恋病、発熱。〜私に冷たい婚約者、誰かに恋愛指数100みたいです〜

待鳥園子

第1話「能力判定」

 いよいよ、十七歳の誕生日。能力(ギフト)判定の儀式だわ。


 判定のために用意された水晶が置かれた台に近付き、緊張しつつ真ん中のひとつに軽く手を置くと、三つの水晶に浮かんでいた記号がくるくると回り始めた。


 そして、私は神官の声に促されるままに手を離して一歩下がった。



ーーー★♡◆ーーー



 十数秒ほど回っていた三つの記号が速度を緩め、やがてピタッと揃った。


 その記号を確認したいかにも新人らしい神官がズレた眼鏡を直しつつ、分厚い本のページを荒い手つきで捲っていた。


 わ……慌てないでっ……!


 とても貴重そうな古い本なのに、古い紙が破れてしまうわ。


 胸を押さえてドキドキハラハラしながら、不器用過ぎる神官の動向を見つめていた。


「どれどれ……あ。こちらですね! はい。貴女の能力(ギフト)は人の『恋愛指数』を見ることのようですね」


 ああ。良かったわ。


 乱暴にページが捲られて心配していたけれど、破れることなくちゃんと目的の情報へと辿り着いたみたい。


 全てを写本するにはかなり大変そうな分厚い本が乱暴な扱いに無事に持ち堪え、それに安堵した私はほっと息をついた。


 そして、神官が教えてくれた能力の内容を、ここでようやく頭で理解することが出来た。


 ……『恋愛指数』ですって?


 何かしら。これまでには、聞いたことのない単語だわ。


「恋愛指数? それは、どういった数値を示すものなのかしら?」


 貴重な本が破れてしまわないか心配で、本題とは別のところに意識が飛んでいた私を不思議そうに見て居た神官へ問いかけた。


 落ちかけた眼鏡を再度直す神官の頭上には『60』という、まるで手書き文字のような可愛らしい数字がふよふよと浮かんでいた。


 あ……そうそう。


 今日、誕生日の朝に起きた時から見えていた。この数字は何なのだろうと、これまでにとても不思議だったのよね。


 だから、この神殿での能力(ギフト)判定を、すごく楽しみにしていた。


「はい。えっとですね……こちらの能力は、ですね。それぞれの恋愛指数が数値化されて、頭上に見えるそうです。えっとですね。僕の頭にも恐らくあると思うんですけど……こちらが……ですね……えーと……少々、お待ちください」


「……ええ。そうね。貴方にも、確かに数字があるわね」


 分厚い本に書かれた小さな文字を必死で読んでいる彼は『神官に成り立てです』と、顔に書いているような挙動不審な落ち着きのなさだった。


 私は本日、十七歳になったばかりなのだけど、彼が神官のお仕事をこの先上手くやっていけるのかしらと、とても心配になるわ。


 出来れば、もう少し、落ち着いた方が良いと思う。


 本人だけでなくて、こんなにも慌てている姿を見れば、周囲の人だって理由もなく焦ってしまうと思うもの。


 そうなのよ……本当に、大丈夫なのかしら?


 何度も掛けていた眼鏡を机の上に落としているし、ページを何回も開き直しているわ。


 古くて貴重な本だろうに破れてしまわないかと、手伝う事も出来ず見ているしかない私には心臓に悪い。


「……あっ! これだこれだ。お待たせいたしました……えっとですね。その人の恋愛の深さの数値が見えるそうです。つまり、その人が恋をしているとすれば、どの程度の深さで恋愛をしているか、数値化されてわかってしまうようですね。最低値は『0』に最高値は『100』で、その間で数値化されるようです。それと……同時進行で恋愛が深まっている場合は、一番高い方の数値が見えるそうです」


 ……ああ。この頭上に浮かんで見える数字って、その人の恋愛指数を表しているものなのね。


 神官の彼も『60』ということなのなら、割と恋愛指数が高い恋人が居るということなのかしら。


 けど……彼は恋愛するより、落ち着くことを優先した方が良いかも知れない。


 水晶に出て来る記号とこれまでの例が書かれた本の記述を照らし合わせて伝えるだけだというのに、本当に慌て過ぎだと思うもの。


「……そうなのね。なんだか、使いどころが良くわからない能力(ギフト)だわ」


 新米神官の必死な説明を聞き終わった私は、苦笑しながら頷いた。


 元々、そういうものだとは知っているけれど、判定されてどんな能力(ギフト)なのかを知ってしまえば『そんなものか』と思ってしまうことは避けられないのね。



★♡◆



 白の魔女が創ったオルレニ王国では、国民全員十七歳の誕生日にちょっと役立つ『能力(ギフト)』が覚醒する。


 創国の女王である白の魔女が、数百年前に国民たちの前で能力(ギフト)の件を宣言したそうだ。


 『果物の最高の食べ頃を見ただけで判別出来る』、『時計を見ずとも何時かわかる』、『地図を見なくとも、なんとなくで目的地に辿り着くことが出来る』などなど、能力(ギフト)の種類は人によってそれぞれ様々だ。


 けれど、能力(ギフト)は人生の中で何かとんでもない奇跡の起こるような能力ではなくて、生活の中で少しだけマシになる程度の可愛い魔法が、オルレニ王国国民全員に白い魔女からの|贈り物(ギフト)として使うことが出来るようになる。


 そして、国民たちに与えられる能力(ギフト)の種類も創国から数百年経った今では神殿で蓄積されて保存されていて、国民は十七歳の誕生日を迎えてすぐに三つの水晶による『能力判別の儀式』が行われ、自分にはどんな能力(ギフト)を与えられたかを、そこで知ることになる。


 これは、特に遺伝などすることもなく、どんな能力(ギフト)になるのか運要素がとても高いので、十七歳の誕生日の前の日は眠れない人も多いと聞く。


 その理由は、楽しみ過ぎて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る