第9話:運命への反撃

美咲と再び運命に立ち向かう準備を整えたその夜、僕は覚悟を決めた。もう後戻りはできない。過去に戻ることも、神崎の思惑に翻弄されることも許されない。僕たちはこの瞬間、ここで未来を変えるために行動しなければならない。


神崎が再び僕たちの運命に干渉しているのは明らかだった。彼が何を目的としているのか、どうして美咲に絡んでいるのかはまだ分からないが、彼が何かしらの力を持ち続けていることは間違いなかった。美咲との再会、そして彼女が追われるという出来事の背後には、彼の存在が常にちらついている。


だが、僕はもう彼に頼るつもりはない。運命を変えることなく、今を生きて、未来を切り開くためにどう行動するか。それが僕に課せられた最後の試練だった。


翌日、僕たちは再び神崎に向き合うための計画を練り始めた。美咲の周りで起こっている異変を詳しく調べ、神崎の動きについても追う必要があった。


「優斗さん、私、怖いけど……一緒に乗り越えたい。あなたと一緒なら、何があっても大丈夫だって信じてるから。」


美咲は決意を固めた様子で僕にそう言った。彼女の目には迷いが消え、強い意志が宿っていた。彼女もまた、僕と同じように神崎に立ち向かう覚悟を決めたのだ。


「僕も同じだよ、美咲。もう君を一人にはしないし、絶対に君を守る。だから、必ず一緒に乗り越えよう。」


僕たちはお互いの手を取り合い、深くうなずきあった。その瞬間、僕は再び自分の中に力強い決意がみなぎるのを感じた。運命に翻弄されるのではなく、僕たち自身の力で未来を作り出すのだ。


数日後、僕たちは神崎が関与していると思われる企業のオフィスに向かった。彼の存在が美咲のプロジェクトに影響を及ぼしていることは明らかであり、彼の意図を知るためには、直接接触する必要があった。


オフィスビルのエントランスに足を踏み入れると、緊張感が一気に高まった。美咲の手を握りしめながら、僕は深呼吸をして気持ちを落ち着けようとした。美咲も同じように少し緊張している様子だったが、彼女の目には恐れよりも覚悟が感じられた。


受付を通り、僕たちはオフィスの奥へと進んでいく。そこには、神崎がいるという情報を得ていた。彼と直接対面するのは、この日が初めてではない。だが、今回は僕たちが自ら彼に向き合い、すべてを決着させるための瞬間だった。


やがて、オフィスの一角にある会議室の扉の前に立つと、そこからは静かな雰囲気が漂っていた。僕は息を整え、扉をノックした。数秒後、中から声が聞こえた。


「入れ。」


その冷静な声は、神崎のものであることがすぐにわかった。扉を開けると、そこには予想通り、神崎が座っていた。彼は無表情のまま、僕たちを見つめていた。


「久しぶりだな、篠原君。今回は君から会いに来てくれるとは思わなかった。」


彼は淡々とした口調でそう言いながら、僕たちに座るように促した。僕は美咲と一緒に神崎の前に座り、彼の目をじっと見据えた。


「神崎、僕たちの運命に再び干渉するのはやめろ。」


僕は静かだが強い口調でそう告げた。神崎は微かに笑みを浮かべたが、その目は冷静さを保っていた。


「君たちの運命に干渉している?それは少し誤解があるようだ。僕は君たちに選択肢を与えただけだ。あくまで君たちがどう生きるかは、君たち自身が決めることだ。」


神崎の言葉は、まるで僕たちの運命は僕たち次第だと言っているようだった。だが、彼が何らかの力を持ち続けていることは明らかだった。


「それでも、美咲が追われたのはお前が関わっているせいだろう。僕たちがどんな選択をしようと、お前は運命に干渉しているんだ。」


僕の言葉に、神崎は少しだけ首をかしげた。


「僕は確かに君たちの運命に関わってきたが、それはすべて君たちが選んだ結果だ。過去を変えたのは君だ、篠原君。そして、その結果が今に繋がっている。君がその責任を感じているならば、それもまた君の選択だ。」


神崎の言葉に、僕は一瞬言葉を失った。確かに、過去を変えたのは僕自身だ。その結果、美咲との未来を再び手に入れた。だが、それは運命の自然な流れを変える行為だった。そして、今の事態が僕たちの選択に基づいて起こっているというのならば、どうすればこの運命を切り開くことができるのだろうか。


「僕たちの運命は僕たち自身の手にある。そうだな、神崎。それなら、僕たちが自らの意思で未来を選ぶ。お前の力なんかにはもう頼らない。」


僕は強い口調でそう言い放った。神崎は少しだけ微笑んでから、静かにうなずいた。


「それが君の選択ならば、それを尊重しよう。」


その瞬間、僕の中で何かが確実に変わった。神崎の存在が僕たちの未来に影響を与えることは、もうないと確信した。僕たちが運命を選び、未来を切り開くのは、僕たち自身の力であることをはっきりと理解したのだ。


会議室を出ると、僕たちは静かに建物を後にした。外に出た瞬間、美咲は僕に向かって優しく微笑んだ。


「私たち、これからは本当に自分たちの力で未来を選んでいけるんだね。」


彼女の言葉に、僕は深く頷いた。そうだ。僕たちはもう、誰かに運命を操作されることはない。すべては僕たち自身の選択にかかっている。そして、その選択が未来を切り開くのだ。


「美咲、これからも一緒に歩いていこう。どんな未来が待っていようとも、僕たちが一緒にいれば乗り越えられるはずだ。」


僕は彼女の手をしっかりと握り、未来への誓いを込めて言った。美咲もまた、強い意志を持って僕に頷き返した。


「もちろん、優斗さん。これからもずっと一緒に、未来を見つめていこう。」


僕たちはこれからどんな困難が待ち受けていても、今を生き、未来を守り抜く覚悟を持っている。運命はもう僕たちの手の中にあり、それをどう切り開くかは僕たち次第だ。


それから数週間が経ち、僕たちは穏やかな日常を取り戻していた。美咲も、仕事のプロジェクトが再び順調に進み始め、あの神崎の影が完全に消え去ったかのように感じられた。


だが、僕たちは知っている。運命は一度切り開けば終わりではなく、常に僕たちの選択に応じて変わり続けるということを。そして、その変化にどう向き合い、未来をどう守り続けるかが、僕たちの課題であり、使命なのだ。


美咲が隣にいてくれる限り、僕はもう何も怖くない。彼女と共に歩む未来が、どんなに険しいものであろうと、僕たちの絆がそれを乗り越えさせてくれるはずだ。


そして僕たちは、再び新たな未来を切り開くために、歩き始めた。

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