第6話
長い事ひっそりと、一部の探索者のみが存在を知っている隠れ家的なポジションで店を経営してきた。
しかし、率直に言って、湊はそれに飽きていた。
最初こそ、激レア店舗に偶然立ち寄ることのできた探索者の驚く顔を見て楽しんでいたが、ここに自力で来れるような探索者ははっきりいって極々一部だ。
もう見知った顔ばかりになって新鮮味がまるで足りなくなってしまった。
そんな時に、なにか面白いことはないかなーと、ぽけーっと考えていた湊の下にカメラを携えた美少女が偶然やってきた。
そして閃く。
良し、ここはカッコ良く、紳士然として実力も兼ね揃えた、ミステリアスな店主を演じて
つまりは客寄せに使おうと考えたのだ。
それがなんだ、この現状は。
「くそぉぉぉぉおおおお放せぇぇぇぇええええ」
「ふぇぇぇえええ、どこ擦ってるのぉぉお、エロ縄ぁぁあああ」
「はぁ」
店内は荒れ果て、縄にSM縛りをされる変態二人に溜息が零れた。
こんなはずじゃなかったのに。
もっとこう、かっこよく、スタイリッシュに捕まえて、あの女の子に「キャーー」って、そんな感じに黄色い歓声を上げて貰いたかった。
なのに現実は悲鳴だ。
あられもない恰好で自立型の縄に弄ばれている。
「絶対僕が望んだ反応じゃないんだろうなぁ」
そう言って湊は探索者向けの特殊加工スマートフォンを開いて配信サイトを覗いた。
彼女は確か有名配信者だったはずだ。
そこらへんに疎い湊でも流石に顔くらいは知っていた。
そしてランキング堂々一位の彼女の配信が目に留まる。
「うぇ、15万人もいってるやん」
激しいコメントの流れが配信の盛り上がりを物語っている。
────おい!パンツもズレてきてないか!
────ぽっち!乳首ぽっちエロい!
────ふとももの食い込みが……イイッ!b
────簾藤映せって言ってんだろうがタコ!!!
────ズームズームズームズームズームズームズームズーム
────あの縄なんだよ
────あの縄の名前を僕たちはまだ知らない
────それ封印しろって言っただろうが変態店主!!
すごい、盛り上がり方だった。
本当はもっと、自分に注目して欲しかった。
────なんだあの店主!
────そんなアイテムがあるなんて!
────化け物め
そんな感じのコメントが欲しかった。
もう一度コメントに目を落とす。
────なんだあのエロ店主!
────そんなグッズがあるなんて!
────変態め
正反対だった。
別にそっち方面に行きたかったわけではないのに、結果的にそうなってしまった。
湊はせめて彼女だけは解放してあげないと炎上しそうだと考えて、あられもない姿の恰好の小雛へと近寄る。
「助けてください!」
「あ、うん。もちろんそのつも────」
まるで散歩から帰ることを拒否する犬のように、小雛に巻き付く縄が暴れ出す。
余った末端部分をいやだいやだと振り回して、小雛から離れる事を拒否した。
対して簾藤を縛る縄は、もういい?と言いたげに湊を見ている。
「なんでそんな風になっちゃったかなー、って、あ」
暴れる縄がカウンターに置いてあったポーションに当たり、その中身をぶちまける。
その内容液を宙に撒き散らし、小雛にかかり、そして縄にも染みこんでいく。
「あーあー。もうお転婆だなぁ」
落ちた瓶を拾い、片づける湊。
そして、あ、と気付いた。
「ます、たぁ。なんだか、身体が、熱い、です」
顔が赤く火照った彼女がどこか物欲しげな顔で湊を見ていた。
顔に艶やかさが滲む彼女の瞳は僅かに濡れている。
腕や、太もも、縄に捲れて見えるお腹まで、見える素肌は顔同様に火照りが見られた。
間違いなく彼女は媚薬に侵されていた。
ポーションを吸い込んだ縄も心なしかぐったりしている。
縄なのに少し赤らんでいるように見える上、端っこがはぁはぁ、と荒い息をするように上下に揺れていた。
「え?君も?」
お前生き物じゃないじゃん、と内心で突っ込む。
小雛に視線を戻すと、凄い物欲しそうな顔でもじもじとしていた。
そして小雛のぽっちの主張が強くなったところで湊はカメラを叩き落とした。
スマホを覗くのは今はやめておこう。
湊はそう考えて、異空間から別の薬を取り出した。
それをぼーっとする彼女に嗅がせて眠りに就かせた。
「うん、かなりマズイ状態だったけどこれならもう大丈夫でしょ。ほら君も、対象が無力化されたんだから離れて。え?こんがらがって自力で解けない?それアイデンティティ大丈夫?」
仕方ない、と湊は眠る小雛の側で座り、縄に手を掛ける。
「んっ」
色っぽく漏れる声を右から左に流してややこしく絡まった縄を解いていく。
結果的に煽情的な彼女の身体をあちこち触ることになったが、致し方ない。
湊はようやく縄を解き終えて一息ついた。
「ふぅ!」
一仕事終えたと額の汗を拭う仕草をする湊は後ろからの視線に気づいて振り向いた。
「あ」
そこにはジト目でこちらを見てくる簾藤がいた。
「変態め」
心外だな、と思っていると、その言葉に腹を立てた縄がビュンッと簾藤の尻を叩いた。
「アフン!」
酷い絵面だった。
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