勇者パーティー、ラストダンジョンへ乗り込む
「今日中に決着を付ける」
賢明なる読者諸君は覚えているだろうが、俺のプレイスタイルは『バグ技あり』のレギュレーションだ。
『ドラゴニック・ファンタジア』にはバグがいくつもある。例のケーキ装備技――ちなみにあのケーキはさすがにこの最終盤では通用しなくなっているので、今はちゃんと勇者専用の伝説の剣を装備している――の他にもいくつかあり、なかでも有名かつ最重要なのが今から使うバグ技だ。
「今日中に? どうやって? あんたが急いでるのは知ってるけど、ホラも大概に……」
「まあ見てろって」
そう言っているとき、壁をぺたぺた触っている感触が不意に消えた。ちょうどうまい具合にその場所を見つけ出したのだ。
「あった」
言って、準備中の仲間の様子を見た。
戦士は準備完了してたき火を消している。賢者は今起きたのだろうか。寝ぼけ眼で近くの小川で顔を洗っていた。
俺は女剣士の方を見て、
「お前も準備しろ。すぐに行くぞ」
そう言って俺もたき火の所に置いていた武器と道具類を取りに行った。
「ふっふっふー。おたから、おたから、楽しみだな~♪」
元プリンセスの賢者が奇妙な歌を歌いながら隠し階段の前までスキップでやってきた。これで四人全員の準備が揃った。いつでもラストダンジョンへ入ることができる。
「よし、これが最後の戦いだ。気を引き締めていくぞ」
「ええ」「うん!」「…………」
俺がカツを入れるといつも先頭の戦士が玉座裏の隠し階段から入ろうと歩を進めた。それを俺は止めた。
「いや、そこじゃない」
「…………?」
戦士が怪訝な表情をする中、俺は一見何もない、ただの壁を前に仲間たちを誘う。
「こっちだ。騙されたと思って俺についてきてくれ」
そのまま、壁の中に入っていった。
「……………………!」
「えぇっ!? 壁を抜けた? あ、あんた何を……!」
「その技、もしかしてどんなお城の財宝も盗りたい放題? あたしにも教えて!」
それぞれに驚きの声を上げる仲間たち。だが悪いが彼らの驚きに構っていられる暇はない。何故なら、俺は急いでいるからだ。
「いいから来い!」
俺は一番手前にいた女剣士の手を掴んで引っ張った。そのまま壁の中へ。
「きゃ――――っ!」
魔王戦でも嬉々として魔法剣を振り回してたこの女剣士にそんな女の子らしい悲鳴を出せたことに俺は驚いたよ。
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