第2話拭えぬ不信感

 理久は、池の巨大ナマズを警戒して池を横目に見る体勢を取ったが、イケメン獣人団長は、理久の右腕を掴んだまま離さない。

 正直理久は、目の前にいる、姿はイケメン獣人だが、自称治安兵士団団長を信用できなくてかなり迷う。

 いや、正確に言えば、このイケメン団長だけでない、この異世界の獣人全てが全く信用出来ない。


 「本当に、お前を助けたいだけだ。俺と来い」


 しかし、イケメン団長は微笑みそう言うと、理久の腕を握る力を強めた。

 理久はビクっとした。

 団長は微笑んだままそんな理久を見て、まるで根気良く理久を気遣うかのようにイケヴォで優しく言った。


 「団員達の所へ行こう。多分もうお前を売り払おうとしてた奴らは全員捕まってるし、お前を助けたい」


 (俺は、この獣人を信じて一緒に行ってもいいのか?)


 理久は、団長の優し気な笑みをじっと見詰めながらしばらくまだ迷う。

 しかし、横の池から、又巨大ナマズが高く飛び跳ねて、又水中に戻り巨大な水飛沫が上がる。


 (この世界に何がいるか分からないし……今は、この男を信じて付いて行くしかないか…)


 理久は、再び池に出来た大きな波紋を横目で見てそう思うと、今度はチラリと団長の顔を見た。


 「歩けるか?」


 団長は、優し気に理久の目を見ながら尋ねた。

 理久は、やはり獣人を信用できず戸惑いながらもコクリと頷いた。しかし、本当はもう理久の体はふらふらだった。それでも、理久は気力を振り絞った。

 

 「でも、もし歩けないならすぐに言え。よし!行こう」


 団長は、又爽やかな笑みを浮かべると、今度は理久の左手を団長の右手で握った。


 「えっ?!」


 理久は驚く。

 団長は、その反応に一度理久の目を見て何か言いた気だったが、

黙って理久の手を引いて理久の前を歩き出した。


 理久の目に映るイケメン獣人団長の背中はやはり広くでデカい。

 正に、黒くてデカい大型犬そのもの。

 そう言えば、理久は小さな頃から、大きくてかわいい犬が飼いたかった。母が犬がダメな人だったので、今もその夢は果たせなかったが。

 そして、理久も170cmは背があったが、イケメン獣人団長のそれは更にもっと高い。

 そんな見た目ワイルド大型犬系獣人の団長は、体全体の筋肉も凄いが決して暑苦しい筋肉では無くしなやかでバランスが良かった。


 「本当に歩けるか?大丈夫か?」


 団長が、後ろの理久を振り向き、優しい声で再び尋ねた。

 理久は、やはり強がり黙って首を縦に振った。

 団長は、しっかり、でも優しく理久の手を握り、団長のその肌の温かさが理久に伝わる。

 そして団長は、理久の歩くスピードにまるで合わせてくれてるようにゆっくり理久の前を歩いた。

 そしてその内理久は、団長から伝わるその温度と歩く速度に、少しホッとしている理久自身に気付き慌てて自問した。


 (安心するのはまだ早い!本当に、この獣人を信用していいのか?治安兵士団の団長だってのも嘘をついてるんじゃないのか?どうしよう……もうどうしたらいいか分からなくなって来た)


 団長と理久が手を繋ぎ歩いて程なく、理久が売られに行く為に乗っていた幌馬車の元に帰ってきた。

 団長のさっきの予測通り、理久を奴隷として売ろうとしていた4人の獣人男達は治安兵士団数名に捕まり縄を体に巻かれていた。

 所が、兵士達の所に帰ってきて理久の手を離したイケメン団長の雰囲気が一変した。

 イケメン団長の表情はキリッと硬く厳しくなり、兵士達に次々に強剛な口調で指示を出す。

 理久は、その豹変に一瞬驚く。

しかし、よく考えると、沢山の兵士達を統率するのにヘラヘラした団長などが務まる訳は無いのかも知れないと思うものの、やはりイケメン団長のハードな迫力に付いて来たのは間違いだったのかもと気持ちがぐらぐらグラつく。

 やがて理久を売ろうとしていた奴隷商達は、団長の指示で兵士達が分乗して来た2台の幌馬車の内の1台にまとめて乗せられ直に床に座らされた。

 そしてふとその様子が、幌の一部が上げられていて理久にもよく見えた。

 すると、奴隷商の獣人達の中の一人が、理久を見て何を思ったかニッと意味あり気に笑った。


 (なんなんだ……あの笑い……キモ…)

 

 理久はそれを見て、嫌悪感となんだかイヤな予感で寒気がした。まるで理久に対して「助かったなんて思うな!」とでも言ってるようにも見えた。

 だがそこに、体の大きな団長が理久の前に背中を向けて立った。

 まるで、奴隷商人の視線から理久を守るかのように。


 (まさか、奴隷商人から見えないように俺を守ってくれてるのか?まさか……たまたま偶然、何の意味も無く俺の前に立ってるだけだ…)


 理久は、団長の大きな背中を見ながらそう思い、獣人への拭えぬ不信感に心の中でため息を着いた。

 そうしている内に、理久と団長

と一部の兵士達をこの場に残し、

奴隷商人達と数名の兵士達を乗せた一台の馬車はどこかへ向け出発した。


 


 


 


 



 

 


 

 


 


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