第53話『砂漠の反乱者たち』
景男たちは、一晩、アリの家に泊まった。アリの家はオアシスの側にあり、昼間は砂嵐も吹き荒れることもあれば、夜になると涼しい風が吹き星空が輝く静かな場所だ。
壁には元漁師なのか小ぶりな網がかかりヴァルガーデンに使役される前の暮らしが垣間見える。
景男はアリに尋ねた。
「オアシスでも魚は
「はい、大物は居ませんが、
景男は、興味深そうに網を触って、アリに振り返って笑顔を見せた。
「
と、景男はアリに笑った。
「あなたの笑顔は人を
景男たちとアリは、反乱計画を練るため何度も話し合いを重ねた。アリは心配そうな顔をしていたが、景男はアリの肩に優しく手を置き、力強く言った。
「アリさん、大丈夫。あなたの仲間たちも皆同じ気持ちだ。オレたちも一緒だよ」
アリは、心配を飲み込むように深呼吸して、決意を固めた。
景男は心の中で、自分がアリにしかける道が本当に正しいのか何度も自問自答した。現実では孤独なニートの自分に仲間たちの命をかけた革命の責任を背負えるのか自信はなかったが、アリの燃えるような決心を見て景男は「オレも立ち上がらなければ!」と覚悟を決めた。
手立てはこうだ。ブラックの軍にもどったアリが仲間と打ち合わせしてブラックに一致団結してブラックに
問題は、アリの反乱を
時を同じくして、アムとアリステロが混乱に紛れて水源を確保する。その頃には、先ほど届いたマックスからの使いハヤブサが、モルデール本軍がタンクホルム山を抜け砂漠に入ったと報告が来た。
それで、ホルサリムの町は解放できる
景男、アム、アリステロ、サンチョ、アリは、ティファの作ってくれたフムス(具のないピザのようなもの)を分け合って食べた。
翌日の朝、アリにターバンとガウンを駆りて景男とサンチョは、ブラックの戦列に入った。
ブラックは、ヴァルガーデンで
ブラックは、兵を横一列に並べ騎馬に乗り一人ずつ兵の顔つきを見て回った。そこに、頭一つ抜けた大柄でガウンの腹が突き出た男が一人いるサンチョだ。
ブラックは、サンチョに向かい、大声に問いただした。
「おい、お前、私の軍の者ではないな。どこから来た」
サンチョは、一瞬戸惑ったが、すぐに思い出したように答えた。
「あっちからきましただ」
ブラックは眼光が鋭くなり、さらに追及する。
「お前が家から来たのは知っている。私が聞いてるのは、お前はこの軍に似つかわしくないから怪しんでおるのだ!」
サンチョの顔には汗が浮かび、心臓の鼓動が一気に早くなった。
サンチョはふと子供時代を思い出した。兄のマックスがいつも彼に言っていことを心に刻んでいた。
「兄ちゃんは言っただ。サンチョお前はおっとりしているけど、それが悪いことじゃない。大事なのは人に親切にすることだ」
その言葉を思い出しサンチョは無意識のうちに
ブラックは、「ほう、お前には兄が居るのか、その兄の名前はなんだ」と問いただした。
景男は、それは言うなと思ったがおっとりサンチョには遅かった。
サンチョは、素直に「オラの兄ちゃんは『モルデール騎士団長』のマックスだ」と自慢気に答えた。
『モルデール騎士団長』マックスの言葉に、ブラックの顔色が一気に変わった。
「何をしておる皆の者、このサンチョとか申す
と、同時にアリが大声で叫んだ。
「みんなもうすぐここに『モルデール騎士団』が到着して、俺たちホルサリムの町を解放してくれる。みんな、今こそ、ヴァルガーデンに逆らって革命を起こす時だ!」
ブラックが軍勢を動かす号令をかける間もなく、アリが素早くガウンに隠したサーベルでブラックに切りかかった。
しかし、ブラックも機敏に反応し、鋼鉄のプレートアーマーで防ぎ、アリを鋭く睨んだ。
「反乱だ、皆の者取り押さえろ!」
ブラックの号令が虚しく響き渡ったが、率いる歩兵は皆、ホルサリムの人間だ。アリに協力こそすれ、アリを捕らえようとは思わない。
すると、それまで静観していた景男が、ガウンの下から
網に絡まれたブラックは振りほどこうと暴れるがバランスを崩して、馬から転げ落ちた。
景男が、「今だ、アリさんブラック将軍を捕らえるんだ!」と言った。
アリが、網に絡まり暴れるブラックの網を押さえつけると、他のホルサリムの兵たちも続いて、網の縁を抑えブラックを
ブラックさえ捕えてしまえば、ホルサリムの解放は簡単だ。ブラックの手を後ろ手で縄で縛って、アリに引かせて水源へ行きホルサリムの守備兵にその様を見せると、抵抗すらなく降伏し水源を返した。
水源を取り戻した景男は、ホルサリムの住民すべてに聞こえるような
「ホルサリムは、これより『モルデール連合軍』の一員だ。みんな、昔のように自由に水を使える。さあ、みんなでオアシスの壁を打ち壊すんだ!」
住民は歓喜した。各々、家からハンマーやらバール、
ホルサリムが喜びに包まれる中、マックス率いる『モルデール騎士団』が到着し、南西のヴァルガーデン平原から南からシリアスとマリーナの使いツバメがアムに使いをよこした。
つづく
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