11-5. 対面

「……かつての栄光が忘れられない。気持ちとしては分からんでもない」

「時代は常に変わり続ける。

 変化、対応できない者の末路というものはじつに決まっている」 


 はっきりとモノ申す。

 悲しいものだな。しかし、これが資本主義か。歪なものでない以上、あるべき姿なのかもしれない。


「利する者たちで固められている集団ほど、その行動は御しやすい。

 一例に欧州を起源とした『脱炭素社会』の拡がり──。

 未だ十代の少女を担ぎ、メディアを通し全世界にそれを拡散させた。彼らの言わんとすることは、気候変動の大きな要因を作り出している自動車に焦点を合わせ、電気自動車への切り替えを訴え出たものであった。

 ……思惑としては、自動車業界に君臨する絶対的王者を締め出し、欧州起源の再興を図ったものであった。担いだ少女は、いうなれば救国少女のジャンヌ・ダルクとして見立てたみたいだが。

 ──結果はいうまでもない」

「見事に横から掻っ攫われてしまったからな、かの国に。

 ……いまもまた鉄板の環境問題を拠り所に腹芸を仕込んでいると聞く。忘れることが出来ないのであろうな、彼らもまた。

 彼らのバイタリティにはいつも驚かされる」

「彼らの根底には民族間を超えての矜持があるからな。黄色人種に対してのな。

 だからこそ、彼らはそれの下に集結できる。

 ……この動きには当然、資金も動く。

 世間で大きく取り上げられている『裏金』問題ではあるが、それ自体が悪いことではない。それは体現しようとしている事柄が大きければ大きいほどに、それだけ人手も多く必要となり結びつかなければならないからだ。

 問題はその方向性にある。私腹を肥やす・売国にあたるのか、ないのか。

 私からすれば、単純にそれを禁じようとする動きはますます国力を弱体化させるだけにしか見えてならない」

「……社会の根底にある『資本主義』の考えがある以上は人との結びつきを制限することは出来ない。本質がそこにあるのだからな。

 それからの脱却を求めるのであれば『社会主義』、もしくは『独裁』に転じるしかない。

 ただ、これは歴史的観点からみて、成り立つことがないのは明白。

 それでいてなお、世間が徹底的な清さ、クリーンな社会構造を求めるのであれば、人の結びつきに無償の愛を説いた主イエスの『隣人を愛せよ』という言葉に到達する」

「──銃を向けながらの、その物言いには冗談にしか聞こえないな」

「軍人である前に信仰者であるからな。戦禍に身を置く以上は、いつ死が訪れるかは分からない。常に遺書もしたためている。来る死への備えは、早く整えたほうがいい」

「よくもいうものだ。全くもって退屈をしない」


 青年は銃を向ける俺に対し背を向け、部屋向こうへ歩き出す──。


 奴の移動に合わせ、銃身を移動させる。


 ……奴は一体なにを考えている??


 奴の語る『これまでの経過』はたしかに筋は通っているようだ。

 半信半疑に思えていた話しではあったが、奴の語る言葉には納得させられる材料が十分にあって矛盾に感じることもない。

 奴もまた演習に関わる『関係者』なのか!? 

 仮に関係者だとしても、なぜそれを俺に話す?? 『経過を話すこと』が奴にとって、なんのメリットになる!? 

 ……少なくともそんな話しを司令はじめ作戦をサポートしてくれていた面々からは聞いていない。

 それは『実戦』を想定したシミュレーションであったからと言われれば、それまでであるが。

 仮にそうであれば、なぜ奴はそれを俺に話す?? 演習を終えたからか?? そうであれば、なぜ作戦室からの連絡はない!? 司令はじめサポートしてくれた面々からの言葉はあってもいいだろうに。


 ……なにより思うところがある。


 相手に銃を向け絶対的優位を保っていることから、心理的負担は少なく済んでいる。

 が、それ以上に気持ちが浮つく──。……敵意を感じないからか。そもそもなぜ、敵意を感じない!?


 ……なんなんだ??

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る