勇者一行、この旅始まって以来の衝撃を受ける

「ま、そういうわけなのよ」

 賢者は燃えさかるたき火をじっと見つめながら呟くように言った。


「?」

「だから、あたしはこの癖が抜けなくて実家を追い出されたってわけ。どうせだから盗賊として頂点を究めようって勇者のパーティーに入ったんだよ」


「……盗賊を究めようとして勇者のパーティーに入ってくんなよ」

 こっちも妙に納得した。こいつとの出会いは酒場だった。先ほどと同じく、俺の財布をスったのがことの始まりだ。


「はぁ、何言ってんの? 強引にパーティーに入れたのはそっちじゃんか」

 あきれ顔で盗賊……もとい賢者が言った。


 そういえばそうだった。こいつはよりにもよって酒場で俺の財布を盗んだ。その時ちょうど腕の立つ盗賊を探していたのもあって、酒場の女主人に半ば押しつけられたんだった。


「これでようやく実家に顔向けできるってワケか? なんと言っても世界を救う勇者パーティーの賢者なんだぜ」


「そういやあんたの実家ってどこなのよ? あたし達の城下町出身じゃないみたいだけど」

 女剣士がいうには、あの酒場で悪さをするような命知らずは余所者だけだという。……どんだけだよ、あの店主ねーさん


「……………………」

 女剣士の問いに、賢者は珍しく沈んだような表情をした。

 それも一瞬のことだった。俺でさえ見間違えかと思えるほどの一瞬。


「お城」

 ぼそっと言った。


「あー、お城ね。よくある話よね。うんうんお城」

 俺がその言葉の意味を理解するのにたっぷり十秒はかかった。

「えぇぇぇぇぇぇ? お、お城? 城ってまさか、まさかあの城?」


「城を追い出されたってことは、もしかして、あんたお姫様……?」

 女剣士がとんでもないことを言い出した。それはゲームのしすぎだろう。俺に言われたくはないだろうが。


「いやそれはさすがにねーだろ。だってこいつだぜ?」

 俺はもと盗賊の賢者を見ながら言った。


「だよねー。お城の衛兵とか、庭師とか、そんな感じ? もしかして料理人とか?」

 こんなのがお姫様だったら国が傾くだろと軽口をしたところで言葉が引っ込んでいった。この女に似つかわしくないことに顔を赤くして俯いているからだ。


「も、もしかして……」

 こくりと頷く賢者。


「えぇ――――――――――――――――っ!?」

 この日、俺は――いや、俺だけでなく女剣士も戦士も――この旅始まって一番の衝撃を受けたのであった。


「わぁちちちち! あちち!」

 ああもう、びっくりしてコービーこぼしちゃったじゃねーかよ!

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