神様と結末 (1)
「ああ。オフコースだ。こんなチャンスはまたとない」
気分が高揚する。この種のトキメキは随分と久しぶりだ。
「さて、じゃあ、ジーナス。詳しく聞こうか。作戦があるんだろ? 面白そうなアイデアがさ」
オレの好意的な賛同の声に、ジーナスの声も弾む。
『あるある。と言っても、作戦はシンプルだよ。アンドロイドに隠されていた機能、それから、コンピュータ・ウイルスにアタックされたロボットの誤作動。両方とも、その発生のトリガーになるのは、ざっくり言うと好感度メーターだ』
「さっきの話の通りだな。だが、その好感度メーターってのはどんな仕組みなんだ? シミュレーションゲームでもあるまいに。人間側の選択肢一つで増減するわけでもないだろ?」
『そうだね。ここが一つポイントかな。まず、アンドロイドの好感度。これはもう、ロボットと言うよりも、単に対人コミュニケーションの問題に落とし込める。センサのある視覚、聴覚、触覚辺りは当然のこと、会話の頻度、会話の内容なども考慮されるだろう。もちろん、マスターの言うように、好感度メーターの増減はその全体を加味して変化する。例えば、言葉で好きと言いながらも、接触を極端に避けるようなら、好感度メーターはどちらに転ぶか分からない。ボクの予想ではインパクトの大きい方に傾くかな、とは思うが、あくまで予想の域を出ないってところだ』
「ってことは、扱いが難しいな。一朝一夕には……」
ジーナスの状況調査は的確だと思う。故に、その言葉を素直に受けると、どうにも問題解決は難航しそうなイメージが湧く。
『いやいや。そんなことはないさ!』
そんなオレの不安の声を遮り、元気づけるようにジーナスは言葉を発した。
『シンプルだと言ったろ? 本当の人間と違うところは、そこに機械的判断があるってところだ。センサというセンサを刺激すればいい。つまり、単純に全身全霊で愛を語ってやれば、コロッと落ちるさ』
「愛を語る?」
今一つ理解し難い表現に、オレはオウム返しに尋ねた。
『そう。好感度メーターがぶっちぎれるほどの愛を注げば、好感度メーターのオーバーフローで、アンドロイドに隠されていたこの愛の機能だけがピンポイントで故障するだろうね。ソフトウェアはエラーを出し続けるだろうし、ハードウェアは物理的に壊れちゃうね。そうやって一度破壊するほどの愛を注げば、二度とこの愛の機能が作動することもないから安心でしょ?』
ふむ。オレ自身でソフトウェアとハードウェアの解析をしたわけではないので、やはりまだ腑に落ちないことはある。だが、ジーナスの言葉を信じると、アンの暴走を的確に処置し、その上で再発防止もできるらしい。その結末は望ましい。
「オッケーだ。ジーナスほど現状を深く理解できていないけど、直面している問題とその解決方針には納得がいった」
『うん。マスターの聡明さはカレッジの頃と変わらないね。ってことで、実験だ。試しにマスターの工房のアンドロイド、ちょうど愛に飢えて襲ってきたのだろう? だから試してみるといいさ』
ジーナスはそんな風に提案するが、オレはまだ表面しか理解していない。
「ちょ、ちょっと待て。愛って、具体的に何をすればいいんだ?」
『それはマスターがよく知っている通りだよ。アンドロイドの全身のセンサを、肌でも耳でも目でも、何なら口内やそれ以上だって構わない。とにかく思いつく限りセンサを刺激して、その欲求を、愛を満たせばいい。おおっと、ボクはお邪魔だろうから、少し席を外すよ。結果を楽しみにしているよ。むふふ』
そこまで言うと、ジーナスはすぐさまボイス・チャット・ルームから退席した。
つまり、オレに全てを任せたらしい。
「どうすっかな……」
と言っても、やることは決まっている。
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