8-2. 目利き

「最近では一部の議員が年収、特権の内容をSNSで公開していると聞く。

 ……彼らにはまったく困ったものだ」

「年収にスポットが当たれば、『やれ下げよ』とモノ申す者が続出する。

 そうなれば、自己申告した者には好印象が生まれ、それ以外の者たちにはネガティブな印象が働く。

 彼らのワンマンプレーはじつに頂けないものだ」

「まったくだ。

 だからこそ比較的、的になりやすい公務員の年収をチラつかせ、難を逃れてはいるが」

「奴らの狙いは、次に迫る選挙準備といったところか。……我々を出しにして」

「──早計か、否か。

 舵を切るにしても、それなりの覚悟は必要だな」


 議員申告のうち最近表沙汰にされている裏金問題──。

 『大臣規範』で制定されながらも、『雲の上』と称される者たちにおいては、いまだ資金パーティーを続けている。

 メディアにたびたび取り上げられる、政党・派閥の『顔』と知られる彼らがそういう姿勢であれば、当然属している我々にもその火が及ぶのは必至であろう。

 その流れのなかで政党・会派に属している者たちからの『告白』は、訴え出た個人に好印象が生まれるのは違いない。世間からは信じ得るに足る『材料』を得られることだろう。

 しかし、同時に手痛いものを受けることにもなる。


 聖域となる『既得権益』を犯した者として、周りからは『腫れ物扱い』──。

 『無所属』となれば、支援体制も失うこととなる。


 もっともこれまでの党・派閥からの支援・働きかけには恩義を感じている手前、義理人情を厚く重んじる組織であればこそ『いっしょに沈む』ほかないのかもしれん。

 そういう意味では落選リスクがあるとしても自由に選択できる彼らに対しては妬みを覚える。

 ……可笑しい話だよ。


 立ち込める煙のなか、口寂しくなった先にフィルターを咥え再び吸い込む。

 相手もまた同じ所作をしては上へと煙を吐き出し、灰を受け皿へ落とした。


「七月に行われた『知事選』を鑑みれば、勢力図としては全くもって揺らぐことはなかった。

 ……『下馬』と大した取り上げも報道もされなかった者の破竹の勢いには驚きを禁じ得なかったが」

「そういえばそんなこともありましたね。『浮動票』をうまく搔っ攫ったと報道されていましたが──。

 しかし『不動票』がある限り、いくらSNSによる盛り上げを見せたところとて敵ではない。

 ──自身の生活に関わるそれさえも厭うことなく考え放棄した者たちには感謝しかない。

 彼らの姿勢は野党含め我々の『十分過ぎる日々の働き』を理解し、全面的に信頼するに足る『表れ』なのでしょう」

「「ははは……」」

「──統計学上では、彼らが票を投じない姿勢を崩さない限り、『団体票』の勝利は揺らぐことはない。

 哀れよな。既得権益を晒す彼らが前面に躍り出たのは都知事選での『かの者』から幾ばくか感化されての動きであったと思うが、目先の流行りに当てられて動き出したのは失敗だな」

「全世界で注目されている『米国大統領の発言』を以てしても不動票に属する彼らの姿勢はなんら変わることはない。さき十年は変わらんだろう。……そう簡単に人の心理に変化が顕れるわけなどない」


 再びフィルター越しからの煙を呑み込んでは脳内に巡らし、いまも円を描き続けている換気扇に向かって、勢いよく吐き捨てた。


「──先を見通すことが出来ない者たちには早々と退場頂いていい。

 それは我々にとっても──。そして有権者にとっても都合がいい」

「協調性の欠片もない自分本位の者には、その席は相応しくない。

 不思議にもそういった輩は自分を知らず如何に周りから煙たがられる存在かを認識していない。自ら率先して退場いただけるのならば、それこそお互いのためにいい」

「──ふっ。彼らの『新天地での活躍』を願おうではないか。手を合わせてな」

「「ははは……」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る