33:邪神2
わたしは『冥府』から戻ったその足で、三姉さまの部屋に駆け込んだ。先触れを出していなくて、長い長い膝を詰めてのお説教……は、話が違うので割愛。
ぐちぐちと紅茶三杯分ほどの時間、管を巻いていたら、何やら用事があったらしい二姉さまが現れた。先触れがあったなら逃げられたってのに、突然来るんだもん、逃げれるわけがない。
どうしてここにいるのかと聞かれて、邪神に認められた話をすると大爆笑。二姉さまは用事をほっぽいて帰っていった。
用事、よかったのかな……?
「ところで三姉さま。
さっき先触れなかったですよね。どうして二姉さまは叱らないんですか」
「言っても無駄だからよ」
「それは三姉さまの言葉とは、とても思えませんね」
「正直におっしゃい。不公平だと思っているのでしょう?」
「……もちろんです」
「ッ……次だけは許してあげるわ」
もう一声と言いかけてやめた。臍を噛むように悔しそうな顔見せられたら、我儘なんて言えないよねー
それからしばらく。
久しぶりに会った豊穣ちゃん。顔を合わせて挨拶もそこそこ、彼女はいま神界に流れている噂の話を切り出してきた。
「ねねっ例の噂の月神って、月ちゃんのことだよねー?」
「えーと何の話?」
「第二位の邪神に認められたんでしょー? 噂になってるよ!」
もしや『冥府』からアニキと呼んでいいぞと言われた一件だろうか。
これを知っているのは当事者の二人と、愚痴を言った三姉さま、あとはその場にふらっと現れた二姉さまだけ。
消去法するまでもない。噂の発端は二姉さまだな。
噂の全容は至極簡単。
『最高位の邪神が月神を認めた』と、たったこれだけ。
現在二人いるどちらの月神かも判らないってのが、大変二姉さまらしい。
「でで、どーなの?」
「一応本当、アニキと呼んでいいと言われたんだけど……」
「えっすごーい!」
そう言えばこれの発端って豊穣ちゃんじゃん。
「ところで豊穣ちゃん。
前に渡した『死の国セット』の【機能】どうした?」
「あーあれね。あれはーどうだったかなー……
えへへ」
彼女は顔をやや青ざめさせ、引きつった笑いを漏らした。
「それが発端だからさー
正直に答えた方がいいよー」
普段は押し隠している、暫定『主』の膨大な神力を垂れ流しながらニコリと笑うと、豊穣ちゃんの顔がますます青ざめていった。
「ごめん! あたしにはまったく使い道なくってさ、人に上げちゃった」
「誰に?」
「同じ枝の子だけど……
名前言わないと……、だめ?」
「いやそこまで求めてないよ。やっぱり使ってなかったんだね。
どこをどう行ったのか、その『死の国セット』が何故か最高位の邪神の手元にあったんだよ。その出来を褒められて、あとはお察しください……」
「あーなるほど。ごめん! まさかそんなところまで行くなんてねーあははは」
わたしだって笑いたい。
でも笑えねぇー
後光纏いし隼が転移してきたんだもん!!!
これ
あの『太陽』だもん、小言でネチネチってことは無かった。
ただ無言のまま流れるように様々なポージングが続き、視線を反らさず、ずーっと見つめ続けたわたし、エライ!
最後に「分かったか?」と聞かれたので、「筋肉の張りが増してますね」と答えたら兄貴がニカッと白い歯を見せてモストマスキュラーをキメた。
……正解だったの、かな?
そんなことがあったからだろうか、三人目の愛弟子『無』に芽生えた神性が【病】だった。【病】の権能はちょっと特殊で、〝疾病〟は固定、もう一つは〝毒〟か〝薬〟のどちらかを持っているそうだ。
〝毒〟は〝薬〟にもなり、〝薬〟もまた〝毒〟となるのはよく知られていることだからね。どっちの権能を持っていようが、行使できる力はは同じだってさ。
そしてどちらを持つかは、本人の正と負の資質加減。そしてこの子が持っていたのは〝毒〟の方、つまり権能は【疾病・毒】の二つになる。
完全に邪神です……
変化を終えた『病』は、肌の色は不健康側に寄せた青白め。目の下には薄っすらとクマが有り疲れて見えた。神なのでもちろん疲れてはいないだろう。見た目の問題だ。
背中まである艶のない灰色の髪は、前髪は作っていなくて無造作に横に流している。向かって左側に癖でもあるのか、頻繁に落ちてきては目元を隠していた。
その都度、耳にかけては落ちてきてを繰り返し、あっ諦めた。
衣服は白いワイシャツに黒のパンツスーツ。首元は赤色がドキツイネクタイ。その上に汚れはないがノリが全く効いていない白衣を羽織っていた。
徹夜明けの医者かな?
邪神かぁ……ハァ……
わたしが考えなければならないのは『病』の所在だ。
神性は手に入れたが彼女はまだ第九位『無』なのだ。彼女を新たな枝にはできない。
さてうちでもっとも黒かろう枝は『星』のところだろう。しかしどれだけ黒かろうが邪神は入れられない。
黒と闇は似ているけれど質が全く違うものだから、決して混ぜてはいけない。
姉を頼るか?
一姉さまや二姉さまなら邪神の枝くらい持ってそうだけど、三姉さまは潔癖で絶対に持ってないだろう。
いやまて、わたしは『病』を追い出したいわけじゃあない。
人に渡してどうする。
あーうー。もー面倒くさいな。
他にも邪神が生まれた時に困るし、しばらくはわたしの直属にしとこう!
そのことを遊びに来た『環』に知られて、また別の面倒ごとになるのだが、それこそまた別の話だ。
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