犯人特定不可

 まさか、自分で書いたミステリーの犯人が分からなくなることなんてあるなんて思わなかった。


 いや、最初はこいつを犯人にしようと思っていた。そして、そいつを犯人にするつもりで書いていたのだが、この小説がしようとしている特殊性に阻まれて、犯人を特定することが不可能になってしまった。


 しかし、ここまで書いてしまった小説を投げ出して没にするのは、忍びない。何か条件をつけ足せば、犯人を特定できるようにならないだろうか?


 ……。


 駄目だ。いつものような普通の殺人なら、簡単に条件をでっち上げることができる。しかし、今回の小説は特殊だから、条件を付けたすことが難しい。


 しょうがない。あの人を頼るか。


 梨子はある教授の元に向かった。


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「せっかくの君の新作だからと期待していたんだが、これでは犯人が分からないじゃないか?」


 梨子の小説を読んだ天神教授は当たり前のように、梨子の考えていた真相までたどり着いていた。


 梨子が新作のミステリーを読ませに行くたびに、ことごとく真相を見抜かれてしまう。なんなら、梨子が考えていた真相より良い真相を提示してくることもある。そして、今回も教授は真相を見抜いた。


 そして、今回は私の考えた真相と同じく、犯人特定不可であったらしい。


「ノイマンは犯人が分かったと言っているが、これだけの情報じゃあ、犯人の特定は確定は出来ない。だって、2つの可能性が混在しているからだ。」

「……2つの可能性?」

「ああ、2つの可能性だ。犯人がいる可能性と犯人がいない可能性だ。」

「……? 犯人がいない可能性は初耳ですね。……作者なのに。」

「あら、もしかしたら、今回は私の敗北もあるかと思ったんだがね。」

「実は、今回は犯人をミーンズに確定させるにはどうしたらいいか、助言を頂こうかと思ってきたんですよ。」

「……なるほど、その段階か。」


 まだ? (ꐦ`•ω•´)


「なるほど、なら、この小説の真相を1から解説する必要があるようだな。


 覚悟はいいかい?」

「……ええ、! その段階にしかいない私に教えてください!」

「分かった。


 じゃあ、まず、この小説を支配しているゲーム。ベイジアンナッシュ均衡の説明から始めていこう。」



 

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