第7話 決闘
「やめて」楓華の口を突いて出た言葉は、自分で思っているよりも大きな声だった。「シロを離して」
「お断りします。この犬には、しっかり身分の差を教え込まなくちゃなりませんもの」
しぐれも毅然とした態度で、楓華の要求を突っぱねる。だが、それで大人しく引き下がれるはずもない。
「シロを私と同じにしたくない」
「……何を言ってるのかさっぱり分かりませんわ?」
正直、それは自覚している。だが、ここまで来たら後には引けないのだ。
「私はどうなったっていい。何でも言うこと聞くから、シロを離して」
「言いましたわね!?」
獲物を見つけた猟犬のように、しぐれは途端に目を輝かせた。シロなどもはや眼中にないと言わんばかりに楓華に駆け寄ると、紅潮した顔をぐいと近づける。
「ようやく、この光明院しぐれと決闘する覚悟が決まったと。そう受け取ってよろしいですわね!?」
「……分かった。それでいいよ」
半ば投げやりに、楓華は答える。慌てたのはシロの方だったが、時すでに遅し。
しぐれは鬼の首でも取ったかのように舞い踊り、
「もう撤回は出来ませんわよ! 早速準備をしますから、三十分後にグラウンドでよろしいですわね!? さあ貴女達、急いでプルタブを掻き集めますわよ!」
控えていた取り巻き達は、しぐれの指示で一斉に散らばった。しぐれ自身もどこかへ駆け去り、後に残ったのは楓華とシロだけ。
「……プルタブ?」楓華は一人首を傾げる。
「露木さまぁ! どうしてあんなこと言っちゃったんですか!?」
がばりとシロが身を起こし、泣きそうな顔で楓華に詰め寄る。
「光明院さまは魔女社会でも有数の名家なんですよ!? 魔法が使えないんじゃ、勝負にもならないのです……!」
シロの言葉に異論はない。万が一にも、自分が勝てる可能性があるなどとは思っていない。
それでも楓華は、このまま逃げることを是としなかった。大切なのは勝つことではなく、立ち向かうこと。大切な人を守ること。そう決めた楓華に、一切の迷いはなかった。
「……シロ、そんな顔しないで」
ぽろぽろと涙を零すシロ。大丈夫。大丈夫だよと、楓華は何度も声をかける。
何か言って安心させてあげないと。ああでもないこうでもないと悩んだ末に、楓華が発した言葉は。
「……恩着せがましくなっちゃうけど、シロにひとつお願いしていい?」
「な、なんですか!? シロに出来ることならなんなりと!」
「露木さま、じゃなくて。楓華って、名前で呼んでほしいな」
………………
「この光明院しぐれに楯突いたこと、末代まで後悔させて差し上げますわ! 露木楓華!」
「ふ、楓華さまぁ……どうかご無事でぇ……」
そして、決闘の時に至る。
楯突いたつもりは微塵もないのだが、そんなところを訂正してみても始まらない。
「……ちょっと露木さん! せっかくわたくしが格好良く口上を述べたのですから、何か気の利いた返しをしてくれないと困りますわ!」
「え……あ、ごめん」
怒られてしまった。楓華の反応待ちだったらしい。
しぐれはふんふんと鼻息を荒げながらも、取り巻き達に何やら指示を出した。それと同時に、取り巻き達は抱えていた袋の中身を、グラウンドに満遍なくバラ撒き始める。
「これは……プルタブ?」楓華はしゃがみ込んで、そのひとつを摘まみ上げる。
「露木さん、勝手に触らないで頂けます!?」
「ご、ごめん……でも、これは何に使うの?」
「ふふふ……そのプルタブに目を付けるとは、さすが露木さん。前評判に違わぬ秀才ですわね!」
これだけ盛大にバラ撒いていれば誰でも気になると思うのだが、それをツッコめるような者は誰もいない。
仕方ないから説明してあげますわ、としぐれは何処か嬉しそうに胸を張っている。
「これは光明院家に伝わる設置型魔法のひとつ……その名も『地画天象』ですわ!」
「じがてんしょう……?」
「そのプルタブひとつひとつには、わたくしの魔力が込めてありますの。それらを自在に結び合わせて、敵の侵入と逃走を阻む攻防一体の布陣! 大地に浮かび上がる星座の如きこの美麗なる魔法に、貴女は為す術もなく倒れ伏すでしょう!」
言い終わるや否や、周囲からどっと大拍手が湧き起こった。たじろぐ楓華に、後方から見守っていたシロが助言を入れる。
「光明院さまが2つの物を結ぶと、その間に熱線が走るのです! 楓華さま、光明院さまの手の動きを……」
「ちょっと! そこまで教えるつもりはなくってよ!」
「ひうっ」しぐれに一喝され、シロはびくりと身を竦ませる。
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