第39話 みとめちまえ!ラクになれ!
ほおを、涙が伝う。
真名子先生が、指先で、絵里奈のほおをぬぐった。
「おまえがかわいそうな子を助けてあげたいのは、絵里奈、おまえ自身が、かわいそうだからだ。かわいそうな自分を、だれかに助けてほしいからだ」
先生の言葉が、じわりと何かを溶かした。
「あたしが……かわいそう?」
真名子先生が小さくほほえんだ。
「もう、みとめちまえ。ラクになれ」
心臓がどくんと鳴った。
うつむいて、足元を見る。足はふるえていない。ちゃんと立ってる。礼王くんが心配そうな顔で、絵里奈を見ている。絵里奈は礼王くんにほほえみかけた。大丈夫。
そっと見上げた真名子先生の顔は、もう怒っていなかった。
ただ優しい笑顔だった。
絵里奈は勇気を出して、先生とむきあった。
「先生」
「うん」
「前に、あたしが偽善者かって聞いたとき、大事なことに気づいていないって言ってたよね」
「ああ、言った」
先生の笑顔に、力がわいてきた。こぶしにぎゅっと力をこめる。
「あたし、かわいそうな人のお世話がしたかった……」
言葉にしてみたら、ふっと体が軽くなった気がした。
「そうすることで、自分はかわいそうな子じゃないって思いたかった。だって、うちは家もあるし、食べるものもあるし、お金もあって不自由してない。親もふたりいて、こんなにめぐまれてるあたしが、自分のこと、かわいそうだなんて思っちゃいけないって思ってたから」
声がふるえる。
「あたし、だれからも必要とされてないの……。学校ではみんなにムシされていて、作文も捨てられて」
話しているうちに、学校でのことを次々と思いだして、感情があふれてとまらなくなった。
「家だって。お父さんとお母さんとキャンプにいったのは小学校3年生のときで、今はもう、家族で出かけることなんてなくて」
だれにも話したことがなかった。
クラスの子にも、英語塾の子にも。
お父さんは大人は仕事をして、子どもは子どもの義務をはたさなければならない、と言う。それなら、学校に行けない子は、子ども失格だ。
「あたし……学校に行ってないの……」
お父さんはあんなに疲れてボロボロになるくらい一生懸命仕事をしているのに。
自分が、学校に行けない……不登校なのだと認めるのがこわかった。
「あたし、いていいの?」
くずれおちそうになるからだを、真名子先生がささえてくれた。
「あたし、……ここにいていいの……?」
絵里奈のうでをぎゅっとつかんだのは、礼王くんだった。
「絵里奈、ここにいろよ!」
礼王くんに続けて、桃太くんも「ここにいて」と言ってくれた。
タケシくんも、笑さんも、オサミさんも。
「あたし…………」
真名子先生がニコッと笑った。
「当たり前だろう。おまえも、サバイバル教室の仲間じゃないか!」
みんなが手をにぎってくれた。
この日、この瞬間はじめて、絵里奈は、サバイバル教室のボランティアじゃなく、サバイバル教室の仲間になった。
「世の中は不平等だけどな。ここでは、みんな対等だからな!」
とみんなを見まわした先生が、礼王くんの頭をぐしゃっとつかんだ。
「3年生だけど、おまけだ!」
「おまけだー!」
礼王くんが先生の足にからみつく。
すると、先生が、大きく目を見開いて、手を打った。
「そうだ! ここではみんな一緒なんだから、ここでキャンプすればいいんだ! 合宿だよ! イジメサバイバル教室の最後の日に、この文化センターの体育館で合宿するぞ!」
「ここで?!」
みんな顔を見合わせた。それから、大きな歓声がおきた。
「合宿! 合宿!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます