第2話 本編

「あっちゃん、あっちゃん!!」


「ん?」


「今からミーが言ったやつの、どっちか選んでね?」



俺は心の中でため息をついた。



ミーのこの質問攻めを何回も経験しているからだ。



代表作をいくつか紹介しよう。



『お金持ちになったミーと家事が何でも出来るミー…どっちがいい?』


『おかわりし放題のカレーと究極に美味しい一杯のコーヒー…どっちが欲しい?』


『空飛ぶペガサスと一生なついてくれる狼…どっち飼いたい?』



ミーの質問のポイントは、絶妙に相反していないものだから選べる基準も比べる軸さえもあったもんじゃない。


絶妙に困る。



しかしこの間、実際にため息をしたらかなり怒られたので今回は我慢をする。


大学も連休で、サークル活動も今日はなくてミーも暇なんだろう。


リビングで待たず、 キッチンでお茶を入れている俺の隣に来て、俺の顔を覗きこんでミーは楽しそう。


お茶を入れ終えて部屋へ運ぶと、ミーも付いてくる。



そんなミーが可愛くて、お茶をテーブルに置いてから頭を撫でてやった。


俺よりも年下ってだけが理由じゃなくて、ミーが可愛くて仕方ないことに関しては俺、わりと重症。



「それで?質問って?」



俺の手のひらで気持ち良さそうに目を瞑って「うん、あのね!」と口角を上げた。


俺の隣に座って自然と擦り寄ってきてくれる。


ミーが目を瞑っているのを良いことにそのふっくらとした唇に吸い寄せられる。



触れる直前にミーの大きな目がパッチリと開いた。



「『一ヶ月に一回しか会えないミー』と『毎日会えるけど一生エッチ出来ないミー』どっちがいい?」


「…………は?」



自分で言うのもなんだが、頭の回転は悪くない方だと思う。


だけど初めてミーのパロプンテ・二者択一を一回で理解出来なかった。



そして頭の中で反芻させて、思考停止した。





「……はぁ?な…何その質問!!」



だけど俺の返答にミーはみるみるうちに般若化した。



「あっちゃんのバカァー!!」


「ええぇぇぇっ!?」



俺、なんで怒られた!?



「そこはエッチ出来なくても毎日ミーと会いたいってソッコーで言ってよ!スケベ!!」



……あ、そういうことか。



でも……


正直……


リアルにどっちか悩んでしまった俺はやっぱり怒られて当然?



ミーはそっぽを向いてしまった。


完全なるご立腹だ。



「ミー?」


「知らない!あっちゃんなんか知らない」



不機嫌になったら、ミーはなかなか手強い。


簡単に許してはくれない。



「ミー?」


「……」


「ミーちゃん?」


「……」


「可愛い可愛いミーさーん?」



背中まで向けてそっぽを向いている。


その背中を後ろから抱き締めてみる。



……これでもダメか。



前に何かで怒らせた時はこれで許してくれたのだが。



……押してダメなら。


抱き締めていた手をパッと離した。



微かに「え?」と言ったミーは首だけ振り返った。



「じゃあ俺からもミーに質問」


「な…なに!?」



ミーと何故か正座で向かい合い、俺は一呼吸置いた。



「たとえば……『毎日“好き”って言うだけでミーに触れない俺』と『ギュッてしてあげるけど“好き”を言うのを止めた俺』……どっちがいい?」



目には目を


歯には歯を



そんな質問を俺は投げた。



ミーはわっかりやすいぐらいガーンとショックを受けた。



むしろ想定外にリアクションが良すぎるぐらいだ。



可愛いな、おい。



「……選べる?」


「……」


「ミー?」


「……」



ミーはただただ黙っていた。


何か言っても負ける気がするんだろう。


だけど意地でも負けたくないんだろう。



別に勝負しているわけじゃないけど。



意地っ張りなミーが、それでも可愛くて好きだと思った。



思わず笑った。



「ミー?」


「……」


「ミーちゃーん?」


「……」



さっきと同じ言葉を言ったが、形成逆転?



だけど、意地悪はここまでにしようと思った。



「おいで」



囁くように誘うと、ミーはようやく顔を上げた。


ミーは一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに口をすぼめ、迷いを見せた。



意地っ張りもここまで来ると、こっちが焦れてしまった。


ミーを掴み、引き寄せた。



ギュッと抱きしめ、そして囁いた。



「好きだよ」


二者択一ではなく、二者択二の贅沢コース。


これならどうだ?



「……ミー?」


「……」


「…好き」


「……ん」



ミーは擦り寄ってきてくれた。


可愛い……。


俺はクスクスと笑った。



「ご機嫌直られましたか、お姫様?」


「えー…まだかなー」



ミーはそんなことを言いながらも、実際は俺に釣られるようにクスクスと笑っている。


ミーの髪をかきあげ、耳に短くキスすればミーはくすぐったそうに首をすくめ、もっと笑った。



「ちょっとぉ、あっちゃん!!」


「好き、ホントに大好き」



俺の膝に乗るお姫様の耳は真っ赤に染まった。



「あっちゃん」


「うん?」



ミーも俺をギュッとした。



「毎日ミーと会っていいからね!!」


「うん、そいつはどうも」


「エッチも毎日してもいいから!」


「…………別に毎日じゃなくていいよ、そこは」


「なんで!?あっちゃんのバカ!!」


「ええぇっ!?」


「遠慮しなくていいのに」


「いや、遠慮とは少し違うんだけども……」


「ミーに任せて!!」


「うおぉい!!」



何故かミーに押し倒される。


ミー、肉食にも程がある。



「待て、とりあえず落ち着け!!」


「あっちゃん、あっちゃん!!」


「どうした?」


「ミーも好き!大好き!!」



視線が絡めば、二人同時にフッと笑いをこぼした。


おでこを引っ付けたまま、二人で笑い合った。



例えば『笑顔のミー』と『大好きと言ってくれるミー』……どっちが好きかと聞かれたら、やっぱり選べないと思う。



どっちかじゃなくて、


全部のキミが欲しい。




~fin~

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