あの日 この場所で

新手みつき

序章 あの日 この場所で

あの日は雨が降っていた。

ザァーと雨が音を立てて降っている中、俺は公園に1人、ベンチで雨宿りをしていた。

周りを見ても通るのは車ばかりで人気ひとけがない。

静かな空間にコッコッと屋根に雨が当たっている音だけが鳴っている。

普段なら気にしない暇な時間も、雨が合わさった夏の蒸し暑さのせいで気持ちが悪い。

手をパタパタさせて風を作り出すが気休め程度にしかならない。

顎の先から汗が滴り落ちる。

「···長いなぁ」

誰もいない公園でぽつりと独り言が漏れる。

かれこれ1時間はここにいる。

たまたま帰り道の途中に通り雨にやられて、近くの公園があったので、屋根があるベンチに休憩ついでに座っていた。

これからどうしようかとスマホに表示されている時間を確認する。

時刻は午後6時。

本当だったら家で晩御飯を作り始めている頃だ。

一応、折り畳み傘は持っているが、風が強いので意味をなさない役たたずと化している。

ここに来る途中ですら、風に煽られて傘が折れ曲がってしまい少し濡れてしまった。

というか、ここから家まで遠いわけでは無い。

既に少しは濡れているわけで、結局はシャワーを浴びる予定だし、走って帰ってしまえば10分もかからない。

だが、ここまで来るとまぁ、なんというか。

「待っちゃうよな〜」

勿体ないと思ってしまうのが人間である。

かと言って、天気予報ではあと1時間は雨の強さは変わらないらしい。

考えること実に5秒、頭の中で結論を出す。

『よし、帰ろう』

こういう時の決断は早い方だと自分でも思う。

スマホをバックへ片付け、走って帰るための準備をする。

全部仕舞うと、バックを背負い、ベンチから立ち上がる。

そのまま出口へと向かおうとした時、

ふと、視界に不思議なものが入った。

言い表すなら黒いモヤ。

それが人間なのか、それとも動物かも分からない。

まるでこの世界のとして存在しているような、形のあるようでないような、不思議な何か。

視界に入ったが何なのか見るために目を凝らして確認する。

瞬間、

「痛っ」

ビリッと頭に鋭い痛みが走った。

目を直接針で刺したような鋭い痛み。

頭が痛いのか、目が痛いのかすら分からない。

痛みに耐えきれず思わず顔を下に向けてしゃがみ、片手で両目を抑える。

だが、何事も無かったかのようにすぐに謎の頭の痛みは消えた。

しゃがんだまま、ゆっくりと痛かった箇所を抑えつつ顔をあげる。

回っている視界が少しづつ正常に戻る。

すると、さっきまでは見えなかった異物の姿がはっきりと見えた。


あの日、この場所で。


彼女との物語はそこから始まった。

この物語は俺と彼女の不思議な出会いから始まった数奇な出会いの話である。


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