†銀髪の居城† -condemner of heart-

第40話 追い詰めるのは

セーレ達は、最牡（さいおす）の馴染みの場所へと向かっていた。そう「バイクの整備士、コーン」がいる工場だ。

「おやっさん」

「おぅ、マーク。元気だったか」

　3度目の再会となったおやっさんとの会話に、子供のように、はしゃいでいた。

「おや、仲間が増えたんか？」

「初めまして、ビィシャアと申します」

　女性がお辞儀をした。

「宜しくな。うん…黒髪のポニーテールか」

「ポニーテール嫌いでしたか？」

　頷きながら答えた。

「そうじゃねぇんだ。前にもお前ぐらいの若い女性で、ポニーテールの女性が訪ねてきたな」

　コーンは懐かしみ、腕を両手に交差し語り出した。

「あれは、たぶん20年前くらいかな」

「て、20年前かよ」

　ツッコミやめろよ。黙って聴け。

「マーク、口を挟むなよ」

「すまん、おやっさん」

「当時は、こことは別の工場で、整備士見習いをしていたんだが、バイクが壊れたと訪ねてきた女性がいてな。確か、名前はエミ＝マーセンって言ったかな。その黒髪のポニーテールも見事でなぁ。嫁にやってくれって言っても嫌って断られるばかりでな」

　驚愕の事実を知ったビィシャア。

「エミ＝マーセン？　あ、母の旧姓です。今は、エミ＝エドモンドですが、私の母のことです」

　コーンは、驚いた顔をした。

　そして、バックヤードへ走っていった。

「急にどうしたのかしら？」

「おやっさん、どうしたんだ」

◆◇◆◇

　5分後。

　バックヤードから、1枚の古ぼけた写真を持ってきった。

「これは、母の若いときの写真」

「そうだ。俺から頼んで撮って貰ったんだ」

　偶然の縁に関心。

「そうだったのか、おやっさんはビィシャアの母親とも縁が会ったんだな」

　セーレがやっと口を開く。

「話を聞かせてくれて、ありがとう。そろそろ、次の目的地へ向かいたいの」

　3人は会話を止め、コーンはバイクを運んだ。

　バイクとサイドカーへ乗り込み、バイザー付きのヘルメットを被った。

「さぁ、行くわよ」

「あぁ、行こう」

「じゃあな、嬢ちゃん達、マーク。またいつでも来いな」

　水没したバイクは、コーンが修理。また走れるようになっていた。バイクの空気音が響き渡る。

　ビィシャアは、錬成の力で赤い馬を呼び出し、騎乗した。

「助かったわ、ありがとうね」

「おぅ、嬢ちゃん。気を付けてな」

「じゃあ、おやっさん。お元気で」

「マークもしっかりとしろよ」

「コーンさん、母のことを教えてくれて、ありがとうございました」

「機会があれば、また話しような」

　3人は、最牡入口を再び出発した。

　果たして、この先、彼女達にどのような「運命が待ち受けている」かは、誰にも予測することはできない。

◆◇◆◇

「いつまで、歩かせるんだよ」

「テマ様、申し訳ございません。もう少しで到着します」

　煉瓦を積み上げた螺旋階段を登るのは、テマと道案内役の男性騎士であった。

「それにしても、汚ねえ場所だな。本当にアイツがこんな場所にいるのか」

「申し訳ございません。機密事項ですので、そういった発言は面会したときにお願いします」

「まぁ、いいか。アタシは約束を果たしたんだ。ご褒美の1つくらい、くれてもバチは当たらないだろう」

　テマと見習い騎士の目の前に、鉄の扉が見えてきた。

　つい最近開けられたのか、取っ手部分が妙に綺麗だった。

　左右には松明（たいまつ）が飾られ、火が灯っていた。

「あの扉の先かい？」

「はい、テマ様。長らく、お待たせしました。あの扉の先にあの御方がいます」

　見習い騎士が扉を開く。下り階段で奥が全く見えなかった。

「おい、暗いぞ。これじゃあ、先に進めねぇよ」

「ご心配なく」

　蝋燭を1本取り出し、入り口の松明から火を焚（く）べた。そして、ランプの差込口に入れ、ガラスカバーを被せた。

「なるほどな、原始的だが、これなら先に進めるか」

「この階段を降りれば、目的地です」

　手招きし最下層へ。

「そうかい、ところで何でアイツは、こんな牢屋みたいな所にいるんだ？」

「そうですね。私が伺っている話では、自らを戒めていらっしゃるとのことです」

　意味がわからない。

「戒めって、何をしてるんだ？」

「何でも相手と同じ環境に身を置くことで、その方の思念と感情を読み取るらしいです」

「ふーん、そうかい」

　階段を下り終える。巨大な牢屋が目の前に現れた。そこに1人の男が「憂鬱そうに体育座り」していた。

「それでは、テマ様。私は近くにいるので、用があれば話掛けてください」

　見習い騎士は、傷んだテーブルと椅子がある場所まで歩く。持ってきたランプをテーブルの上に置き、入門記録ノートを取り出し、ボールペンで書き込み作業をしていた。

「こんな牢屋みたいな所で、何してるんだ？」

「これかい。これは、修行と同じさ。同じ環境化に身を置くことで……」

「さっき、そこの見習いから聞いたぜ。とにかく……アンタの頼み通り、教団と手を組み、セーレの兄を仕留めたよ。これで、セーレは、また独りぼっちだ」

　テマの報告を聞く男は、牢屋の1点を見つめて、ぼんやりとしていた。

「おい、もうアタシへの依頼は終わったんだろう。これで終わりなら、アタシは帰るぜ」

「まだだ！　後1つ頼まれてくれないか」

　強い口調で引き留めた。

「人使いの荒い奴だ。まぁ、あんたの頼みだから、断れねぇーか」

「セーレには、辛いだろうけど。まだ足りないんだ。もっと彼女を徹底的に追い詰めないと」

「それには、同感だが、あんたも非情な男だね。そうだろう？　アーネス」

　かつての仲間。擦れ違う月と指揮者。我が物と欲求全開で追跡者へ指示。さらなる狂気の深淵を覗く。真意を献灯し牢屋で時を待った。