閑話 バイマンの支援
バイマンの屋敷。執務室にて。
「……はぁ」
その屋敷の主バイマン・ブレイズは、書類整理をしながら大きなため息を吐いていた。
仕事が捗らないのではない。こんな時であっても仕事をこなせてしまう自分に対し、ほんの少し嫌気が差していたのだ。そして、幾つかの不安要素もあった。
(カイト殿の予言によれば、ユーノの身に危険が及ぶまであと五日。逆説的に考えれば、あと五日は命の心配はない。……だが)
命の危険がなくとも、
出発前に行ったユーノを救う為の作戦会議。その中で誰もが気づいていながらも、敢えて目を逸らしていた問題を、今になってバイマンは見据えていた。
バイマンは神族の偉大さ、そして恐ろしさを身をもって知っていた。
(今回の作戦の要はカイト殿とヒヨリ殿。しかしそれを送り届けるためとはいえ、ライを親善大使団の代表にして本当に良かったのだろうか?)
親善大使とは言うが、それはただちやほやされる役職ではない。文字通り国同士の親善のため、
今回ライ達に同行したメンバーは、開斗とヒヨリ以外ほぼ全員がこれまで聖都への大使団に参加した事のある者で占められている。いざとなればライの補佐が出来るようにと急ぎ選抜した者達ではあるが、それでもまだ不安が残る。
自分にまだやれる事は無いのか? 少しでも息子達の為に出来る事は無いのか? バイマンがそんな自問自答を続ける中、
コンコンコン。
「バイマン様。王都より手紙が届いたとの事ですが」
「手紙? ……ああ! 確認と許可証の件か」
扉の外から聞こえる使用人の報告に、そういえば以前王都に問い合わせた勇者に対しての王家の立ち位置と、申請した聖国への通行許可証の件を忘れていたなとバイマンは思い当たる。
本来申請した許可証を待って聖国へと向かう筈だったが、緊急事態により親善大使団という特例を使った事で不要になったそれ。
しかし、今から追加で聖都に人員を送るにしても準備が要るし、移動時間を考えると到着予定は時間ギリギリ。それではライ達の手助けになるどころか、下手をすれば交渉の邪魔にもなりかねない。
折角送ってもらって悪いが不要になったと王都よりの使者に伝えようとして、
(……待てよ? 王都からにしては大分早いな)
こちらからの書状が予定通りの期日に着いたとして、そこから即許可証を発行して返事をしたため使者を出したとしても、王都との距離を考えればもう少しかかるものだとバイマンは考えていた。
しかし現実に来ている以上、まずは応対するべく部屋を出て屋敷の入口へと向かうバイマン。するとそこには、
「……なんだお前か」
「なんだとはご挨拶だな。わざわざ帰るついでにお前への手紙を届けてやったのに」
ニヤリと笑って書状を差し出す、冒険者パーティー『鋼鉄の意志』のリーダーミアの姿があった。
「ついでって、こういうものは専用の配達人の仕事だろうに」
「安心しろ。
「わざわざ言わずとも知っている。……どれどれ」
書状を早速開いて目を通すバイマン。他者が盗み見ようにも、目の前で周囲に目を光らせているミアが居る中でやる者は居ない故である。
(……おおよそはこちらの読み通りか。オーランドが持ってきた書状は正しい手続きを踏んだもので、王家は特に介入するつもりはない。この件はやはり国からの支援は受けられないか。通行許可証の方は……アイツめ。無茶をしたな。ありがたい話だが)
これを持つ者とその同行者は、期限内であれば王国と友好関係にある国全てに大手を振って出入国出来るという最高級の許可証。王族が持ち主の行動に責任をとるという最大級の身分証明。
友人の深い友情に感じ入りながらも、今となっては不要になったこれをどうしたものかとバイマンは思案し、
(……待てよ? これならもしや)
ふとバイマンは気がついた。自分の手には関所だろうと極論ノータイムで突破出来る通行許可証。そして目の前には、自分が信頼出来てかつ高速の移動手段を持った戦友が居る。ならば、
「……ミア。一つ尋ねるが、メンバーの体調はどうだ? 今急ぎの依頼などは?」
「うん? 丁度王都の依頼は片付いたし、この前の襲撃で手傷を負ったメンバーも大分良くなった。そろそろデカい依頼の一つでも受けようかと思っていたが……何かあったか?」
「ああ。一つ特大の任務を依頼したい。今聖都で
「……詳しく聞かせろ」
その半日後。村を幾つかの影が出立した。
◇◆◇◆◇◆
限られた時間で出来る限りの準備をして開斗達を送りだしたバイマンでしたが、まだ何か出来る事はないかと手を尽くしています。
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