第43話 ハーフオークはディーデレックのお爺さんと戦う

ディーはお爺さんの名前を知らない。

ディーのお父さんは意地っ張りで、頑なに言わなかったらしい。

それどころか、この街にいるかどうかも謎だ。


まあ、凄い鍛冶師だから恐らくこの街にいるんだろうけど・・・って思いながら、

妹たちと王都ともメレンドルフ辺境伯の領都とも全然違う、鍛冶師の街をそぞろ歩きしていた。


お爺さんの作った大盾をディーは目立つように持っていて、

できたら向こうから声をかけてもらう作戦だ。

シャティヨンの恐ろしい魔法を防いだ凄い大盾だから、きっと有名なハズだ。


2時間経って、小さな路地を歩いていると横からガサツな大声が轟いた。

「おい、姉ちゃん。その大盾はもしかして、バルトロメジの爺のやつじゃないか!」

声を掛けてきたのは、背は低いけど筋骨隆々、髭もじゃの如何にもドワーフの鍛冶師だった。


「バルトロ・・・ってどこにいるのか、教えてくれないか?」

「うん?知らないのか?あいつの大盾だよな?

それより、なんでドラホミールがいないんだ?」

ようやくディー以外に目を向けたドワーフは、不思議そうに尋ねた。


お父さんの名前を聞いたディーがテンションを上げた!

「ドラホミールはワイのお父はんや。ワイ、お爺さんに会いに来たんや。」


ディーの言葉にそのドワーフは驚き、そしてディーを見て優し気な目を向けた。

「そうか!ドラホミールの娘か!もうこんなに大きくなって!

それで、ドラホミールはどうしたんだ?アンタのお母さんは?」

「二人とも亡くなってしもたんや・・・」


「そうか・・・ドラホミール・・・駆け落ちするんなら、幸せに長生きしろよっ!

こんなかわいい子、残して死ぬんじゃねえよ!」

言葉の厳しさと裏腹に、ディーの父を悼む気持ちが凄く伝わって来た。

仲のいい友達だったんだな・・・


ディーはお父さんを亡くした悲しみが蘇ってきたようで、悲しそうに俯いた。

俺はディーの肩を優しく抱いた。

「一度でいいから、この子をお爺さんに会わせたいんだ。案内してくれないかな。」

「・・・おう。儂について来い。」


そのドワーフは黙ったまま5分ほど歩くと、一回り大きな工房に入っていった。

「バルトロメジ、アンタにお客さんだ。」

それだけ言って、そのドワーフは俺たちを気にすることなく帰っていった。


出てきたドワーフは、半分白くなった髪をワイルドに伸ばしていた。

これがバルトロメジ、ディーのお爺さんか。

50歳は超えているハズなのに、やっぱり筋骨隆々で、したたるような精気に溢れていた。


「アンタたちは?」

「ワイ、ドラホミールの娘で、ディーデレック言います。」


ディーが緊張しながら、ペコリと頭を下げると、ディーのお爺さんは目を見張った。

「ドラホミールの娘?・・・アイツはどうしたんだ?」

「お父はんは2年ほど前、病気で亡くなってしもうたんや。」

「!!!」


ディーのような大きな孫がいるとは思えないほど精悍なドラホミールが、一気に精気を失っていた。

「・・・アンタのお母さんは?」

「5年ほど前にお産の時に赤ちゃんと一緒に亡くなってしもた。」


「そうか・・・馬鹿息子め!

駆け落ちしておいて、妻を守れず、子を守ることなく死ぬとは!馬鹿め・・・」

ドラホミールはゴン!と壁を叩いた。

俺たちはもちろん、ディーも何も言えなかった。


「・・・アンタ、せっかく孫娘が訪ねてくれたんだ。上がってもらって話を聞こうよ。」

ディーのお婆さんだろうか、涙を浮かべていた。


奥の部屋に招き入れられ、大きなテーブルをみんなで囲んだ。

俺たちの前にはお茶が用意され、ドラホミールの前にはウイスキーが用意された。


「あの子のこと教えてくれるかい?」

お婆さんのすがるような声を聴いて、ディーが話し始めた。


メレンドルフ辺境伯領で鍛冶屋の娘として育ったこと。

お父さん、お母さんに愛され、家族仲良くすごしていたこと。

夫婦喧嘩や親子喧嘩が何度もあったけど、すぐに仲直りしたこと。

その喧嘩の話では、ドラホミールとお婆さんも微笑んでいた。


それから、お父さんが良い武器を作っていたこと。

お母さんが赤ちゃんを産むときに亡くなってしまったこと。

そして、気落ちしたお父さんも病気で亡くなり、そして工房を奪われてしまったこと・・・

ここで一旦、話が途切れた。


お婆さんはグスグスと泣いていた。

お爺さんは赤く潤んだ目をかっと見開いた。

「あいつの作った武器を持っているか?」

ディーの片手メイス、ディアナのサーベルがテーブルにそっと置かれた。

お爺さんはそれをじっくりと見て、微笑んで肯いた。

「なかなか、やるじゃないか・・・もう少しで儂を超えたのに・・・どうして・・・」

笑顔が歪み、お爺さんも泣き出してしまった・・・


しばらくしてお爺さんが泣き止んだので、ディーが今度は俺たちとのことを話し出した。

借金取りから助けられて、パーティを組んだこと。

一緒に魔物を倒し、それから回復魔法が上達していったこと。

トリクシーと出会ったこと。

スタンピードのこと。

そして、メレンドルフ辺境伯領から逃げ出したこと。

ついでに、シャティヨンのこと。


「本当なら伝説の主人公みたいに波乱万丈だな・・・」

お爺さんが俺たちを値踏みするように見ていた。


「あの、すいません。俺のメイスもディーのお父さん作です。」

遅ればせながら歪みに歪んだメイスを見せた。

「おいおい、このメイスをこんなにするなんて、もったいない・・・いや、逆に凄いのか?」


お爺さんは俺を上から下まで見て、ロックオンした。

「おい、見れば見るほど中々の体じゃね~か。孫娘を託すに足るかどうか、儂が試してやる。おい、酒だ!酒を持ってこい!」


お婆さんがいそいそと動き出し、テーブルの上に酒ビンが10本ほど並んだ。

そして、何が始まるんだとポッカーンとしている俺にウイスキーが並々と注がれた

グラスが手渡された。


「孫娘を託すに足るかどうか、儂が試してやる。

儂のような爺に負けるようじゃ話にならんわ!」

爺がぐっと飲み干して、ニヤリと笑って挑発してきた!

「どうした?飲めないのか?んん?」


カッチーン!

もう、ディーのお父さんからディーを託されているんだよ!

頼まれてはいないけど!

俺がディーをちゃんと守っているんだよ!

ディーと初めて会った爺に試される謂れなんてないわ!


だけど、舐められたままではいられない。

俺はウイスキーをぐいっと飲み干した。

キ、キツイ。


「リュー兄ィ、大丈夫?」

「ディーは俺たちの仲間だ。俺の大事な妹だ。ぽっと出の爺に負けるかよ!」

「ニイヤン、かっこええ!」


ディーが歓声を上げると、爺はカチンと来たようだった。

「体と態度はデカイが、飲み比べで儂に勝てると思うのか?」

グビッ!

「ふん!俺は飲み比べで負けたことなんてない!」

グビッ!


「ドワーフを舐めるな!」

グビッ!

「俺を舐めるな!」

グビッ!


「中々、やるじゃないか。」

グビッ!

「そっちこそ!」

グビッ!

・・・

「ういぃ~、お前、辛そうだぞ・・・負けを認めたらどうだ、ヒック。」

グビッ!

「爺こそ、眠いだろ?もう眠っちまえよ~、へいヨ~」

グビッ!

・・・


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