世界最強女軍人がミリオタ知識を活かして異世界戦争

かむけん

プロローグ 戦争というものの理不尽

 日本の東京都多摩地域中部にある軍用飛行場。第二次世界大戦中には大日本帝国陸軍の航空部隊の飛行基地である多摩陸軍飛行場として運用されていた。だが、アメリカ軍に接収され、現在では在日アメリカ軍司令部および輸送の兵站空港基地となっているのだ。もちろん在日米軍が居座り続ける事を望む者もいれば、一部の日本人からは日本から出ていけと言わんとする者達も多い。戦争の傷が癒えない老人、戦争反対主義者は未だに占領を続けている我々を許してはいないだろう。例え他国からの侵略を守る名目でもだ。


 しかし、特に今日は騒がしかった。現在、横田基地では友好祭が開かれ、民間人にも基地が解放され、お祭り騒ぎであった。戦争反対のプラカードやマイクで日本から出ていけの罵倒はいつもの事であるが……アメコミのヒーローのコスプレをしたアメリカ人から、日本人のファミリーやカップル、日本のミリタリーオタクっぽい太った男性やひょろひょろの眼鏡男性の二人組を見ると、嫌っている者達ばかりでないと安心させられる。


在日米軍基地の空軍中将、カリバー・エクスは軍用車両であるハンヴィーを部下の運転で基地の敷地付近内を走らせていると、金網付近に見慣れぬ展示物があった。それはありとあらゆる兵器で壊し尽くされたかのような車両、ケネディジープM151であった。


「止めろ! これは何の冗談だ?」


「は、はい!?」


 運転していた兵士が急ブレーキ気味に車を停止させると、カリバーが運転席から降りて、展示物のケネディジープに駆け寄った。その車両にはあらゆる箇所に無数の銃痕が残り、運転席と助手席と共に焼け焦げ、妙な形の人型に変形していた。助手席には妙な小さな背丈の人の形の焦げた跡、運転席には大人の人の形の焦げ跡があった。


鉄製のスタンド看板には英語と日本語でこう記載があった。


《少女を助けようとした兵士とその少女の亡骸》と……


 よく見れば、隙間があまり無い運転席と助手席のシートの間には焼け焦げたタクティカルグローブの指の破片がこびり付き、助手席側のシートにはそのタクティカルグローブの指の破片の隙間には溶けたプラスチック片が貼り付いていた。それはダイヤを模したものとプラスチックリングの欠片で、まるで子供の玩具のようだ。ドアには溶けて混じったかのように赤いエナメルの子供用パンプスの先端部分が貼り付いていた。


 ――恐らくはこの車両は銃撃された後、焼夷弾か火炎瓶が投げ込まれたのだろう。それか恐らくはこの車両を銃撃した後、灯油か何か撒かれた後、処理の為に焼こうとしたか……どちらにしてもこの車両には1人の軍人が乗っていて、幼い少女を保護し、その移送中に敵軍に見つかり、殺されたのだ。もちろんこれは簡単な推測にすぎないが……


「なんと……むごたらしい事を……」


 カリバーは思わずおでこを押さえた後、最大の敬意で膝を突いて2人の冥福を祈る為に三本の指で十字を切った。


「……はぁはぁはぁ……その車両は許可がおりたもので……違法な展示物ではありません!」


「これは……誰が許可した? いや……誰が展示を提案した?」


 駆け寄った兵士が息を整え、少し沈黙の後、口を開いた。


「……マキナ・エクス大佐です」


 その言葉を聞いて、カリバー・エクス中将は頭を痛めたようにおでこを押さえた。


「……あぁ……」


――そう、マキナ・エクスは我が娘でありながら自軍や敵軍からも世界最強の軍人と謳われる者。彼女が指揮した隊、もしくは参加した隊は100%の確率で勝利した。その機械のように任務をこなし、冷徹に対処し、白い素肌と色素が抜けたような長い白髪、その造られた人形のような整った容姿からは機械天使(マシンエンジェル)とも機械神(ゴッドマシン)などと変な異名が付けられた。


「我が娘は……マキナ大佐はこれを展示していったい何を考えている? 友好際のイベントに展示する物ではないだろ……原爆ドームの展示物じゃないんだぞ」


「……戦争の悲劇を訴えているんじゃないでしょうか? いつもアメリカを守る為にはテロリストどもぶっ殺してやるって思ってましたが……自分もこれを見たら、もし自分が敵地に入って、民間施設を攻める時があれば、敵車両の兵士と幼い少女ごと機関銃で撃っていたんじゃないかって……いえ、逆もあるかもしれませんね。これを見て、いろいろ考えさせられます」


 兵士のロバートが珍しく淡々と言う。そこまで娘のマキナに影響されているという事でもある。恐ろしい娘である。


「……この展示物には誰も反対はしなかったのか?」


「ええ……もちろん反対した者は多くいました。経緯を話されると、多くの者は口を閉ざします。わざわざ紛争地帯の中東からヘリで釣って、輸送機に乗せた手間もかかってますし……それにこの展示物は遺族の方の希望でもあるそうです。これを見て察すれば、誰もが黙りますよ」


 カリバーはもう一度、ケネディジープを見る。その悲劇の車両を見る者は誰もおらず、多くの客の列は横田基地の入口へと向かう。基地内の派手なヘリの音や屋台の珍しい料理の匂いに釣られるように……


「あれ……やっぱり展示場所が悪かったですかね……展示スペースがここしかないのかと、マキナ大佐が怒っていましたが……これは後で会議案件ですね」


「戦争とはむなしいものだな……実際にそこで戦争が起きなければ、戦う軍人や被害者には目もくれない。やっぱり娘の考える事は分からんよ……こんなものを展示しても人の心は変わらん」


 カリバー中将はケネディジープから離れると、軍服の胸ポケットからタバコとオイルライターを取り出し、タバコの1本に火を点け、吸い始めた。


 この数時間後にケネディジープと共に何処の国にも所属しない謎の飛行物体によって基地が爆破されるとは誰も想像はしなかった。

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世界最強女軍人がミリオタ知識を活かして異世界戦争 かむけん @kenkamura

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