第59話 爆破の裁き
「邪念を払え。Memory erasure! そして、執着からの解放を」
「わ…たしは、わすれ……たくない」
「拘ることは悪いことではないわ。それでも、哀しい、悔しい、虚しいは全部心に留める必要はない。私にばかり束縛されてないで、自由に生きなさい」
頭を掴まれたサーメスは、その場に倒れ込んだ。同時に銀髪が落城する。不思議と顔は穏やか、瞳を閉じ、少し口元が緩む。事態に気付く金髪と筋肉の塊は、体を受け止めようと距離を詰める。しかし、逸早く両の手で背中を支えた人物がいた。
「ぜー、ひゅうー、お疲れ様…セーレちゃん。ぜー、すぅー、はー。頑張ったね。そうだ、ご褒美をあげないと。私の隠れ家にあるベッドへ運んで体を拭いた後、愛し合おう」
何やら前方から獣の吐息が聞こえくる。4本足は猛烈な速さで標的となる獲物に狙いを定めた。窮地に立たされているとは露知らず。スヤスヤと眠る白髪の美しき顔を眺め、満足そうな顔をする。ふと、金髪の叫び声が波紋を投じた。
「セーレから……」
「うん?」
「離れろ! ルーサー!!!」
2匹の狼が助走を付けた状態で肩甲骨を向け、チャラ男ルーサーの膝へ体当たりした。しゃがみでも身長があったため、向こう
「痛いーーーー!!」
「バク、お願い!」
「あいよ」
バクは、立ち上がったルーサーの頭をチョップした。さらなる追撃を受けて、地面をのたうち回った。その様子を見る男は、陽光を背にし高笑いするのであった。
「セーレ!」
スライディングキャッチは成功。荒野をすべった動摩擦力が働き、シルカの高そうなスカートは破れた。当人は全く気にする素振りを見せなかった。なぜなら、セーレに「傷1つ負わすことなく無事だった」からだ。
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
白髪を優しく手で撫でる。愛らしい猫みたいにゴロゴロと甘えた顔。2人だけの世界に華を添え、静寂な時が流れていく。月と太陽の輝きに入ろうと、男が行動を移す。しかし、その目は大胸筋しか見ることができず、その場で地団駄を踏んだ。
「邪魔だよ、バク。私が協力したから、シルカちゃん、セーレちゃんにも会えたんだ。少しくらい役得があってもいいだろう」
「役得か? まさに今、ルーサーはバクの筋肉を見ている。それが役得だろう」
「そんなのは、いらん! 私は美女達の戯れに囲まれた……」
発言を許す前に、バクは膝を狙い、軽めの蹴りを入れた。ルーサーは黙り、またしゃがみ込んだ。「やれやれ懲りない男だ」っという勇ましい顔立ちで、左右の胸を器用に動かした。
「シルカ! まだ何かが近くにいる。脅威にはならんから、放置していたが、そろそろ仕掛けて来そうだ。早々に撤退するぞ」
「ありがとう、バク。セーレと共に離脱しましょう」
バクはセーレをお姫さま抱っこで抱き寄せた。ルーサーは「文句を言おう」としたが、シルカが睨みを効かせる。首根っこを掴まれた猫のように、しゅんと大人しくなった。
「セーレ様、シルカ様!」
3人は声がする方向に体を向けた。そこには、セーレとオラクレを運搬していた馬の操舵手が声を張り上げていた。コールと名乗る若者の姿がブレ始める。ザラザラと壊れたテレビが直るように、ルーサーと同じ背丈ぐらいの男が姿を現した。
「ルーサー様。お初にお目にかかります。私は魅力を愛する優勢思考だったオラクレと申します」
オラクレの挨拶に少し驚いた顔をしたのは、ルーサーだけだった。他の2人は油断も隙も見せず、警戒という名の厳しい視線を浴びせた。
「わからないが、私にもファンがいるのかい?」
「はい、正確には先程までは崇拝しておりました。しかし、これからは、見えざる優勢思考へ改宗いたします」
「え?」
ルーサーだけやたら、身振り手振りが
―――そのとき、爆破の裁きが下る。
「ねぇ、うちは誰も逃すつもりはないし、教団の行いを許すつもりはないよ」
地面から狼が飛び出した。
サーメスを噛み付き、シルカの瞳に従う。追随を許すことなく、誰にも真似できない冷酷な視線。破裂した肉の塊は鮮血を降らせ、オラクレに対し死の雨と恐怖を与えた。降り
「うちを探していた教団は全て破壊してやるぞ⭐︎ …って言ったからには全てを破壊する。覚悟してよ」
「怖いって、シルカちゃん」
木っ端微塵となった敵を眺める彼女の名前はシルカ。かつて12人の能力者が発端となった戦争功績者。異常な強さと精神力は、間違いなく最強格の1人。その姿を見た者は、必ず爆破の裁きが下ると言われた者である。
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