勇者、伝説の聖剣を抜く

「しまった、避けろ!」

 俺はそう叫んで身を投げ出した。


 次の瞬間、俺たちが口論していた場所を熱線が貫いていき、はるか遠方にある壁面に当たり、ダンジョン全体を巻き込むほどの揺れが襲いかかった。


「あ、危なかった……。みんな、大丈夫か? 怪我はないか?」

 揺れがおさまりつつある中、俺は頭を振りながら仲間たちの安否を確認した。


「大丈夫、問題ないわ! はやく殺りましょう」

 こういう時には頼りになる強気な女剣士の声が聞こえた。少々物騒なのは聞かなかったことにする。

 その奥ですでに剣を抜いている戦士が無言のまま頷いたのが見えた。


「賢者? 賢者はどこに行った? 大丈夫なのか? おい、返事をしろ!」

 俺は返事がない賢者の姿を探して辺りを見渡した。しかし、どこにもその姿は見当たらない。最悪の想像が頭をよぎる。


「こ、ここだってば……」

 だが、俺の耳はわずかなその声を聴き逃さなかった。


「賢者! 無事か! 今どこ……に……」

 その言葉は最後まで発せられることはなかった。何故なら、声は身体を投げ出して横たわっていた俺の身体の下から聞こえてきたからだ。


 そう、賢者は俺が咄嗟に身を投げ出した下敷きになっていたのだ。

 顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている賢者。なんかいい匂いがする。そして、右手の柔らかい感触は……。


「いつまでそうしてんのよ!」

 直後、俺のケツに激しい衝撃が走ったかと思うと、俺はその場から数メートル吹っ飛ばされた。


「ったく、油断も隙もあったもんじゃない。このスケベ勇者! 敵より先にあんたを殺るわよ!」

 女剣士が悪態をつきながら賢者に手を差し伸べて起こしている。ったく、俺にもそれくらいの優しさがあっていいと思うんだがね。


「貴様ら……暗黒教団の聖地を荒らすだけでは飽き足らず、この我を無視して騒ぎ立てるなど、許しがたき蛮行!」


 俺たちのコントにさすがの教祖も業を煮やしたのか、怒り心頭といった具合でこちらを睨みつけていた。それはまさに世界の破壊をもくろむ悪の大ボスといった迫力だ。痩せこけた身体からは計り知れない強者のオーラが立ちこめている。


「ああ? てめーの企み、ここで俺たちがきっちりくっきり最速で打ち砕いてやるよ」

 そうだ。俺は最速でこの世界に平和をもたらして元の世界に帰るんだ。


 俺は伝説の聖剣を抜いた。仲間たちもそれぞれ戦闘準備が調ったようだ。


「愚か者め! 目的を前に死にゆく貴様らの絶望、暗黒破壊神の贄としてくれる!」

 こうして教祖との戦いが始まった。

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