FourMark Destiny ~四人の王様と滅びの結末~
白昼夢茶々猫
第1話 ハートなボクと夢のお茶会 上
スペードの王は生と死を司る。そんな彼女は凛々しくて冷静な人。
ダイヤの王は富と名声を司る。そんな彼はちょっといたずら好き。
クラブの王は知恵と豊穣を司る。そんな彼はおっとりとして優しい。
皆大好きなボクの仲間だ。だけど、だけど……いったいボクはなんなのだろう?
「さあ、皆、茶会の時間だ!」
皆が寝静まる、深夜十一時。魔法のひと時を楽しむ時間の始まり。
ボクが一日で一番好きな時間。皆と楽しくお喋りをしながら、美味しいお茶とお菓子を楽しむんだ。最高の時間だろう?
今日もボクの号令で、人形たちが一斉に動き出す。
がらんどうの城の広間に、甲冑の騎士がうやうやしくティーテーブルを設置し、執事服のテディベアの指揮でうさぎやねこのぬいぐるみたちがかわいらしくティーカップやティーセット、それから花瓶をひとつずつ運ぶ。
メイドドレスを着たマリオネットがお菓子をのせたカートを運んで来たらボクは広間の奥の王座から立ち上がる。マリオネットを手伝って、ティーテーブルにお菓子をのせたら、ボクはお客人を迎えに行く。
うきうきとした軽いステップで、城の入り口の扉を開けに行く。
ボクが扉を開くと、まるで銀河のような濃い藍色と白銀の煌めきで満たされた空間が現れる。しばらくすると、その扉の奥から三人の子どもたちがボクの方に駆け寄ってくる。
「わぁい! ハートのおうさま? アムレットさま?」
「ボクのことを知っているの? かわいい子どもたち」
駆け寄ってきた子どもたちを全員ぎゅーっと抱きしめてあげると嬉しそうに柔らかい笑い声をあげる。
「母さんが言ってたんだ。夢でお城にしょーたいされたら、アムレットさまに会えるんだって。アムレットさまはお城に住んでるとっても優しいおうさまなんだって!」
「ふぅん。君のお母さんはボクのことを覚えててくれたんだね。嬉しいな。ありがとうって言っておいてくれるかい?」
「うん!」
抱きしめている子どもの真ん中の子どもが勢いよくうなずく。両端のこどもも目をキラキラとさせて今にもその愛らしい唇から言葉がもれだしそうだ。
「ふふ、楽しいお喋りは向こうでしよう。せっかくのお茶が冷めてしまうよ」
「はい!」「うん!」「は、はいっ」
元気な声が胸元から聞こえてくることが幸せで、ボクは微笑みを絶やさないまま子どもたちを彼らのためにために飾り付けた広間へ連れていく。
「わぁ……おいしそうなお菓子」
「どうぞお座り。君たちのために用意したんだ。よろこんでくれるかい?」
子どもたちのために椅子を引き、ボクも座る。子どもたちも次々に椅子に飛び乗った。
「わたしたちのためなの……? これが、ぜんぶ?」
高い天井からぶら下がったシャンデリアの明かりを全部吸い込んだような瞳が、ボクの方に向く。興奮できゅうぅっと握りしめられた手が大変かわいらしい。
「そうだよ、さあお食べ。そしてボクに聞かせてくれないか? 君たちのことを」
わぁい、と嬉しそうな悲鳴をあげてお菓子にかぶりつく子どもたち。
ハートの王のお茶会に大層なマナーは必要ない。ただ、楽しんでくれればそれで十分なのだから。
しばらくお茶とお菓子を楽しんだ後、一人のこどもがその瞳を曇らせて、ひとつ、こう呟いた。
「あのね、アムレットさま。ぼくね、ぼくの大切なおもちゃをなくしちゃったんだ。いつもとおんなじところにしまったはずなのに、次の日にとりだしてみたらなくなっちゃってたの」
「大切なおもちゃ? どんなのだい?」
「いっぱいね、色のあるつみきなの。ぼくのたんじょうびにお母さんとお父さんが手作りしてくれたやつなんだ。どうしても……赤いさんかくのだけ見つからないの」
さっきまで笑顔だった顔がすっかり曇ってしまう。あぁ、だめだだめだ、ボクのお茶会にそんな顔は似合わないよ。
「そうなのか。うーん、もう一度入れた場所を探してみたらどうだい? 案外、見落としてしまっているかもしれないよ」
「そうなの? うん、わかった探してみる!」
素直に聞き入れて、またすぐに美味しそうにお菓子をほおばる。
また、笑顔になってくれて何よりだ。
しばらくして、お茶とお菓子が空っぽになったころ、城の柱時計がもうすぐ十二時になるぞ、と軽やかにオルゴールをならしだす。
「おや、もう時間なのか。名残惜しいね、子どもたち」
「わたしたち、もう帰る時間?」
「そうだよ、それぞれの夢におかえり。かわいい子どもたち」
そういうと、全員椅子を飛び降りてボクの手を引いて扉に向かう。おや、ボクがエスコートするつもりがされてしまったよ。
「それじゃあね。ちゃんと明日になったら探すんだよ?」
ボクに相談してくれた子の頭をなでてそう言い聞かせる。
「うん! ……ね、アムレットさま、また会える?」
そう言って、上目遣いでボクのことをのぞき込んでくる子どもたち。
「会えるさ、君たちが会いたいと思えばいつでも」
ボクは、この夢の世界でいつでも君たちを待つのだから。
「それじゃ、おかえり」
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