第29話 狂人の脅迫

「見いつけた!」


 気の抜けた声と同時に、剣閃が迫る。俺はすかさず蹴りを入れて突き飛ばし、敵を遠ざけた。


「しつこい番犬だな、アメリア・ステファノプロス」


 どうやらアメリアもゲートを潜っていたらしい。離れたところに転移していたようだ。おかしい。鉄の檻からどうやって脱出したんだ?


「私ら傭兵は金のためなら何でもする。お前の抹殺依頼は高い報酬がもらえるからな」


「金目当てか。大金を稼いで旅行にでも行きたいのか?」


 俺がそんな皮肉を投げかけると、アメリアは邪悪な笑みを浮かべた。


「いいや。稼げれば魔力強化薬をもっと買える。もっとハイな気分が持続する! 最高だろ?」


 こいつは闘争とそれに伴う快楽に取り憑かれた中毒者というわけか。もはや哀れだな。


「お前の気分高揚に貢献するつもりはない」


「いいのか? そんな口を利いて? お仲間三人を守りながら私を倒せるとでも思っているのか?」


 アメリアは倒れているシェラたちに銃口を向ける。


「それで人質を取ったつもりか?」


「お前は私をナメくさり過ぎなんだよ! これを見てみろ!」


 アメリアはシェラに近づき、服を捲って腹を露出させた。


「シェラに触るな!」


「うるせぇよ! クソガキ! この傷が見えないのか?」


 見ると、シェラの腹部には、縫合痕が5つもあった。ヌバタマ商会で受けた手術痕だろう。痛々しくて見ていられない。


「リアの奴は、年頃の娘の身体を弄るのが趣味でな。寄生虫の卵に弱毒化した癌細胞、薬物入りの袋、魔力爆弾を植え付けている。それがこの手術痕だ」


 リアの奴がそこまでの外道だったとはな。全裸土下座させるだけでは足りなかったか。


「それらを活性化させるのは簡単だ。リアの異能を使えばいい。魅了の異能をな!」


「何が言いたい?」


「スキルコピーが自分の専売特許だと思うなよ? 魅了の異能は私が引き継いだ。この小娘の腹の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜるくらい、簡単だってことだよ!」


 アメリアはシェラの腹部を撫でまわす。


「撃ち殺すんじゃつまらないからな! お前の大切な仲間が苦しみながら死んでいくのを眺めていろ! それが協会に反逆した罰だ」


 俺の不快感は頂点に達した。


「狂うのは勝手だ。勝手にハイにでもなっていればいい。だがな。俺の仲間を少しでも傷つけるなら、容赦しない!」


「おぉ! 怖い怖い! だが少しでも動けば、私の魅了の異能がうっかり発動してしまうぞ? いいのかよ?」


「貴様っ!」


 グラムダルが斬りかかるが、即座に動きが止まり、アメリアに向かって土下座した。


 間違いない。リアの能力だ。ハッタリじゃない。こいつは本当に魅了の異能を受け継いでいる。かなりマズイな。

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