第17話 ハーフオークは火事を起こして逃げ出した

☆、応援コメントおーきに!ワイ、頑張るでぇ!


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ディーが仲間になって10日後。

夕食まで少し時間があるので、薄暗い中、俺は小さな庭でメイスを振り回していた。

ディアナが夕食をつくっていて、アレッタとディーが何やら騒いでいた。

仲良くなってよかったよ。


「おい、ハーフオーク。」

突然現れた孤児院の先輩ホルガーが声を掛けてきた。

ホルガーからなにやら悪意と自信をたっぷりと感じる。

この前、ディーの鍛冶屋で出会った時は俺にビビっていたくせに。


「なんの用だ?」

「エルケは知っているか?」

「エルケ?孤児院の4歳の女の子か?」

「知っているなら話が早いな。エルケを預かっている。

孤児院へ帰してほしかったら、一人で、手ぶらでついて来い。」

「・・・わかった。」


ホルガーが案内した先は、ディーの家の近くの一軒家だった。

「怖かったら帰っていいぜ。エルケがどうなってもいいならな!」

「ふん!」

ホルガーに続いて、家の中に入った。

大きな部屋の反対側、護衛の後ろにスキンヘッドの強面が豪奢な椅子に座っていて、

その隣のソファでエルケは眠っているようだ。よかった。


部屋の壁沿いに人相のわるい奴ら10人ほどが短剣やナイフを持って並んでいて、

すっかり取り囲まれていた。コイツ等はヨーゼフ・ファミリー、スキンヘッドの強面ヨーゼフがトップのマフィアだ。

縄張りはこの近辺のみ、構成員は20人ほどの弱小マフィアで、ディーのお父さんを嵌めた奴らの一員だ。


ヨーゼフは酷薄な薄笑いを浮かべていた。

「ハーフオーク、よく来たな!

この前は世話になったな。お陰で計画が狂っちまったぜ。」


「借金はちゃんと返済したから、ちゃんと儲かっただろ?

言われたとおり、一人でやって来たんだから、エルケをさっさと返してくれよ。」


ヨーゼフやマフィアの連中の酷薄な笑いが大きくなった。

「お前が言うことを聞いたら、エルケはちゃんと無傷で孤児院に帰してやるよ。」

「何をすればいいんだ?」

「今すぐ、お前一人でこの街を出て行け。お前がこの街にいる限り、周りの奴らが何故だか不幸になるぜ!理由は分からんがな!くふふ!」


下っ端が短剣やナイフを軽く振って威嚇してきた。

だけど、優位を確信しているせいか、誰一人として殺意を感じない。


ふん!

「ディアナ、アレッタ、ディーデレックはどうなるんだ?」

ヨーゼフが今度はイヤらしく鼻の下を伸ばして笑った。

「決まっている。ヨーゼフ・ファミリーのために働くのさ。死ぬまでな。」

「「「「へっへっへ~!」」」」

イヤらしく笑うヨーゼフ・ファミリーの部下ども。


怒りが体中を駆け巡り、充満していて、今か、今かと放出されるのを待っていた。

決めた。皆殺しだ。

「わかったよ。」

「そうか、わかったか!ぎゃはははは!」


俺はゆっくりと振り返ると、そこにあるデカい棚を横倒した。

ゴツン!

上から振って来た本棚から逃げ切れなかった下っ端の頭をつぶしたあと、今度は水平に全力で振った!

「うわあ!」

ゴツン!

バキバキ!

驚いて一瞬固まってしまったヨーゼフの護衛を本棚でぶっ飛ばし、

さらに壊れた本棚から散らばった本と棚が下っ端どもに直撃した。


動揺した下っ端どもの顔を俺は拳でべこべこにへこましていく。

残り半分!

動揺して動けないマフィアの下っ端どもを見て、ヨーゼフが甲高い声で叫んだ。

「く、来るな!こいつを殺すぞ!」


俺はその場で右足を高く上げ、思いっきり下に降ろした。

ドン!

「ひいぃ!」

奴らが大きな足音にビビった瞬間、エルケを殺そうとしているナイフを、ヨーゼフの手ごと蹴りあげた。

「ぎゃ~!」


「うん、な~に?」

ヨーゼフの悲鳴で起きてしまったエルケを優しく抱き上げた。

「大丈夫だ、もうちょっと眠りなさい。」

「リュー兄ィ・・・」

エルケは俺の胸に顔を押し付けてまた眠った。将来、大物になりそうだ。


「ゴラぁ~!」

バックハンドブローで後ろから襲ってきた下っ端をぶちのめした。

「うわぁ~!」

圧倒的な力の差にあっけなく戦意を喪失し、扉に殺到した下っ端どもに追いついて全力で蹴り飛ばすと、奴らは折り重なるように倒れた。


「あっ!」

ランプがさっきまでエルケが眠っていたソファの上に落ちると、ソファが燃え始めた。

「俺は悪くない!うん、事故だな!」


「ハーフオーク!」

本棚にやられたホルガーが倒れたまま、俺の足首を狙って短剣を振って来た。

「はい、どーん!」

俺は軽やかにジャンプして躱して、ホルガーの腹に着地してやると、ホルガーは

げえげえと血反吐を吐き始めた。


「殺される覚悟は出来たか、ホルガー。」

「た、助けてくれ、ハ・・・リューク。頼む!」

「久しぶりに名前を呼んでくれたな、ホルガー。じゃあな。」

俺はホルガーの顔を全力で蹴ると、ホルガーの体は半回転して壁に後頭部を強打していた。


「ああああああああ・・・」

悲鳴に振り返るとヨーゼフが座り込んでいた。腰が抜けているようだ。

その股からジワリと液体が流れていく。

「マフィアのドンが小便もらすんじゃないよ。」

「ああああああああ・・・」

せっかくの冗談だったのに、ヨーゼフから「あ」以外の言葉は出なかった。


俺は短剣を握りしめたまま死んでいる、ホルガーの手を握って持ち上げた。

そして、剣先をヨーゼフの顔目掛けてゆっくりと前進していく。

「た、助けてくれ!」

ヨーゼフは動かず、イヤイヤしながら叫んだ。


「お前、これまで助けてくれっていう奴を助けたことがあるのか?」

お前のことなんて、これっぽっちも知らんけど。

「ある!何度もある!あるから助けてくれ!」

「へ~、そうなんだ。死ね。」

「ぎゃ~!」

俺はそのまま、ヨーゼフの右目に短剣をぐいっと突き刺してやった。


そんなことをしている間にソファから壁に火が燃え移っていしまった。ヤバい!

「燃え広がらないといいなぁ。マフィアが内部抗争で自滅したって話になるといいなぁ。」

俺はエルケを優しく抱いたまま、孤児院に向かって歩き出した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


その次の日の昼前、俺は正座させられていた。

ディアナ、アレッタ、ディーが腰に手を当てて、冷たい視線で俺を見下ろしていた。

「ねえ、リュー兄ィ、昨日の夕方、どこ行ってたの?」


「あ~、庭で素振りしていたら、エルケが走っていてさ、

追いかけまわして、やっと捕まえて、孤児院に連れて帰ったんだ。

夕食に遅れてごめんね。」


「へ~。エルケはリュー兄ィと遊んでないって言ってたにゃ!」

「うぐっ!」

「吐け!」

「吐け☆」

「吐くんや、ニイヤン!」


三人娘は顔を近づけてきたが、俺はとぼけてみた。

「おっかしいな~、気のせいだったかな~。」

でも、自分の目が泳いでいるのがわかる。


「昨日の夕方、ヨーゼフ・ファミリーのアジトが火事におうて、10人ほど、死んどったらしいわ。」

「そりゃ大変だ。火事は燃え広がったのかい?」

「アジトだけで済んだわ。」

「そりゃ、良かった。」


「リュー兄ィ、ホントのこと言って!」

「アレッタたちを信じてくれないにゃ?」

「お父はんの仇を討ってくれたんやろ!なあ、教えて~な!」

三人娘に縋りつかれてしまった。ダメだ、嘘とか付きたくない。


「絶対に!絶対に!誰にも言っちゃダメだぞ。

いや、聞いたらすぐに忘れろ。誰とも、この仲間うちでも話すな。」

ディアナとアレッタ、ディーはゴクリと唾を飲んで、肯いた。


「実は、アイツらにエルケが誘拐されて、アジトに一人で来いって言われたんだ。

それで、あんまり腹が立ったから、大暴れしちゃった。」

「何、可愛らしく言うとんねん!」

「やったのは皆殺し☆」

ディーとディアナから突っ込まれてしまった・・・


だけど、ディーもディアナもアレッタも寂しそうな瞳をしている。

「リュー兄ィ、一人で行っちゃ駄目にゃ・・・」

「行くときはアタシたちも呼んでよ・・・」

「もう、復讐なんかせんでええからな・・・」

アレッタ、ディアナ、ディーは俺を優しく抱きしめてくれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ディーデレック

「ちょっと、今から出てくるわ。」

「一人でどこ行くの?」

「お墓参りや。」


さりげなく一人で出かけようとしてたのに、声かけられてもうて、4人でお墓詣りに行くことになってしもうた。

なんや、気恥ずかしいわ。


お父はん、お母はんが眠っとう小さなお墓に花を手向けた。

(お父はん、お母はん、ごめんな。鍛冶屋、盗られてもたんや。ほんま、ごめん。

でもな、その代わりに、新しい兄妹が出来たんや。隣におる、冒険者パーティ『ハーフムーン』の3人や。

リューク。優しうて、大らかで、めっちゃ強いニイヤンや。

ディアナ。料理が美味くて、索敵が凄くて、剣も冴えてんやで。綺麗な子やろ?

アレッタ。最近、ようやく、仲良くなったんや。この可愛さやのに、やっぱり索敵が凄くて、矢は百発百中なんやで。

みんな、凄すぎやねん。


この3人がマフィアの奴隷にされそうになったワイを助けてくれたんや。

全然知らん、赤の他人やったのに、大金貨5枚(250万円)も払ってくれたんや。

アホやろ?


あげく大金貨5枚の見返り求めへんし、めちゃめちゃ優しく世話してくれるんやで。

アホやろ?


お爺の大盾、お父はんのメイス、お母はんの形見のサーベル、じっくりと見せたったのに、借金の肩で取り上げへんのやで。

ほんま、アホやろ?


もうな、この3人のこと大好きになってもうたんや。

だから、この3人と一緒に生きていくわ。

危ない仕事やけど、この3人と一緒なら大丈夫やから心配せんと、二人、天国を楽しんどいて。

お婆になってから行くから、ワイの冒険譚を楽しみにしといてや。

また、ここに報告に来るけどな。ほな、また。)


目を開いて、兄妹を見てみたら、ニイヤンは両手に花やった。

「リュー兄ィ、ディーのお父さん、お母さんに何を伝えたの☆」

「ディーは絶対に守ります!って誓った。ディアナとアレッタは?」

ニイヤン、ワイのこと、好き過ぎやろ~!恥ずかしいわ!


「ディーに美味しい料理を食べさせます☆って誓った☆」

ディアナ、ホンマ、頼むわ!


「怪我したら、治してもらうにゃ!」

それ、違うやろ!まあ、治したるけどな!


「一緒に来てくれて、おーきに。ほんなら、帰ろか。」

「また、来ようね☆」

「ディーのお父さん、お母さんっていうことは、アレッタのお父さん、お母さんにゃ。」

「そや!みんなのお父はん、お母はんや!」

この3人と出会って、ホンマ、良かったわ!

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