にゃーと鳴けば

第1話


「あっちゃん、あっちゃん♪」



ミーが呼ぶ声に俺は生返事をする。



「ちょっと、あっちゃん!!聞いてる?」



俺より二つ年下の後輩。


ミーと同じ18歳の中でも更にミーは幼い感じ。


出会った当初から、年上の俺に敬語ってものを使わなかったぐらいだ。


俺も別に礼儀にうるさいわけじゃねぇけど。



大学のサークル内では賛否両論だ。



俺としては、ミーのそんなフリーダムなところもミーなら許せてしまうっつーか、それがミーの持ち味なんだと思っている。


すげぇ年の離れた妹みたいなもんだ、精神的に。



「ねぇ、あっちゃんってば!!」



自分がされると嫌なくせに、他人には毎度平気でしてくるところとかも幼い。



勝手に人ん家に来といて、さっきまでスマホゲームしてて、俺のことをオール無視していたくせに、俺が本を読み出して自分に構ってもらえないことは気に食わないらしい。



どうでもいいが、俺は猫より犬派だ。


そんな感じで生返事を続けていると、ミーに眼鏡を奪われた。



「読書の時間はおしまいっ!!」


「いや……まだ読み終わってない」


「私がいるから本読むのおしまいっ!!」



視力の問題か、はたまたミーの主張の理不尽さか……どっちかわからないけど、俺は目を細めた。



「わかったから……眼鏡返して」



手を伸ばせば、ミーは嬉しそうに歯を見せて笑う。


多少視界がほやけても、それがわかるくらいご機嫌さが伝わった。



「あっちゃん、あっちゃん!!」


「何?」


「にゃーっ!!」


「…………は?」


「あっちゃん!!にゃー!!」


「……」



ミーから眼鏡を取り返し、装着しながら彼女を見た。



突然何だ?


気まぐれのフリーダムになりすぎて、ミーは猫語しか話せなくなったのか?


首を傾げていると、ミーはご機嫌斜めな感じで眉間に皺を寄せた。



そしてまた眼鏡を奪われる。



「あっちゃん!!」


「……だから何?」


「にゃーあっ!!」


「……にゃーあ?」



猫語で返事をすると、ミーがポンッと弾けた笑いをした。



「あっちゃん可愛い!!でもダメ!!『にゃー』はミーのものだから、あっちゃんは違う鳴き声にして?」



『にゃー』はお猫様のものであって、ミーのものじゃないと言ってやりたいが、ミーが楽しそうなので黙っておいた。



「あっちゃんあっちゃん♪にゃー!!」


「……」


「にゃーにゃー」


「……わんわん」


「ブッブー!!ハズレー!!」



一体いつクイズになったんだ。


自由にもほどある。


ここではミーがルールなのだ



ってなんだよ、それは。



「にゃー」



それでもミーは俺の肩に両手を添えて、甘えるように鳴いてくる。



……可愛いな。



だけど俺はなんて答えたらいいんだ?


これはクイズというか、笑点的な何かを求めてるのか?


面白いこと言え的な。


俺はそんな笑いのセンスなんて持ち合わせてねぇぞ。



つまりはミーが満足いく返事をしなくちゃなんねぇ。


可愛いと思えたのも一瞬で、もう面倒だ。



間近にいるミーを見ると、ミーがニッコリと楽しげに笑った。


だから結局俺はただひたすらミーに付き合ってやるしかない。


笑点は無理だから、動物の鳴き声で。



「にゃー!!」


「……チュー」



ネズミで鳴いた俺の尖らせた口にミーが唇を重ねてきた。


すぐに離れたミーの顔を俺はポカンと眺めた。



「……え?」


「えへへ、あっちゃんもう一回」


「……」


「にゃー?」


「……チュー」



正解だったらしい。



ミーの柔らかな唇が再び俺の『チュー』に触れた。



あー……やばい。


これはやばい。



俺はすぐに堪らなくなった。



離れようとするミーの後頭部と首を支える。



「ミーも言えよ。にゃー」



俺がそう促すと、ミーが照れたように笑った。



「あはは、何が?」



俺も釣られて笑った。



「何がじゃねぇよ。ほら、にゃー」


「……めぇー」


「ははっ、違ぇっ!!」


「もう~、おしまいっ!!」



おしまいとか言いながら、ミーがクスクス笑う。


俺も笑ってるけど、手を離す気なんてない。



「ミー?にゃー。ほら、にゃー!!」


「やだー、ぷは…なにこれ?」


「にゃーにゃー」


「あっちゃん、しつこいー!!」



俺の腕の中でずっと笑っているミー。


嬉しそうなミーを見て、俺も嬉しくなる。


でも逃がさないよ。



至近距離でミーを見つめる。


眼鏡なんて無くても平気だ。



「にゃー」


「……あっちゃん」


「ん?」


「……チュー」



可愛いから笑ってしまった。


ミーのピンクの頬っぺたを包んで、俺達はキスをした。



『にゃー』と鳴けば、『チュー』の合図。



今日も俺の彼女はめちゃくちゃ可愛いです。



-fin-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る