41:準備中

「あの五姉さま。この草はいったいなんですか?」

 さっき会って、帰ってくるときに勝手に着いてきた。

 そんな『環』の視線は最近造った庭の一角にある家庭菜園に向いていた。そこで育てているのは、まあいろいろあるけれど『環』の興味を引いたのは、最近植えた月明かりのようにほのかに白銀に光る草の事だろう。

「それは月光草だよ」

「月光草? 聞いたことがありませんけど」

「あーうん。試作品の【機能】の一種かな。月の明かりがないと枯れるけど、聖なる光を内封しただけの雑草だよ」

「雑草って……」

 そう言われましてもね。

 『病』にも見てもらったが、薬にならないから薬草ではなく。毒にもならないから毒草でもない。食用ではないし、鑑賞しようにも月明かりがないと枯れてしまう。

 もはや雑草以外に言いようがないじゃんね?


「どうしてこんな草を創ったのですか」

「バザールで出す新商品開発の残骸」

 聖を内封した眷属ものを創ろうとして試行錯誤していたら、動物を離れて植物になってしまった。植物になると今度は巨大化し始めたので、どこまで小さくできるのかと祝福できることを削ったのが悪かったのだろう。

 結局できたのは綺麗以外に用途がない雑草それだった。

 使った神力や時間に全く見合わない失敗作。悲しい。


「え……、五姉さまがバザールに出品なさるのですか?」

「うんそうだよ」

 実は前回のバザール終了時、管理者の一人から『次回のバザールにも出店できますか?』という打診があったのだ。

 紹介してくれた三姉さまの顔を潰さないように『もちろんです』と返すのは当然でしょうに。


「えーっとそれはどうでしょうね……

 統括している神に改めて・・・聞いてみた方が良いと思いますよ」

 『環』は『改めて』にめっちゃアクセントを入れている。

「そこまで言うなら聞いてみるよ」

 以前の統括は『能』の男神だったっけ。変わったはと聞いていないから一緒だよね。後で先触れ送っとこう。


「ところで五姉さま、これ私が頂いてもいいですか?」

全部じゃなければ・・・・・・・・別にいいけど、月の光がないとすぐ枯れるよ」

 言わないと全部持っていきそうなので釘を刺しつつもうひとつ。『環』も神なので雑草の刻を止めるくらい出来るだろうけれども、雑草ごときに神力ちから使うのは姉として流石に止めさせて貰った。


「それならご安心ください。私は『環』、衛星の数なら事を欠きません」

「それは月じゃなくない?」

 月には希少性が必要で、数が多けりゃ良いってもんじゃあないんだよ。

五姉さまを再現・・・・・・・するために日々切磋琢磨しておりますので大丈夫ですわ」

 わたしを再現はさすがに言い間違えだよね?

 『月』の権能を再現だよね? 頼むよ『環』、変なことしないでよ? わたしそっくりの生命体が現れたら泣くぞ?

 あ、でもこの子の部屋ってわたしが出てくるポスターあったよね……

 うう。『環』が変なことすると、なぜかわたしが三姉さまから叱られるシステムはマジ理不尽なんだよ。絶対やめてよね!?







 送っておいた先触れが返ってきた。

 統括は変わっていたようで出した相手ではない神からで了承を貰ったのだが、そちらに参りますと、たいへん謙った文章が返ってきた。行くではなく来るになったから、再度どうぞと返事をした。


 さて今回のお相手は第六位『能』だ。

 以前より一姉さまや『太陽あにき』の膨大な神力に辟易させられてきたわたしだもの、彼を迎えるにあたり、己の神力を封じておくくらいのマナーは持ち合わせている。


 空間がわずかに歪み男神が現れた。第六位『能』だと思えば可もなく不可もない普通の転移だろう。

「初めてお目にかかります。第四位『月』神さま、わたしは第六位『秋』と申します。

 以後お見知りおきを」

 〝秋〟とは季節の秋のこと。正式名称は歌さんらと同じく『季節(秋)』となる。先触れを出す前に調べておいたが、彼は第三位『天空』の枝のひとつだそうだ。『天空』は『太陽あにき』の眷属なので、わたしとの関係は良好だ。


「こちらこそ初めまして。お忙しいところすみません」

「いえ! 滅相もないことです。

 それでバザールの件で確認したいことがあるとお聞きしましたが、わたしの管理や内容に何か不備でもありましたでしょうか?」

 管理? 内容? んんっ何の話かな。


「えっと実はですね。前回の終わりに管理されている別の方から、次回バザールの参加有無を確認されました。

 その時は参加すると返していますが、恥ずかしながら心配性のわたしの妹がもう一度、確認した方が良いというのでお聞きしたかった次第です。

 どうですか、わたしって参加になってますか?」

「えっ? えーと……

 第四位『月』神さまが、自らご参加なされるので、しょう、か……?」

「あれ。もしかしてあれだけでは参加の申請になっていませんでしたか? えっと今からでも間に合います?」

 まさかの『環』! やるな我が妹よ。


「は、はい。もちろんですとも!」

「そうですか良かった。お手数ですがどうぞよろしくお願いします」

「は、はい!」

 そう返事をすると『秋』は慌てて帰っていった。開催まで期日も迫っているから、参加者を一人増やすために奔走するのだろう。

 でもギリギリ参加になったのはあっちの落ち度だし、今回はわたしは悪くないよね。




◆◆◆◆◆




 し、死ぬかと思った……

 バザールの参加資格に明確な定めはないが、第六位『能』と第七位『権』が協力して管理していることから、バザールに出店するのは第八位『大』から第九位『無』だと暗黙の了解となっている。

 前回あの『月』神は第九位『無』だったから、俺以外の管理人が閉会前に次回の出店を確認したのは普通の話だ。普通じゃないのは、たった一周期の間に、第九位から第四位まで登り詰めたあの『月』神だ。


 噂には聞いていたが、なんだあの膨大な神力は。

 こっちに気を使って抑えているのは辛うじて理解できたが、それでも膨大だった。

 正直、第六位の俺でさえいまだに震えが止まらないってのに、あんなのがバザールにやって来てみろ、下神らは耐えられず気絶するぞ!?


 これの対策は……

 ええいひとりでやってられるか! 開催まで時間もない、全員呼び出して全員で掛かるぞ!

 俺だけ貧乏くじを引いて堪るか!!

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