第2話 ~煙々羅は情報収集する~

「んでぇ!情報は出揃ぉたんかぁ!?」


『粗方ね。そっちの方はどうかしら?』


「あぁ!天気が良ぅてほんまにバイク日和や!」


『そっちの音うるさくてあまり聞こえないのだけれども、ろくでもないこと口走ってるのは分かるわ』


「まぁ待っとってな!わしが速攻凄腕の情報屋ひっ捕まえて!そのシャドーなんとかの情報が出回ってへんか!探してみるわ!」


『あの爺さんのところに行くつもりね。分かったわ、それならこっちもこっちで動いておくから、爺さんによろしく言っといてくれるかしら』


「分かった!ほな切るわ!実際あんま片手運転良ぉないしぃ!」


 益努奈々えきど ななとの通話を切り上げて、例の凄腕情報屋のところに急ぐ設楽鈴男したら すずおは、自身の煙々羅えんえんらの能力を使い自身の車体をなぞるように煙を出し身を隠し、相棒の違法改造したバイクによって法定速度を遥かに超えたスピードを出し、颯爽と高速道路を駆け抜けた。


「やっぱわしの相棒はこうでなくっちゃな!久々のデートを完璧に楽しむ……っと、もう高速抜けちまったか。そういや高速以外は使っちゃいけねぇってお上から厳しく言われてるんやったっけ?しょうがねぇ、すまんな相棒……」


 人外は限定的ではあるが、他者に影響を及ぼす可能性がある能力を解放できる場を設けており、鈴男の場合は趣味のバイクに関連付けて、高速道路限定でその能力の発動が認められている。


 鈴男の能力である煙は、一見視界不良になり事故に繋がりかねない高速道路で使うには少々危険な能力ではあるが、インヒューマ株式会社は建設業にも手を出しており、そちらの方面から高速道路に人外専用の車線を設けるなどして、その危険性を取り除いている。


 他にも日光が苦手な人外など、ある特定の環境下で何らかの症状が出る人外に対しては特注の道具や薬などを出している。


 西宮ジョンソンもその一人であり、特注の日焼け止めを塗ることによって、日中での活動を可能にしているが、それでも道具や薬には限界があり、長時間条件下に晒されるのはやはり危険である。


 インヒューマ株式会社を立ち上げた人外の経営者である『獅童波陽しどう なみよう』は、将来的にあらゆる人外が弱点であるその環境にも喜んで行けるような、そんな害の無い世界を歩んで欲しいと自身の小説で書き綴っている。


 ちなみに獅童作の小説はかなり売れており、昨年アニメ化も果たしたほどだが、やはり作中で語られる人外の考え方はそこまで広まらず、この世に人外がいるとは思っていない世間の人間からしたら、それは単なる小説の中の登場人物の言動としか思ってもらえなかった。


 そのため獅童は近い将来に世間に対して、決定的に人外の存在を明らかにするべきだという名目で度々会議をしていたが、理解できない物を徹底的に排除する人間の恐ろしさを何世紀も前から身をもって体験している他の人外達はどうしても同意できずに、それも他の事業の企画書に埋もれて行っている状況である。


「よう狸の爺さん、そういえば奈々ちゃんが爺さんの情報毎度助かっとるって言うてたぜ。はい、これ土産」


 鈴男はいつも銀次の情報屋を訪れる際は、決まって新田庵の粒餡の薄皮饅頭をお土産にしている。


 少し狭い路地裏の壁に突如現れるこの店は、人外御用達の情報屋で實蔵銀次さねくら ぎんじ、様々な地方の情報を手紙として、自身の蔵に貯め込んでいたことから通称『消息蔵の銀次』と呼ばれている。


「ふむ、アンタ誰じゃったっけっかのぉ……」


「はぁ、鈴男やで。すーずーお、爺ちゃんも遂にボケたか」


「あぁ、鈴男かぁ……すまなんだ。すっかり忘れておったわい」


「こら情報聞けるか怪しいなぁ」


「だっはっはっは!何言ってんだ鈴男ォ……こんなジジイの演技すらも見抜けねぇって言うんなら、今回の任務も鈴男じゃあちとキツそうじゃのぅ」


「はん、今のが演技か、大根過ぎてわしは間違ぉて野菜の無人販売所に来たのかと思うたで。そんなこてこてのジジイ節で喋ってりゃ生まれたばっかの赤ん坊ですら気付くで」


「なはは、やっぱ鈴男のは面白いなぁ」


「てめっ、ジジイ馬鹿にしてんやろ」


「面白さで言えば秀雄の詩ぐらいかのぅ。いや~叶うならまたあの珍妙な詩を読んでみたいのぅ」


「秀雄って言うたら大正ん時のくそ面白おもんない坊主やないか!やっぱ馬鹿にしてんな!てかジジイ良く覚えてたなその名」


「あんなの記憶に残って無い方がおかしいだろうに……まぁ良い、とりま仕事開始だで全員集合!」


 銀次が狭い店の奥に向かってそう声を掛けると、小さな狸がひょこひょこと8匹奥から二人の仕切りとして役目をはたしているカウンターの上に並んだと思えば、その狸たちは一斉に喋り出した。


「お!煙々羅のガキじゃねぇか、久しぶりだなぁ。今日はどの情報が欲しい?」

「おでがあづめた情報さ見ってってけろ~」

「俺ら八百八狸の情報収集能力に恐れおののけ!」

「あの、よかったら私のも~……」

「静江ェ……この坊主は誰だ?初めて見る顔だ」

「アンタぁ忘れたんかいな!?煙々羅んとこの一人息子じゃがな!」

「最近仕事なくてさぁ~暇なんだよねウチら」

「鈴男君!ささ、なんでも言ってくだされ!お代次第でどんなお題もこなしてみせましょ~!」


「そう一変に喋りなや!わしは聖徳太子やないで!」


「まぁまぁ鈴男、幸子の言う通りほんと~に暇だったんだよ。久々の来客に興奮してるだけださ」


「まぁええ。それでや、単刀直入に言う……シャドーなんちゃらって人外の情報無いか?最近何やら事件を起こしとる奴や」


「あの、私それ知ってるかもです……シャドーピープルですよね?それなら最近私らの網にそんな話が掛かってました」


「ほう、それ詳しく聞かしてや」


 狸の三理恵がそれについて話し始めると同時に、銀次がお代を出す為にそろばん弾き始めた。


「ほい、これが今回のお代や。ありがとさん」


「毎度ッこちらこそ!」


 件のシャドーピープルの情報を手に入れた鈴男は、それに対してのお代を経費で落とし、バイクで来た道を戻り西田マンションへと向かい始めた。

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