第23話 ネルのダイエット大作戦


「うーん……あっごめんなさい!」


 廊下を歩いていたところ唸り声を上げながら洗面所から出てくるネルにぶつかってしまう。


「ん。こっちこそすまん。何か悩み事か?」


「え、あー……まぁいいか。実はここ最近アタシの体重が増えていまして……」


「あ〜……」


 ノンデリな質問をしてしまったようだ。気まずくなり微妙な反応を見せると


「その反応……もしかして見てわかるレベルで太ってますか!?」


 反応を誤解されよりノンデリに見られてしまった。


「実は最近、欲望に素直に従おうって思う機会がありまして……それ以来食べたい!と思うとすぐにおやつを食べちゃって……」


「ガキの悩み?」


 我慢するよりはよっぽどいいことだとは思うが……


「アタシ元々他の人より食べる量が多いですけど、その分動くからいいかなぁと思っていたんですけどね。残念ながらこのありさまです」


 正直見た目だと全然わからん。むしろもう少し太った方が健康にいいんじゃないか?と思うほどだ。だが女の子の体重管理に男がとやかくいう権利はない。ここはおとなしく応援して立ち去ろう


「こうなったらもう道連れです!勝文さんにもアタシのダイエットに付き合ってもらいます」


「どうなったらだよ」


「勝文さんも健康に気を遣わなきゃダメです!ほら、一緒にランニングに行きますよ!!」


 ネルに腕を掴まれ引っ張られていく。

 待って?ネルの体力って桁外れだよね?

 もしかして殺される?


 そんな恐怖をよそに俺はネルの地獄のダイエット大作戦に強制参加することになった。


 ◆◇◆◇


 覚悟を決めてジャージに着替え、外に出るとランニングウェアを着たレインが待ちかまえていた。


「やあ。勝文くんもダイエットをするのかい。」


「正直巻き込まれたというか……レインはダイエットか?」


「ボク個人の希望としてはやりたくないのだけれど。」


「ダメウミュ。ご主人様はもう少し運動をするべきウミュ」


 ため息をつくレインの後ろからふよふよとライちゃんが現れる。ライちゃんは鬼コーチのようなハチマキをしており、やる気満々のようだ。


「まぁこういうわけさ。」


「最近のご主人の食生活は朝は菓子パン、間食にポテチ2袋にコーラ一本…… 昼と夜がネルのまともな料理であることを差し引いても目に余るウミュ」


「それは流石に改善した方がいい」


「しかし。MeTubeを見ながら食べるポテチは素晴らしく。」


 レインは言い訳になっていない言い訳をする。


「しかしネルくん主催というのがどうにも不安だね。」


「わかる」


「え?なんでウミュ?あの人真面目そうだしそんなに酷いことには……」


「じゃあ手始めに42.195キロランニング!始めますよ〜!」


 運動のためにポニーテールに髪を結んだネルは笑顔で俺たちに死刑を告げる。


「ウミュ!?」


 突然のフルマラソンにライちゃんは驚愕した。


「あいつ運動方面に関してはネジ飛んでるから」


「しかも彼女は運動神経がいいから。」


 バビューン


 一瞬で俺たちの目の前から消え去ってしまう。

 風に靡く彼女の髪はまるで競走馬の尻尾サラブレッドテールのようだった。


「まぁこれなら42キロ走らなくてもバレないだろうし……どっかで時間潰すか?」


 これは好都合だと俺はレインにサボりの提案をするが


 バビューン


「ごめんなさい!いつもの速度で走ったら二人を置いてくところでした!おふたりは運動不足とのことなのでおふたりのペースに合わせますね!」


 どうやら逃げるのは不可能のようだ。


「これって途中リタイヤって。」


「え?ランニングの後はダンスをしたりおすすめのジムに行ったりする予定だったのですが……」


「人間の運動能力を過信しすぎだろ」


「が、頑張ってウミュ〜」


「あ。あいつ逃げた。」


 ◆◇◆◇


「ハァハァ……」


「ゼヒュゼヒュ。」


 5キロを走ったあたりで限界がくる。むしろ5キロまで走れたことを褒めてほしい。


「頑張ってください!あと37キロです!」


 レインと出会った登山の日を思い出す。

 あの時もネルの提案でハードな山を登ったんだっけ。


「なぁ……ネル。俺たちのペースに合わせたらダイエットにならないんじゃないか?ここは俺たちを置いて先に」


「いえ!太極拳みたいな感じで結構体力使ってます!」


「ボクたちの走りは辛くなるくらいスローということじゃないかそれ。」


 流石にもう無理だ。リタイヤしたい。リタイヤさせてくれ。


「ほら勝文さん、レインさん頑張ってください!走り切ったらご褒美あげますから!」


「ご褒美って言ったってなぁ……俺たちは既に限界」


「走り切ったらト○コに出てきた料理なんでも作ってあげますから!」


「頑張る理由ができたじゃねぇか!!」


「それにネルくんなら間違いなく本物を作れる。任せて。今から即席で 触れてる間のみ疲れを完全に忘れさせるちゃんを製作するから。」


「忘れるだけで溜まりはするのが怖すぎる」


 俺たちは宝○の肉ジュ○ルミートやセンチュ○ースープのために42キロを走り抜けた。


 ◆◇◆◇


「おふたりともお疲れ様です!よくがんばりました!!」


 疲れ忘れちゃんを手放した瞬間床にぶっ倒れた俺とレインにネルは明るい声で声をかける。


 少し前のネルならばやりすぎたと罪悪感でヘラッカしそうなものだが、ネルはとても満足そうな顔をしている。


 これも欲望のままなのだろうか。彼女本質的にはSだったりしない?


「じゃあアタシは約束通り食材取りに行ってきますね!」


 ネルは俺たちを置いてグ○メ界に走り去っていく。あそこまで動く人間が太ったなんて何かの冗談だろ……


「ふふ。これで10キロは痩せたね。絶対に痩せた。」


 ト○コ世界の料理がうますぎて逆に太ったのはまた別の話である。

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