それ

井馬紫苑

1.

私たちは感動しました。でももうそれは私たちの手には負えない。前もって決まっていたのです。あるいは、それは必要なことだったのかもしれません。とにかくそれはそこにありました。


私たちはそれに見られていました。わざわざ、私たちの目に入るようにそれは置いてあったのです。


認めます。私たちはそのことを知っていました。そんなことは言うまでもないかもしれませんが。いずれにせよ出会ってしまった。


それはいまも私たちの手元にあります。当然です。


でも、止めろと言われました。そこにあるのに。そのままにしておけと言われました。もう皮は剝がれていたのに。なら破壊しろと言われました。もりあがってきたところだというのに。


だから、発表することにしました。誰か、見つけてくださいますように。

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