間章Ⅴ 6話 立場の違い
と言うことで、ナギも呼んできて、早速打ち合わせだ。
このコンビは、クラックスでのオートマトンの時にも活躍してたから、息ももうピッタリだ。
「つまりだな、木で筒を作って、その中にスプリングを仕込むんだ」
今まで、油圧ダンパーの形に引っ張られすぎていたからな(まあ、俺が適当なことを言ったのが悪いのだが)
「で、その中に、バネを押す形で芯棒を入れてだな、この芯棒に皮を巻いて、外の木の筒と摩擦を起こして衝撃を熱に変える」
「熱に?」
「ああ、手でもなんでも擦ると熱くなるだろ?あれは、運動の力が熱に変わるんだ」
「なるほど、じゃ、その木筒は熱に強い材の方がいいね」
「そうだな、ただ、皮は熱に弱いからな。熱を逃すための仕組みを入れると強度の問題が出るかもしれんから、その辺は色々試してみないとわからんけど」
「そうだとすると、外筒は金属の方がいいんじゃない?」
「できんことはないが、金属の筒を作るのは難しいんじゃぞ?それに、余程研磨せんと皮がすぐにボロボロになるじゃろう」
「確かに摩擦のことを考えると木の方がいいか」
「うむ、じゃが、足元に使うものじゃからな。水の影響で木筒が膨らんだりすると、動かなくなったりせんか?」
「んー、油に漬け込んで耐水性を出して……、さらに上から蜜蝋を塗るとか……」
いいねいいね。専門家が闊達な意見交換を始めたぞ。
こういう雰囲気大好き。
「ま、方針は決まったんじゃ、後はこっちで色々試してみるわい」
「わかった」
「あ、白龍山脈の樫、余ってたっけ?あれ使っていい?」
「ああ、裏に出しとくから、使ってくれ」
「ありがとー」
これなら、遠からず、試作品が上がってきそうだな。
「んじゃー、ちょっと出かけてくるわ」
俺はドワーフと、ブラウンエルフのいってらっしゃいを聞きながら、ルル達を呼ぶために工房を後にした。
だけど、探しても探しても、どこにもいないんだよな。
あれー?今日、行くぞって話してなかったっけ?
「あ、ティティ、ルルとニーナ見なかった?」
「あ、センパイ。ルルちゃんなら、あ……」
「あ?」
「え……いや。なんでもないですよ?」
「なんでもない時の反応じゃあないんだよなあ」
「えーっと……、言わなきゃ……ダメ?」
ティティが上目遣いでこちらを見ながら、ちょっと伺うようにそっと呟く。
ぐっ……。かわいい……。
だが、こんなことで負けたりはしないぜ。
「ダメじゃないけど、知ってたら教えてくれると嬉しい」
「そういう言い方……ずるいなあセンパイは……」
そういうと、ティティは少し悩むような素振りを見せた。
「うーん……ここじゃなんだから……、ちょっと外行こっか」
「わかった」
そして、俺たちは、家を出て、村をブラブラと当てどもなく歩きながら話をすることになった。
「うーん……ルルちゃんは……ニイナちゃんに、ちょっと思うところがあるみたいなんだ」
「思うところ?」
まあ、確かに、少し受け入れ難い思いがあるのは、俺も感じた。
だが、それほど重い、敵意と言えるような感じではなかったはずだが。
「うん。ルルちゃん、センパイたちがいない間、本当に頑張ってたんだよ。夜も見回りに出たりしてたし、あの子達が怪我とかしてないかすごく良く見てた」
「うん……」
「センパイが新しい女の子連れてきたことに怒ってるわけじゃないと思うんだ。『きっとまた新しい子連れてくるんすよー』って言ってたけど、ちょっと楽しそうでもあったからさ」
「…………」
「ふふ、もしかしたら、あの子、ボクたちエルフより、『仲間』を思う気持ちは大きいかもしれないね」
そうかもしれんなー。狼の獣人だからな。俺のことパックリーダーって言ってたし。
パックリーダーがいきなりいなくなって、新しいメンバー連れてきたら、不安定にもなるか……。
「多分、そう言う事じゃないと思うなあ」
「どういうこと?」
「あの子ね、多分、ニイナちゃんが、センパイを『信奉』してるのが嫌なんじゃないかなあ」
「信奉?」
「うん、なんて言うかさ。ルルちゃんはきっと『仲間』になって欲しいんだよ。あの子は『竜』を崇めてるんでしょ?でもセンパイは、まだ『竜』じゃない。自分の信仰するものに『一緒に居よ』と言われただけ。しかも彼女、自分で奴隷でいいって言ったでしょ?自分の意志でここにいるわけじゃない。そういう人間を、仲間だと思えないんじゃないかな」
うーむ。気持ちとしては分からなくもない。
だが、実際問題として、幼い頃から神殿で暮らし、戦争によって奴隷となった少女が、いきなり全く知らない他国に連れてこられ、「今日から君は自由です」と言われて戸惑う気持ちもわかる。
一方で、ルルの気持ちもよくわかるんだよな。
いくら、こちらが奴隷だと思っていないと言っても、実態として並列に扱ったとしても、彼女自身には、俺たちの仲間であるという強烈な動機がない。
これは、なんとも難しい。どちらも間違っているわけではないし、どちらの立場も理解できるからだ。
ルルは『ニーナの立場』その事自体が引っかかっているみたいだが。その実態のない『奴隷』という立場が彼女自分の安心につながっていることもまた一方で事実なのだ。
「俺はどうしたらいいと思う?」
俺は、自分より年下の少女のようなエルフにそう聞いた。
「どうもしなくていいと思う」
ティティはそう答える。
「多分センパイがどうにかしようとすると、余計に拗れるよ。彼女たちの問題は彼女たちで解決しないと……」
「そうだな……」
「多分、今頃、二人で話してるんじゃないかな。ルルちゃんも頭のいい子だから大丈夫だよ。ニイナちゃんの性格はまだよく分からないけど……」
「あー、あの子も従順そうに見えるが、多分、根っこは結構強いと思う。信仰の事に触れたりすれば。遠慮なく怒るだろうな」
「それくらいの方が、みんなとも付き合いやすいと思う。まあ変なことになってたら、その時に話でも聞いてあげればいいと思うよ。センパイが。リーダーとしてさ」
「リーダーってガラじゃないんだがなあ」
思わず漏らしたその呟きに、ティティは、少し驚いたような顔をした後、やがてくすくすと楽しそうに笑いだした。
「ふふ。世の中のリーダーになりたい人、全員に聞かせてあげたいセリフだね。でも聞いてみないとわからないものだなあ。まさかセンパイがそんなこと思ってるなんて」
「お?そうか?まだまだ、隠してることがあるかもしれないぞ」
「へえ?それは楽しみだな」
「ふむ。じゃあもう今日は、ラーダンにいくのは諦めた方がいいかな?じゃ、どうだ?このまま狩りにでもいくか?何気にティティと二人って今までなかったからな」
「本当!?嬉しい。じゃ、このままいく?」
「そうだな。そうしよう」
そういう事になり、鹿か猪でも狩るかと、俺たちは連れ立って森へと向かうことになった。
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