09:智神

 慣れてきたのか世界から得られる【信仰】が2000を超えるようになってきた。研修では1500を超えると良世界と聞いたから、2000はきっと優良世界に違いないと思う。


 さて慣れてきたからという訳ではないが、わたしは世界の管理の合間に依頼を請けることがある。正確に言うと合間ではなく最中であるが、まあ細かいことはいいのだ。


 依頼とは指定された要件を満たす【機能】を創ること。

 もともとそういった術式が得意なわたしは、〝魔王〟や〝聖女〟、はては〝死者の国〟なんていう【機能】を自分で創り出して使用していた。

 術式が苦手な人や、より良いものを求める人は、それを他人に依頼するのだ。

 報酬はもちろん神力。

 コツコツ稼いできた神力が15000に届いて、実は近くて遠い四姉さまがかなり遠いのだと最近になってやっと判った。



 わたしが月の神性を得る前のお客様は一姉さま以外の三人だけ。

 二姉さまは『これめんどーなんだよね』と言って、作業手順がやたらと多かったり、作業難易度が極端に高いやつを押し付けてくる。ただし三人中もっとも高位な『力』だけあって報酬は多い。


 三姉さまは『忙しいから代わりにお願い』と言って仕事をふってくる。作業は普通だったり難しかったり、それに応じた報酬を払ってくれる。


 もっとも依頼が多かったのは四姉さま。『あんたこういうの得意よね』と、自分が苦手だからと、片っ端から依頼してきた。

 自分でやる癖付けないといつまで経っても上達しませんよ?

 やだなぁ報酬が安いから嫌だなんて言ってないじゃないですかー

 末っ子はツライ。



 そして現在。

 一姉さまの傘下の神々に、わたしの神性が伝わりお客様が増えた。

 餅は餅屋というやつで、わたしが有する権能【月・常闇・聖・死】に関してならば、同じくこの手の作業が得意な三姉さまよりも良いものを創り出せようになった。

 なお権能持ちとは言っても、上神に位置する一姉さまに出せるほどの性能はない。求めているものの質が違い過ぎるので、これは単純に実力不足だろう。


 新しいお客様で一番依頼が多いのは聖の権能。これは聖の神性持ちが少ないってのが多大に影響しているのだと思う。

 さて聖の権能を使って創り出すものは、〝聖女〟や〝聖剣〟が多い。

 だったらと、抱き合わせ商法で常闇の権能で〝魔王〟を創ってみたら、一緒に買ってくれる人もちらほら。

 闇を超える常闇の権能で創った〝魔王〟は本格的ってことで人気が上がりつつあって嬉しい。

 調子に乗って創った〝死者の国〟やら〝死神〟は灰汁が強すぎて大変不評。注文のリストにはあるが注文はほぼない。

 レアなのに用途不明でまったく注文されない月よりはマシだけどね。



 依頼を請けた【機能】を創りつつ片手間に世界を監視する。

 あれ? 創造神的には逆だよね。

 神性は月になったけれど、元来闇気質持ちなのでどうにも邪神っぽい考えがチラチラよぎるな。気を付けよう。


「『月』?」

 呼び声と共にトントンと肩を叩かれてめちゃくちゃ驚いた。

 振り返ると一姉さまが首を傾げてこちらを視ていた。その雰囲気から結構前から居たらしい。


 そしてはっきりと分かった。

 わたしは二姉さまの転移が揺らぎなく美しいと思っていた。しかし一姉さまのそれは、転移してきたのさえ気づかないほどの無。美しいと認識さえもできない転移。

 圧倒的な実力差に畏怖を覚える。


「お越しになっていたのに気づかないなんて、大変失礼しました」

「いいえ構わないわ。今から少し時間はあるかしら?」

「はい大丈夫です。急な用事はありません」

「じゃあ一緒に来て頂戴。

 あなたは文句を言いそうだから先に言っておくわね、お相手は〝太陽〟よ。気をしっかり持ちなさい」

 〝太陽〟って、え?


 転移したことさえ判らなかったが、転移したのは判った。

 なにを言っているのか分からないかと思うが、まさにその通り。二姉さまのそれとは違って、わたしに転移した感覚は無い、しかし転移していないのならば、この耐え難い威圧感が説明できない。

 これは一姉さまを遥かに超えている。

 そりゃあ二姉さまが迎えに来ないわけだ。一姉さまよりも格上だもん、一姉さまが直接迎えに来た意味をわたしはもっと真剣に考えるべきだった……


 恐る恐る正面をみる。

 目が点になった……


 いやいや。

 目を閉じてもう一度。


 あれぇ~? 見間違いじゃあないぞ。

 小麦色の日焼けした筋肉質の大男がブーメランパンツだけを着用して、ポージングを取りながら真っ白い歯を剥いて笑っていた。

 これが〝太陽〟か。

 なるほど、確かに暑苦しい……


 絶句してみていたらフロントリラックスを経て、流れるようにフロントダブルバイセップスに変わり、再びニカッと笑みが零れる。


 何も言わず、いや言えず、隣の一姉さまを見る。タスケテ...

「『智』兄さま、『月』を連れて参りました」

 えっ『智』と言いました!?

 上二位にして第二位『智』。第一位『熾』は唯一人で『智』は三人っきり。最低でも№4です。驚きです、神力が圧倒的なのも解ります。

 ただこんな、素直に尊敬しにくい人とは思いませんでしたけど……


「よく来たな! 俺は〝太陽〟!

 『月』よ、俺のことを兄と呼ぶことを許そう!」

 え、困る。

 一姉さまを見る。マジタスケテ....

 無言で頷かれる。拒否権はなしっと。


「ありがとうございます。『智』兄さま」

「固い、固いぞ! もっと砕けろ!」

 なんでや!? 一姉さまと同じ呼び方やろ!


 ここから砕けるというバリエーションは、どこまでが許されるのかという苦行が始まった。


 ……。

 ……。


「『智』にぃ?」

「もう一声!」

「じゃあ兄貴」(やけくそ)

 一姉さまがビクッと体を揺らした。

 なんとあの一姉さまを驚かすことに成功したらしい。

 つまりやり過ぎ……やばぃ


「おお! いいじゃないか。ハハハ『座』よ。生真面目なお前の妹にしては面白い。

 よしよし今後はそう呼ぶことを許すぞ!」

 許されちゃったんですけど?

 隣にたたずむ一姉さまは瞳を閉じたまま諦めたように首を振った。

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