第2話:新たな人生
近所のコンビニへ行く途中、通り魔に襲われ、意識を失った拓真。そんな拓真が再び目を覚ますとそこは見知らぬ世界だった。
「ここは・・・どこだ・・・?」
「おやおや、ようやく目が覚めたのかい?随分と長く眠っていたのぉ。」
その声の主は見知らぬ老人だった。その老人は拓真が目を覚ましたのを見るや否や緑色の液体の入った器を差し出してきた。
「これはわしの一族に代々伝わる薬水じゃ。飲めばすぐに具合も回復するぞい。」
「そうか。それなら遠慮なくいただくよ。」
いつもゲームの世界に入り浸っているせいかそれが嘘とは思えず、拓真はその薬水をぐびっと一気に飲み干す。その薬水が舌に触れた瞬間、なんとも形容しがたい深い甘味とレモンのようなキリっとした酸味が脳に伝達される。
「おいしい・・・!」
「そうじゃろう?これで少しは良くなるじゃろう。」
「それでなんだが、いくつか質問いいいか?」
「あぁ、なんでも何なりと聞いてくれ。」
「ここは一体どこなんだ?」
「おっと、まさか記憶がないのかい?それは大変だ。一からすべて説明してやるわい。」
「あぁ、頼む。」
「まず、わしとおぬしの出会いからじゃな。わしがそこにある林に薪を切りに行った時、突然おぬしが木から落ちてきたんじゃ。声をかけても返事がなくてのぉ、死んでしまっているのかと思ったときじゃった。小さいが呼吸をしていたんじゃ。それでわしの家に連れていき、3日間看病していたというわけじゃな。」
「3日も眠ってたのか・・・・。迷惑かけてすまなかったな。」
「いいんじゃよ。こんな老いぼれじゃ。役に立てたのなら良かったわい。」
「それで、ここはどこなんだ?詳しく教えてくれるか?」
「ここは王都:ソラリスじゃ。」
その言葉を聞いた瞬間、拓真は驚愕する。なぜなら王都:ソラリスとは、あのゲーム、ウィークエスト・オンライン内に存在する初期スポーン地点だったからだ。
「ソラリス・・・?そんなはずは・・・!」
そして驚きを隠せない拓真は窓の外の景色を見渡す。その景色は・・・・まさにゲーム内と何一つ遜色ないそのままの景色だった。そして次に驚いたのは自分の格好だ。見知った革の防具と紅の刃を持った装飾のされた片手剣とやけに刃渡りの短い青藍のナイフ、そしてパールホワイトに天使を彷彿とさせる装飾がなされた靴が装備されている。これもゲーム内で拓真が装備していたものと何一つ変わらない。
「これは・・・。極滅剣『デストラクト』に秘匿剣『ハイド』、それに『天使の空靴』じゃないか・・・!まさか、本当にゲームの世界に来たって言うのか・・・?だとしたら俺はHPが1・・・?」
そう、ここが本当にあのゲームの世界に来たのだとすれば、拓真のHPは1、パワーとスピードに極振りしていることになる。それを確認するために拓真は外に出てみることにした。
「世話になったな、爺さん。ありがとう。」
「なんのなんの。またいつでもおいで。」
「あぁ、また来るよ、その時は恩返しにな。」
拓真は助けてくれた老人に別れを告げ、扉を開け外に出る。そこでもまた驚愕することになるのだった。
「どこもかしこもゲームの通りだな・・・。鍛冶屋、衣服屋、食料屋・・・全部ゲームと同じ場所にある・・・。でも何か違和感がある。なんだ・・・?」
拓真が感じた違和感、それはこの世界の根幹に関わるものだということをこの時はまだ知らなかった。
そんなことはつゆ知らず、拓真は町を徘徊し始める。
「とりあえず宿と食料の調達を・・・と思ったが、金がないんだったな・・・。この世界の通貨はレリムだったな。まずはクエストでもやって稼ぐか。しばらくは野営だな。」
拓真はゲームでの体験をもとにギルドの場所へ向かう。
「確かこの角を曲がればギルドがあったな。そこで冒険者登録をして稼ごう。」
そうしてギルドに向かい、そのままカウンターへ行く拓真。そこでも驚愕することになる。
「冒険者登録をしたい。できるか?」
「はい、まずはお名前を教えていただけますか?」
「名前はタクマだ。」
「タクマ様ですね。登録の重複がないか確認してまいります。」
(ゲームの通りならこの名前で通るはずだ。ここがゲームの世界なら登録されていてもおかしくはないが・・・。)
そして3分ほど経つと受付の者が戻ってくる。
「タクマ様、登録の重複が確認されました。3日前にこちらに来て登録されているようですが、このIDをお使いになりますか?」
「3日前か・・・。俺がこっちに来たタイミングでなぜ・・・。まぁいい。そのIDを使わせてくれ。」
「かしこまりました。本日はこのままお帰りになりますか?それとも何かクエストをお受けになりますか?」
「今のクエストは何があるんだ?それによって決めようと思う。」
「タクマ様のランクに見合ったクエストですと・・・こちらのバレットウルフ討伐があっているかもしれません。どうなさいますか・・・?」
「バレットウルフか・・・。」(いきなり上級か・・。厳しそうではあるが、感覚を掴むにはもってこいか・・・。)
バレットウルフとはその名の通り弾丸並の速度で移動することができ、その鋭い爪で幾人もの冒険者たちを葬ってきた上級の魔物だ。そんな魔物を倒せるほど拓真は強いというわけだ。
「よし、そのクエスト、引き受けよう。」
「かしこまりました。そのように手配いたしますね。」
拓真は早速バレットウルフがいるであろう場所へ向かおうと外に出ようとする。するとそれを止めるように後ろから声がかかる。
「おい、お前新人だな?新人には俺が教育してやらねぇとなぁ。」
「なんだお前。俺と喧嘩しようってんならやめときな。」
「舐めやがって。しつけが鳴ってねぇなぁ。闘技場へ来い。しつけ直してやるよ。」
「いいぜ?俺の剣の錆にしてやる。ところでお前、名前は?死ぬ前に覚えておいてやるよ。」
「俺の名はエルメス・グリディアーノ。ギルドじゃ最強だ。」
「へぇ~、最強ねぇ。俺は”ある意味で”最弱なんでな。まぁお手柔らかに頼むわ。」
そうして拓真とエルメスは闘技場へ向かうのだった・・・・
闘技場にて・・・
「ルールは何でもあり。魔剣でもなんでも使いやがれ。そんな魔剣でも俺の前には無力化されるがな。」
「そうか、なら遠慮せず行こうか。来い、極滅剣『デストラクト』!!」
「なに!?極滅剣だと・・・!?この世の果てに存在するといわれているあの・・・?まさかな・・・。」
拓真が極滅剣を召喚すると怯えながらも身構える。張り詰める空気の中、機先を制したのはエルメスだった。
「おらぁぁ!!いきなり死ねぇぇ!!」
エルメスは爆ぜたような踏み込みを見せ、拓真に向けてスタートを切る。
「命を張ってくるか。その覚悟、受け取った・・・!この極滅剣の錆にしてやる。」
エルメスの拳は深く、そして強く握り固められ、その硬さはもはや金剛石のようだった。そんな拳が拓真の目の前に来ようとも拓真は眉一つ動かさずその場に立っている。このままではエルメスの拳に打ち抜かれる・・・誰もがそう思ったその時だった。
「貰ったぁぁぁ!!・・・・なに!?ぐぅぅぅ。何をした・・・。」
なんとエルメスの右腕が切り飛ばされていたのだ。
「なに。お前が見ていた極滅剣は幻影だ。この秘匿剣『ハイド』が作り出したな。秘匿剣の効果はどう振るったのか、どう切ったのかもその剣の効果で秘匿される。つまり、使用者にしかわからないというわけだ。」
「秘匿剣だとぉ・・・?なぜそんな強い剣を持っている・・・?」
「俺は”ある意味で”最弱なんでな。装備くらいは最強にしておかなければこの世界ではすぐに死ぬ。そういう訳だ。」
「”ある意味で"だとぉ?その剣持ってる時点で、最強じゃねぇか・・・。」
「なんだ?まだやるか?次は死んでも文句は言えないぞ。」
「へっ、もうやらねぇよ。お前とやってたら命がいくつあっても足りやしねぇ。降参だ。」
「諦めがいいんだな。その強さには目を見張るものがある。エルメスだったか?これをやるよ。」
そう言って拓真が召喚したのは一振りの片手剣。その名は・・・
「なんだ?この剣は。」
「この剣の名は増強剣『エンハンス』。使用者の身体能力を限界まで向上させる剣だ。お前が使えば勝てる者などそうそういないだろうな。」
「ありがてぇ。そんな貴重な武器、貰っていいのか?」
「あぁ。俺が持っていても宝の持ち腐れだからな。」
「この剣は大事にさせてもらうぜ。」
「それじゃ、俺は行く。じゃあな。腕は治癒魔術師にでも治してもらえ、まだ間に合うはずだ。」
「そうするぜ。いつかまた戻って来いよな。その時は決着つけてやる。」
「あぁ。次は決着だな。」
「それじゃあな。」
そう会話を終え、拳と拳を合わせる。再会を約束する印だ。
エルメスとの戦いを終えた拓真はバレットウルフのいる森へと向かい始めるのだった・・・
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