花園の吸血鬼
優月アリア
第1話
吸血鬼が人を襲う。それはもう、過去の話。
私は今、森の中の少し隠れた花園、とても美しい場所でのんびり暮らしている。
毎日かわいく響く鳥のさえずり。風に乗って飛んでくる花の香り。
ここ以上に美しい場所なんて、他にあるのかな。あるなら、実際に見てみたいと思ってしまう。
自作のハーブティーを飲み終わると、朝の習慣である読書をやめ、大きな幹につけられたドアを開ける。
すると、そこには思わず見とれてしまうほどきれいな自然達が目に入る。
ここは、今は亡き私のお母さんが作った花園で、動物たちにも楽園を作ってあげたいという思いに、当時惹かれた者達も多かったようだ。
そのため、お母さんの日記によると、妖精や人間も多く協力してくれて、そんな仲間達のお陰で作り上げられたそうな。
まあ、何百年前の広大な世界の中でのちっぽけな出来事な上、花園自体も森の奥の方にあるので、そんなことがあったという記録は場所も含めもう残ってないんだけど。
私は、そんな花園でも、お母さんの思いを、動物の楽園を守りたい。
動物だけじゃなくて、世界中の命を守れるような知識と力を身に着けたい。
そんな思いを抱えながら、毎日花園を管理しているつもりだ。
外に出ると、動物や鳥たちがこちらに集まってきた。
みんな、純粋な目をしていてとても可愛らしい。
鳥達は、私の肩や頭に乗ってきて少しくすぐったい。
「おはよう、みんな。」
幸せな気持ちになりながら、ハーブや薬草、野菜を育てている畑へと向かう。
今日は快晴だからか、夜少し降っていた雨で湿ってたはずの土はもう乾いていた。
薬、お茶、ご飯…。ここにあるものだけでこんなにも作れるものがある。
私は、魔法で容量を拡張した
冷たくて気持ちがいい。日差しが強く暑いから、余計に良い気持ちだ。
雪解け水は、ミネラルが少なくて、水温も湧き水より冷たすぎない。
この性質が、草花にとってはちょうどいいみたいで、お母さんは少しでもいい草花を成長させたいという思いから、5年間ずっと水の性質について研究していたらしい。
いや、ここにないだけで他にも日記を書いてた可能性があるから、もしかしたら10年以上研究してたかもしれないんだけど。
ちなみに、湧き水のほうがミネラルが豊富で、肌や髪に艶を与えてくれるから、
そっちのほうが美容にはいいとお母さんの日記の端の方に書かれていた。
お母さんの乙女心が垣間見えるその日記を見ると、すこし微笑ましく思ってしまう。
水を上げる前に、野菜を育てる畑に足を運ぶ。
ハーブや薬草、キャベツやレタスのような葉の部分を使う作物は、水を上げてから収穫したほうが、食感でいうとシャッキとした食感になるから別にいい。
しかし、トマトやナス、イチゴなどは、水やり前の収穫のほうがいいのだ。
水やりのあとだと、水分を多く含んだ状態で収穫することになってしまい、保存性が落ちたり、甘みなどの味が薄くなってしまうかもだから、
先に収穫したほうがメリットが大きいという理由で。
今のところ育ちきってそうな、さっきの条件に当てはまる野菜や果物を取り尽くすと、収穫したものが入っている取っ手付きの
そして、作物に雪解け水をあげ始めた。
蝶々達の羽にはかけないよう、作物を傷つけないよう、いつも通り優しく慎重に。
ハーブや薬草が水分を吸収するまで、1、2時間はある。
そのため、とりあえずさっき収穫しておいた作物を、花園の中心にある湧き水の噴水で洗おうと竹笊を持ち上げ、歩き出した。
その瞬間、とても強大な魔力を感じた。
大多数の動物たちが驚いて逃げてゆく。
あまりに一瞬だったので、何が起きたのか理解するまで時間がかかったが、これだけはわかった。
その魔力が、花園の入口である、アーチ型の門の方から発生したということが。
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