放感から、猿たちは動き始める。


「おおっ、あれ良いんじゃね」

「別のクラスか。まあ良いか。襲われても、大体は恥ずかしがって内緒にするしな」

 だが、こいつらのクラスは、はまとまりなく動いていたが、普通はしない。


 二人の女子に飛びついたとき、当然だが叫ばれる。

「きゃあ、なに、だれかあぁ」

 あわてて、口を押さえて、思いっきり指を噛まれる。


 流石に躊躇され、ちぎれることはなかったが、かなりの痛み。

「この野郎」

 そう言った時、誰かが背後に来て、思いっきり蹴飛ばされる。


「だいじょうぶか?」

北川 雅美きたがわ まさみと、森谷 めぐみもりたに めぐみ は、やって来た長谷川 俊一はせがわ しゅんいちの側に駆け寄る。


「なにすんだよ、足元が危なそうだったから助けたのに、その女、俺の指を噛みやがった、慰謝料を払わせる。渡せよ」

「何言っているのよ、いきなり背後から来て、むっ胸を揉んだじゃない」


「嘘つくんじゃねえよ」

 五組の、葛山 正くずやま ただし皆川 哲平みなかわ てっぺい海東 研吾かいとう けんごは調子に乗って喋るがいつもとは違った。


 ぞろぞろとやって来た、二組の連中。

 近くに居たんだろう。


 一人が、いきなり葛山を殴り始めた。

 それを切っ掛けに、一方的にボコられる。


「畜生、覚えてろ」

 そう言って、三人は逃げ出した。


 だが、飛び込んだ藪の向こうは谷だった。

 一〇メートルほど落ちて、動けなくなっていたところに、奇妙な生き物がやって来た。

「ぐぎゃ?」

 かわいくないが、小首をかしげて少し見た後、躊躇なく棍棒で殴られた……


 ぐしゃっと……


 目が覚める。

「あれ?」

「早いな、クラスと名前」

 先生はテントの中でどっかりと椅子に座り、目の前の机には紙が積まれていた。


「こちら側と向こうでは時間が違う。せめて三日、三十年は暮らしてこい。ほら、反省文一〇枚、早くしないと向こうの流れは早い。皆について行けなくなるぞ」


 そう言っている間に、向こうで死んだ奴らが、次々と湧いてくる。

「ほら反省文」

 先生は説明をするのが面倒になったらしく、説明の立て看板を立てる。


 そして反省文を渡すと、生徒はまた消えていく。現れた場所は死んだ地点ではなく、始まりの島、最初の場所。小山のてっぺんに戻る。


「ええっ、またあぁ」

 食べてはいけなものを、つまみ食いして死んだ女の子達。

 死んで帰る時は、当然装備もない。それは地味にきついハンデとなる。


「皆の所へ急ごう」

 そう言って走って行く。


「俺達も、装備を探そう」

「おっ、おお」

 葛山達は焦って探すが、ロスは向こうで三〇分以上、すでに七六日がこちらでは過ぎていた。

 来たときは、春っぽかったのにもう夏。

 当然装備もなく、樹海を彷徨うことになる。


 次々に生徒は現れて、駆けだしていく。


 困った葛山達は、適当な生徒の後を付いて行く。

 まあ良くある話し。


 だが…… 

 そこにいたのは、いつか見た連中……

「また女子を狙ってきたのか?」

 今度は躊躇などなかった。

 此の数ヶ月の間に、彼らは幾度となく戦闘を繰り返し、外からの暴力には躊躇してはいけないと理解をしていた。

 口だけの反省も…… 当然信用をしない。


 そしてここは、学校の生徒以外に、獣と未知のモンスター達がいた。


 さらに、暮らすうちに、魔法を使える者が現れ始める。

 そう、ここは。神の創った訓練場。

 此処で彼らは、剣と魔法、そして強靱な心と不屈な精神を鍛えあげる。

 来たるべく聖戦のために。


「ほい、反省文」

「はい……」

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