「遠すぎた橋」登場人物一覧

 帝国皇帝直属特務部隊 通称「ウリル機関」関係



 ヤヨイ・ヴァインライヒ


 突如発生したポールシフトにより滅亡しかけた人類の千年後の世界。最大にして最強の国家「帝国」の首都に生まれ育った20歳の大学生。本作の主人公。

 帝国の最高学府「バカロレア」で電波工学を専攻し院生として電波の研究に当たっていたところ20歳を迎え、帝国の国法に従って徴兵される。新兵訓練を受けている途中で特務機関のウリル少将に見いだされてリクルートされエージェント兼、アサシンとなる。平民出身。ヤーパン系の母とドイツ系の父を持つ。母は国母貴族、レディー・マリコ・フォン・シュトックハウゼン。空手の達人でそれをさらに磨きあげた、最強の殺人技を持つ。

「レオン少尉反乱事件」「戦艦ミカサ拿捕事件」など数々の事件を経て正式に士官に任官。特務少尉としての最初の任務で、対チナ戦において一時的に空挺部隊に転属され一小隊の指揮官を務める。

 いつの日か宇宙船に乗って月まで行くのを夢見ている。帝国の他の平民と同じく実の父を知らずに育ったが、任務中に実父ヴァインライヒ男爵の消息を耳にし、いつか会える日が来るのを願っている。



 ウリル少将


 皇帝直属の特務機関の責任者。敵国に浸透するスパイ網を統括するスパイ・マスターであり、国内にあっては帝国の存立と将来に障害となる、あるいは障害となりそうな人物を調査し、排除する。

 ヤヨイのエージェントとしての素質を見出し徴募する。少数民族出身の平民。帝国皇帝の甥でもある。

 ギターでバッハを、ピアノでベートーヴェンを奏でるミュージシャンでもある。



 シャルル・リヨン中尉


 ウリル少将の副官兼ヤヨイの先輩エージェント。日ごろは無口だが常に陰でヤヨイを見守り、支え、重要な場面で彼女に示唆を与える貴重な存在。貴族出身。元の名は、シャルル・キャピュレット・ド・リヨン。頭脳明晰にして帝国軍の全ての将軍の顔と名前を記憶する驚異的な記憶力と果敢な行動力も併せ持つ。だけど、こと恋愛に関してはめちゃめちゃ不器用。ヤヨイと数々の任務を共にするうちに密かな思慕を持つにいたるが、未だに振り向いてもらえないでいる。



 マーガレット・サッチャー准尉


 ウリル機関の女番頭。機関のことなら何でも知っている。機関の中で唯一ウリル少将にタメ口を利けるとの噂があるが、真偽のほどは定かではない。物語のサブストーリーとして登場する、帝国と手を結ぼうとする北の野蛮人の案内係を務める。



 イマム先生(第一作「優しい狩人」に登場)


 ヤヨイのリセ(中学高校)時代の体育の先生であり、ヤヨイにカラテを仕込んだ恩師であり、ヤヨイの初めての恋人でもある。ウリル少将の異父弟。ウリル少将は彼を通じてヤヨイを発見、発掘した。特務部隊の武道の指導員を兼ねている。




 帝国政府関係



 ヤン元老院議員


 帝国の最高立法機関であり最高議決機関であり最高司法機関である元老院には約600名ほどの議員がいる。ヤンはその一人であるとともに、皇帝の子息として内閣府を主導し、帝国の内政・外交・軍事に渡り皇帝を補佐する「国務長官」でもある。皇帝の人となりと心の内を誰よりも熟知し、その理想のために奔走する。

 帝国皇帝との血の繋がりはない。30年ほど前にチナ王国との戦争で保護された「盾の子供たち」のひとり。ヤヨイに軍人最高の勲章である「アイゼネス・クロイツ(鉄十字章)」を授与し、ウリル少将と共に早期の戦争終結のために尽力する。


 筆者の敬愛する田中芳樹の「銀河英雄伝説」に登場する「自由惑星同盟」の司令官「ヤン・ウェンリー」から名前をいただいた。



 マーサ


 ヤン議員の秘書。容姿端麗頭脳明晰。帝国最高学府「バカロレア」出の才媛。貴族の出でありながら、ヤンの人となりを慕い議員秘書を務め、公私ともにヤンを支える。



 帝国皇帝


 ヤヨイたちの生きる帝国の最高権力者。

 帝国の皇帝は専制君主ではない。ドイツ語の「カイザー」、ロシア語の「ツァーリ」の語源であるラテン語の「カエザル」が帝国皇帝の尊称になる。同時に元老院議員中の第一人者を指す「プリンチェプス」であり、英語の「エンペラー」の語源である帝国軍全軍の最高司令官「インペラトール」をも兼ねる。この「カエザル」にして「プリンチェプス」であり「インペラトール」という、帝国の権威と立法行政の長であり軍事の長でもある存在が帝国皇帝である。

 帝国は皇帝の子が皇帝になる「世襲」も認めていない。古代ローマの顰(ひそみ)に倣(なら)う帝国は、その指導者の選出についても古代の大帝国のやり方を踏襲した。元老院議員の中から抜擢され承認を受けた皇帝である。しかもかつて帝国と敵対し後に併合した南の国の出身である。帝国初の平民出の皇帝でもある。


 本作の帝国皇帝にはモデルがいる。

 古代ローマ帝政期の第二代皇帝ティベリウス帝がそれである。

 何人もの軍団長や執政官を輩出し、ハンニバルを撃退した有名なスキピオ・アフリカヌスも出した名門クラウディウス一門出身の貴族であり、初代皇帝アウグストゥスの死の10年前に彼の養子となった。

 彼の正式名は「ティベリウス・ユリウス・カエサル(Tiberius Iulius Caesar)」であるが、この「ユリウス・カエサル」という名前は以降代々の皇帝に引き継がれる尊称となる。因みに第三代皇帝である有名なカリグラ帝の正式名は「ガイウス・ユリウス・カエサル・ゲルマニクス」で、初代皇帝アウグストゥスのひ孫になる。

 ティベリウスは長くゲルマニア戦線を担当する司令官をしていたが、アウグストゥスによって後継者に指名され元老院と市民による承認を受けて即位した。謹厳実直軍人気質のカタマリのような人だった。元老院の堕落と腐敗が許せない真面目過ぎる皇帝でもあった。

 7月は英語で「July」、8月は「August」であるが、これはそれぞれ7月生まれの「julius」カエサルと8月「Augusta」生まれのアウグストゥスに因んだことは有名な話である。

 ある時元老院で、「陛下の御名も月の名に」という提案が持ち上がった時、

「では皇帝が十一人になったらどうするのか」

 そう言って下らない提案を退けたという逸話がある。

 長く連れ添ったヴィプサーニアという愛妻がいたが、アウグストゥスの命によって無理やり離別させられ、かれの娘であるユリアと娶わせられた。

 良妻だったヴィプサーニアに比べ初代皇帝の娘ユリアはとんでもない悪妻だった。何度も浮気を繰り返し、果ては不満分子を集めて帝国の転覆を図ろうとまでした。ティベリウスは妻を流刑に処し、晩年自らも地中海に浮かぶ孤島にヴィラを建てさせて隠遁してしまった。公私ともに現実世界に嫌気がさしてしまったのだという人もいる。だが退位したのではなくそこから「リモート」で腐敗した元老院を操縦し、77歳で老衰で亡くなるまで政務を執り続けた。孤島に隠棲してからは女人を近付けることもなく一度もローマに帰ることもなかったという。



 アラン・フリードマン調査官


 帝国内閣府の傘下に資源調査院という役所がある。文字通りの役所で、帝国が必要とする資源を調査し、それを採掘する業者を募る。

 元は徴兵されて第十三軍団の偵察部隊に配属になっていたが異常なほどに聴力と視力が優れていたためにヤヨイのレオン少尉捕捉作戦に加えられ、狙撃の名手リーズルと共にレオン少尉の最後にも立ち会った。アランはその秘密の漏洩を防ぐために資源調査院に転属になったのだった。




 帝国陸軍関係


 第三軍「マーケット」作戦関係


 グールド大佐


 近衛第一師団所属第一落下傘連隊の連隊長。今回の対チナ戦のために新設された落下傘部隊のボス。「高いところが好きで敵地のど真ん中で平気でいられるバカ」を集めるために奔走し、急ごしらえの連隊を指揮してチナ本国までの街道の橋の確保を任務とする「マーケット作戦」を遂行しようとする。ヤヨイの属する「学者大隊」も第一落下傘連隊の所属になる。いつも陽気で機嫌の良さを失わないマッチョ。



 ヘルムート(ヘル)・ハーベ少佐


 第一落下傘連隊の副連隊長的なポジションで、ヤヨイたち「学者」大隊と同じく「マーケット・ガーデン作戦」の最終目的地であるアルムの街に架かる橋を占拠、防衛する任務を果たしている。彼の大隊は「大工」大隊。彼の実家が大工だったからこの名が付いた。

 ヤヨイがレオン少尉の事件で派遣された第十三軍団の偵察部隊出身で大隊長では唯一の実戦経験者。中肉中背で、見たところ温厚そうな田舎のおじさんか、商店のオヤジさんのような人。だがヤヨイは経験から、本当に強い兵とはこういう人を言うのだとなんとなく思っている。これから彼の真価がわかってくる。


 

 エルンスト(エリー)・カーツ大尉


 東の「ヒマな」軍団からグールド大佐の徴募に応じて落下傘連隊に来た士官。「軍人にならなかったら地質の研究をしたかった」ので彼の大隊名は「学者」になった。明朗快活。ナイグンの橋を占拠、防衛する部隊の指揮官でヤヨイの直接の上司になる。常に前向きそうで頼りになりそうだと思っていたら敵弾を受けて精神に異常をきたしてしまう。今後どうなるのか、「学者」大隊の大隊長補佐のヤヨイとしては心配である。



 以下「学者」大隊指揮官


 短い時間で小隊の結束を強化するため、連隊長グールド大佐が一計を案じ、学者大隊12個小隊はすべて、兵たちの投票で各小隊長のニックネームが小隊名になっている。


 リアム・ヨハンセン中尉


 この人も志願組で東のキール近くに駐屯する第五軍団から来た。そばかすの目立つ才気走った少壮士官で、第151期陸軍士官学校主席卒業の秀才である。だが才気が迸り過ぎて奇癖が多かったせいかエリート街道には乗らず辺境に飛ばされていたとの噂もある。「学者」大隊の西側担当中隊の指揮官であり「優等生」小隊長。


 フリードリヒ・オットー少尉

 

 ちょっと太り気味なので「フェットでぶ」小隊長。


 ゼーバッハ少尉


 カードが得意なので「詐欺いかさま師」小隊長。


 ハーゲンドルフ少尉


 実家が鍛冶屋なので「鍛冶屋」小隊長。


 ラインハルト・ウェーゲナー中尉

 うっかり女性兵の着替え中の部屋に飛び込んでしまった「覗き魔」小隊の小隊長としてナイグン橋を守る最重要な丘の守備隊長を務めている。



 ヤヨイが小隊長を務める「マルス」小隊


 グレイ曹長


 生真面目で普段は無口な小隊の女房役。怒ると怖い。だが兵たちが危険な目に遭わぬよう常に目を光らせている。総銀髪のイカツイ顔に似合わず料理が得意だったりする。


 フォルカー・ハイネマン一等兵

 いかにもヤンチャそうな栗色の髪の若い兵。


 ビアンカ・エッケルト二等兵。

 まだ徴兵途中。ブルネットのポニーテールの似合う可愛い娘。


 フリッツ・ローゼン上等兵

 怜悧そうな、才気の迸るような短い金髪の兵


 ヴォルフガング・クルッペ一等兵

 金髪、灰色の瞳の二十歳。無邪気な風呂好き。


 クリスティーナ・エッセン兵長

「マルス」小隊の看護兵。金髪ボブが似合う。


 グレタ・トラウドル上等兵

 女性にしては体格の大きな通信兵。黒髪のボブ。


 カール・ゲーテ上等兵、ミシェル・ルグラン上等兵

 「マルス」小隊降下時のグライダーパイロット。


 リーズル・ルービンシュタイン予備役上等兵


 新兵訓練所で射撃の教官をしていてホモ・ノヴァス(新興成金)の婚約者もいたのにヤヨイに誘われ空挺部隊に参加した。ヤヨイと同じく第十三軍団の偵察部隊出身で北の野蛮人相手に実戦経験も豊富な金髪の射撃の名手。第一作ではアラン・フリードマンと共にレオン少尉捕捉の任に着いていた。レオン少尉の最後にも立ち会ったが機密漏洩防止のため第一線から外されていた。エアボーンに参加したのはスナイパーとしてのフラストレーションがたまっていたからかもしれない。



 第三軍総司令官 モンゴメライ大将


 帝国はあまり大将を作りたがらない国で、帝国陸軍でも大将は彼と統合参謀本部長しかいない。そのため、次に大将に昇進しそうな第二軍ハットン中将に異常なほどの対抗心を燃やしていた。この度の「マーケット・ガーデン」作戦も彼を出し抜きたいがため立案された、というもっぱらのウワサがある。閣下方の対抗心のせいで無謀な作戦の犠牲になる一般の将兵にとってはいい迷惑だったかもしれない。

 彼にもモデルがいる

 サー・バーナード・ロウ・モントゴメリー Sir Bernard Law Montgomery は第二次世界大戦時の英国の将官。欧州戦線の北方部隊を担当し、同じく南方を担当するアメリカのパットン将軍に異常な対抗心を燃やしていた。史実の「マーケット・ガーデン」作戦を立案し連合軍最高司令官アイゼンハワーを説得したのは彼であるが、それはパットンとの確執のゆえであったと言われている。戦後、モントゴメリーは「マーケット・ガーデン」作戦の失敗をアイゼンハワーのせいにしたりしている。退役時は陸軍元帥。これも連合国軍最高司令官の地位を要求したせいであると言われる。だがアイゼンハワーも元帥になったので結局はなれなかった。あんまり性格のいい人ではないかもしれない。

 1948年に子爵の爵位を受け貴族院議員となり毛沢東に会ってしつこくアメリカの悪口を言ったりしている。人種的偏見を持っていたことが第二次大戦時の資料によって窺われる。



 第二軍


 第二軍総司令官ハットン中将


 西部戦線最北の第二軍を指揮する司令官。大将を作りたがらない帝国で次に大将に昇進しそうな優秀な軍人。貴族出身。すでに元老院議員でもある。そのためか、彼よりははるかに老齢のモンゴメライ大将に妬まれ、対抗心を燃やされる。優等生的で理知的で慎重な性格。モンゴメライ大将の提案した「マーケット・ガーデン作戦」に当初から懐疑的だが、いざ戦争が始まるや内心はともかく、作戦の成功のために苦慮する。

 彼にもモデルがいる。が、その性格は慎重とは正反対。

 ジョージ・スミス・パットン・ジュニア(George Smith Patton Jr)はアメリカ陸軍の軍人で最終階級は陸軍大将。第二次世界大戦時は南方軍の第三軍を指揮し、シチリア上陸を成功させナチス・ドイツの勢力を果敢に駆逐し、エルベ川まで進出に成功。川に架かる橋から立小便をし「この瞬間を待っておった!」と破顔したという。軍人一家に生まれ、幼いころから妹と軍人ごっこをし、そのころから自ら「パットン中将」と名乗っていたという。古典文学と戦史に興味を持ち、輪廻転生と北欧神話の信仰者でもあった。騎兵用サーベルのデザイナーでもあったらしい。座右の銘は「Be audacious!(大胆不敵であれ!)」




 タオ


 チナの豪族ミン支配下のナイグンに住む少年。ヤヨイたちが拠点にしてしまった家に住んでいたが、行方不明になった弟を探しに行って帰ってこない父と母を健気にも待っている気丈な子。ヤヨイたちに心を開き、「マルス」小隊のマスコットみたいになっている。奇しくも、チナ潜伏任務中に音信の途絶えたウリル少将の養子であり「盾の子供たち」のタオと同じ名を持つ。賢い子で、豪族の兵の見よう見真似で50ミリ砲をぶっ放したりもするコワい一面も持つ。

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