魂の世界線
ありもと優
第1話 子供魂
1
魂の世界は、海が穏やかに波打つような子供たちのどよめきで溢れています。
番人の山じいは、いつも、雑草を抜いたり、木の枝を切ったりして、庭の整備をしています。
そして時々、池をのぞいては、蓮の花の清らかさに心がうばわれるのが常でした。
しかし、今日は子供たちの報告の日です。いのちの転生にかかわる大事な報告です。山じいは、大広間の布のほこりを払うために、庭を後にしました。
昼になると子供たちが、ひとり、またひとりとやってきました。全部で十ほどの子供が集まり、みな楽しそうにおしゃべりに夢中です。
そこで、山じいは手を二回たたきました。みなが一斉に彼を見つめました。
「みんな、課題はやってきたかな?」
すると、一人の少年が手をあげて言いました。
「僕は五つ向こうの星へ行くよ。目的は、歌をうたってみんなを励ますんだ」
また、別の少女は言いました。
「私は、ここから七つ離れた星でパートナーと一緒に、苦しんでいる人を救うの」
そうしている間に、次々と行く先と目的が山じいに報告されると、最後に少女がひとり残りました。
「フサコや。君の課題は?」
彼女は、しばらくじっと山じいを見つめていましたが、恥ずかしくなったのか、うつむいてしまいました。しかし、誰も彼女をとがめることをしません。
「よろしい。後で、ゆっくりお話ししよう」
ひとりひとりが報告書を提出すると、子供たちはみな揃って庭を横切り、帰って行きました。
大広間には、山じいとフサコだけが残っています。
「課題は決まらなかったのかい?」
山じいの優しい口調に、フサコは頭を横に振りました。
しばらく静かな時が流れ、風にのって木々の香りがあたりに漂いました。フサコは思い切ったような表情をして、山じいに伝えました。
「わたし、地球に行って、パンを焼きたい」
山じいは、驚いて、彼女を見ました。
「地球かい?本当に?」
「はい。他の星はもう行ったから・・・。でも、目的がパンを焼くことだけだから、みんなに笑われると思って、さっきは言えなかったの」
「フサコや。パンを焼きたいということも立派な目的じゃ。素敵なことだよ。しかし、地球か・・・」
どう返答するか、山じいは一瞬、迷ってしまいました。地球は、素晴らしい星ですが、ほかの星と比べて困難の多さは並大抵のものではないのです。
しかし、フサコを応援することに決めた山じいは、天井を指さしました。
「あの地球でいいんだね?」
その星は色鮮やかな空の色が光っており、他の星より小さなものです。
「はい。山じい。わたし、できるかな」
「できるさ」
今度は、迷わずに山じいはフサコに答えてみせました。
子供たちは、それぞれの星で目的を達成すると、ここへは戻ってきません。大人の魂となり、違う場所で新たな始まりを迎えます。山じいは全員を見送り、この宮殿が必要なくなるようにすることが、大事な仕事なのでした。
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