第22話 トイレの人



おトイレの話をするので、嫌な人は飛ばしてください。


【あらすじ】

「なんでトイレの人って呼ばれているの?」→(説明)→夜会開始


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「リーンハルトリーンハルトリーンハルト」

「小声とはいえ公の場でおやめください」

「リーンハルト様リーンハルト様リーンハルト様」

「おやめください」


 そこから五分、ケビンとデイジーはリーンハルトの腰ぎんちゃくとして粛々と彼の後ろをついて回った。

 五分を過ぎた後も、『リーンハルト社の永久取引停止』というパワーワードにおののいたのか、会場の人間はあまりケビン達に近づいてこない。


 それをいいことに、壁際の椅子に座って三人で固まって夜会の開始を待っていると、デイジーがここぞとばかりに尋ねてきた。


「ケビン様。トイレの人って何ですか?」

「私を排泄物の代表みたいに言うのはやめてください」

「ケビン様は排泄物みたいな家に住んでいましたから、あながち間違いではありませんね」

「リーンハルトやめないか。こういうことは最初に否定しておかないと、そのまま長くあだ名として使われてしまうんだ」

「先ほど、否定する暇がありませんでしたね」

「なぜ拡声器で違うと叫んでくれなかったんだ!」

「それよりケビン様、トイレの人って……」

「私はトイレの人ではありません……!」


 苦悶の表情を浮かべるトイレの人に、デイジーは困惑した顔をし、リーンハルトはくつくつと笑っている。


 実は、ケビンの発明品の中で最も売れているのが、トイレ用タンクなのだ。


 そう説明するリーンハルトに、デイジーは(なるほど?)と頷く。


「実は五年前まで、この国の人達は、その辺で糞尿を垂れ流していたんですよ」

「えぇ? リーンハルト様、そんな、まさか」

「常に共同トイレで用を足すことができるのは、よほど箱入り育ちの高位貴族の令嬢くらいのものだったのです」

「え? ……え?」

「共同トイレの数が、あまりにも少なかったんですよ」


 五年前のデジケイト王国にも、共同トイレは存在していた。しかし、人口に対して明らかに供給不足であった。王宮ですら、使用人を含めて四千人ほどの居住者が居るにもかかわらず、三百箇所しか共同トイレが存在していなかったのだ。

 また、設置された共同トイレも、管理が甘いものが多く、臭気が漂うので、増設が難しい。


 王宮の子ども部屋付近は、子どもの健全な育成のため、重点的に共同トイレが設置されていたが、それ以外の場所にはほとんど設置されていないので、共同トイレまで走っていては、用が間に合わない。


 そのせいで、なんと人々は簡易トイレを持ち歩き、その辺で用を足し、それを美しい庭園に投げ捨てたり、街道に捨てたりしていたのである。


 ……というリーンハルトの説明に、ケビンの目の前に居る『よほど箱入り育ちの高位貴族の令嬢』は、ガクガク震えている。


「き、汚いから、お前は街に降りては、いけないって……」

「本当に汚かったんですよ」


 容赦のない言葉と、衝撃を受けた様子のデイジーに、ケビンは苦笑する。


「まあ、そんな状況でしたので、まずはトイレを開発しようかと思いまして」


 ケビンは神々たるデイトナーズ公爵家と同じ空気を吸うためにデジケイト王国にやってきたというのに、その空気がとんでもないことになっていたので、とりあえずそれを改善することにした。

 というか、それをしないとデジケイト王国からケビンを攫ってエレンスキー王国に戻ると、リーンハルトに脅されたのだ。

 エレンスキー王国は水辺が近く、下水道整備が進んでいたこともあり、リーンハルトにはデジケイト王国の下処理事情が耐え難いものだったらしい。


 最初はデジケイト王国内に下水道を引くことを考えたけれども、大工事になるので、完成する前にリーンハルトの堪忍袋の緒が切れること必至。

 悩んだ結果、ケビンは管理が容易で防臭完備、たい肥醸造まで可能なトイレタンクを開発し、それを薄利多売でリーンハルトが売りさばき、見事普及させたのである。


「我々の機嫌を損ねると、トイレ用タンクが入手できなくなります」


 リーンハルトの意味深な笑顔に、デイジーが背筋を凍らせる。


「ト、トイレの人……!!」

「やめてください」


 とうとうしくしく泣きだしたケビンに、デイジーが慌てたところで、国王が開会の挨拶が始まった。

 どうやら、およその参加者が会場に集まったらしい。


 つまり、毎年恒例、年末王宮パーティー三日目の開始である。


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