19:研修のはじまり2
研修生たちの研修が続いている。
以前の四姉さまのように質問を受けて、自分の世界が疎かにならないように、わたしが真っ先に創ったのは神力を1も投入した天使だった。
300世界に神力1の天使は過剰だが、バグ監視能力に特化した天使に設定しておいたので、世界へ直接干渉しないから無問題。
さて天使を創った後は研修生に目を向けていく。
最初に【機能】を創っていた子は、世界に馴染ませることができずに神力を無駄にしていた。崩壊させなかっただけエライと褒めてあげよう。心の中で。
仕様書を望んだ子は、天使を創っていた。
バグに特化はしていない。ほぼ汎用の天使だが何に使うんだろう。
それ以外の子は有象無象。テキスト片手に四苦八苦しながら世界を管理している。
管理世界から目を離し、走り寄ってくる研修生くんが一人。
「『月』先生! 魔王が創りたいです、創って良いですか?」
「どうぞご自由に」
三姉さまの【機能】のお陰で、緑豊かな恵み多き世界になっているのだけど、魔王を投入したら台無し。でもそれを理解して入れるのなら問題なし。理解していないのならば、あの子の世界が最初に終焉を迎えるかもね。
しかしわたしの予想は外れた。
流石は研修生。神力を加工なしで投入した子が居て、あえなくその世界は崩壊した。
星が割れたのを見たのはこれが二度目。
そういやぁわたしの研修時代も星割ったやつ居たわー、懐かしいなあ。
「終焉を迎えた子は世界終了の報告書と研修の報告書を書いて提出するように」
「はい……」
すっかり肩を落としているが、肩を落とす、いや絶望する権利を持っているのは君が管理していた世界の住人の方だと思うよ。
「『月』先生、魔王が暴れています。どうしたらいいですか?」
「逆に聞きますが、魔王を倒す方法は確立してありますか?」
「倒す方法って勇者とか聖剣ですよね!! それどこにあるんですか!?」
「その世界の管理者はきみですよ。どこにあるかは……っと。もう必要がないみたいですね」
「え?」
「ほら後ろ、今しがた世界は滅びました。とても仕事が早い魔王でしたね」
研修生くんから「ええーっ」と絶叫が漏れた。
叫びたいのはわたしの方だ。ずっと見ていたが、このガキ、神力を全部使って魔王を創りやがった。300世界で神力2の魔王って、誰が倒せるんだよ!?
仕事だって早くなるよ!
いくつかの世界が終焉を迎えていった。
【機能】を事前に創っていた子は、その【機能】を入れることだけに固執し続けて、ついには星が割れた。
一〇人中二人が星を割るとか、四姉さまの時より酷くない?
大丈夫かい、これわたしの評価に響かないだろうね?
最後まで残っていたのは天使を創った子。
天使創造の設定が甘く乱雑で、あの時点でわざわざ天使を創った意味は分からないが、最後まで残った点は評価したいと思う。
そしてその最後の世界もついに終焉へ。
全員が終わったので、唯一残っているわたしの世界の刻を止めた。
一応、彼らが創ったすべての世界より永く残ったので面目はたったかな?
「では本日の研修は終了です。
世界終焉報告書の提出は明日までにわたしのところへ持ってくるように。
では最後になりましたが、今回の経験を糧にし、次に生かすようにお願いします。
研修おつかれさまでした」
「「「ありがとうございました」」」
その後も何度か研修生を受け入れて研修を行った。
世界の創造数は増えているけど平均収益は順当に減っている。研修分まで律儀にカウントしなくてもいいっちゃあ良いけど、まあなんとなくね。
※
新たな報告書を出した後、ついにというべきか、三姉さまから呼び出しを受けた。
「失礼します。『月』参りました」
「あら転移が上手くなったわね」
「ありがとうございます」
席を薦められて座るとテーブルにお茶とお菓子が現れた。
「『月』が研修した子がわたくしのところまで来たわよ」
「何人残ったのか知りませんが無事通過してよかったです」
今回は二姉さまではなく三姉さまが主体だと聞いている。そこまで辿り着いた者は研修生改め、神見習い。あとは三姉さまが『良』を出せば─もちろん一姉さまの許可はいるけど─、その子は『見習い』が取れて新たな神になるわけで。
おおっなんか自分が教えた子が神になるって凄いかも!?
「実はね。見習いなのに〝生命〟の気がある子がいたのよ。見込みありとして別カリキュラムを組んだのだけど……
残りの研修は『月』がやってくれないかしら」
不自然な沈黙の後、文面がまるで繋がらない言葉が続いた。
「三姉さま、その子に何か問題でもあるんですか?
その子〝生命〟の気があったんでしょう? それって『豊穣』の権能のひとつですよね。わたし知ってますよ」
「実はね。その子ったら闇に傾きつつあってわたくしの手には負えないの。
力姉さまは『白炎』でわたくしは『大地』、さらに『勝利』へと続く正の性質ばかり。姉妹の中で負の性質なのは唯一『月』だけなのよ。
どうお願いできるかしら」
その子が神になった際は、わたしのポイントにして良いそうで、ならば断る理由はない。
「事情は判りました。その見習いの子はわたしが引き受けましょう。
ところで二姉さまが『白炎』って、わたし初めて知りましたけど……言っても良かったんですか?」
これは一姉さまの神性もただの『光』じゃあないよねぇ……
「あっ。
こ、このことは内密に」
要求していないのに口止め料で神力を貰ってしまった。
『炎』ではなく『白炎』だった二姉さま。
確か『白炎』は【聖・炎】の複合だ。さらに『炎』も【火・火】のダブルか【火・風】の複合だし!
そもそもわたしが聖を得た時、二姉さま『聖って珍しいやつじゃんっ』とか言ってましたよね? 自分だって持ってるじゃあないですかー!
そして聖の【機能】創りのお仕事、面倒だからってこっちに回してましたね?
神力といい、神性といい、二姉さまってば嘘ばっかり。
もう信じないんだからっ!!
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