第2話 黒歴史
―かつて、二度の大きな戦いがあった。
一度目は『聖歴』と呼ばれていた千年以上も昔、『魔術師』と呼ばれる者達が世界を統べていた頃のことだ。
彼らは魔術を『古の神より与えられし力』とし、炎を出し、水を操り、光を生み出し、巨大な獣や竜を操り、そんな力に多くの人間が魅了されていた。
生まれ持った才能をより強大にするべく、彼らは己の持つ魔術という力を極め続けていた。だが、『魔術師』はその代償として、自分の命―『生命源』と呼ばれる力を魔力に変換しなければならなかった。
強大な魔術であればあるほどその負担は大きく、使い方を誤れば死に至る。
しかし、突如現れた『征錬術』を持つ者―『征錬術師』により、その均衡は崩されてしまった。
『征錬石』と呼ばれる貴重な鉱石を使うものの、あらゆるものを作り出す彼らは、その力を利用して瞬く間に建造物や武器を作り出し、人々に浸透していったのだ。
いずれ、自分達の脅威になると考えた『魔術師』達は『征錬術師』達と敵対。
のちに、『国家戦争』と呼ばれるこの戦いは、命を費やして戦い続ける『魔術師』には厳しい戦いへと変わっていき、やがて『征錬術師』が勝利すると、『聖歴』が終わり、『神聖歴』と呼ばれた時代が始まった。
神聖歴 一〇一三年。
それから千年以上が経過し、『ノード大陸』と呼ばれる巨大な大陸には『征錬術師』達が多く住み、街や都を作っていた。
その中でももっとも大きな都―聖歴時代に『アルト国』と呼ばれていた国は、神聖歴へと変わった際にその名を『神聖アルト国』へと変え、その国に存在する『王都シュバイツァー』では優秀な『征錬術師』達が住み、日夜研究を続け、自分達の力の高みを目指していたのだ。
しかし、すべての人間が『征錬術』を操れるわけではない。
大陸の西側にある『神聖アルト国』に対し、東側にある『ケルム王国』では『征錬術』を使用せず、古典的な方法で自分達の生活を支えていた。
だが、その均衡は再び現れた『魔術師』達によって崩されてしまった。
彼らは千年前に起こったとされる『国家戦争』の復讐を掲げ、〝征錬術師の都〟とも呼ばれる『王都シュバイツァー』を始め、『征錬術師』達の街や都を襲い、多くの命を奪っていった。
二度目の『国家戦争』が起こったのだ。
そして、この戦いで多くの戦績を残した者が居た。
彼の名は、レオハルト・ヴァーリオン。
『王都シュバイツァー』で名の知れた父を持っていた少年は、数度に渡る『魔術師』の侵攻を防ぎ、王都に攻め入ってきた『魔術師』を撃退することに成功。
さらに、『魔術師』の国の王女―レイシア・レディスターを説得の末に協力者とすることにも成功し、王都側に大きな貢献をした。
しかし、彼は王都に住む『征錬術師』であると同時に、『魔術師』の血を持っていた。
それが周囲に知られてしまい、母が『魔術師』であったことから「『魔術師』の侵攻はレオハルトが招いたものだ」と一部で疑いを掛けられ……その結果、軍は彼を〝反逆者〟と決定した。
王都の為に戦い続けた彼を、一時は〝英雄〟とすら称していた王都の人々。
それに対し、あまりに強力な力を持った彼を危険した王都の軍―『王都防衛軍』は〝王都防衛軍第十三部隊〟の隊長だった彼を〝反逆者〟として捕らえ、刑に処すことを画策していた。
その後、『王都防衛軍』はレオハルト・ヴァーリオンを『反逆罪』で処刑。
王都の人々は『魔術師』と共謀していた彼の死に、安堵の息を洩らした。
―それからさらに数年の時が流れた。
『王都シュバイツァー』を始めとした『神聖アルト国』は、『魔術師』達に関与する可能性のある街や国、都への弾圧を強めていた。
そんな中で、今なお『神聖アルト国』の猛攻をしのぎ、生き抜いている国がある。
その一つである『ケルム王国』は、かつて『魔術師』が中心となって国を統べ、しかし、その後は『征錬術』も『魔術』も捨て、人の力のみで生きることを選んだ国だ。
だが、先代ケルム王が亡くなり、『ケルム王国』に新たな王が就任したことで、長きに渡るその歴史が塗り替えられたのだ。
その名は、レオハルト・ケルム・ヴァーリオン。
王都から生き抜いたまま脱出していた彼は、『ケルム王国』の新たなケルム王として即位していた―。
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