第35話 大量注文

「なぁ、作ってもいいだろうか? レイ…」


 ガレックはマントを作りたくて仕方がない様子で、オレにお伺いを立ててきた。


 別に、作りたいなら作ればいいんじゃないかと思うが、どうやらオレが以前言った約束を律儀に守ってくれているらしい。なんとも義理堅い人だ。


 だから――


「オレのことは気にせず、作ればいいんじゃないですか?」


「でも、あのマントの能力だろ?  レイはあんまり人に知られたくないんじゃないかって思ってな。四人分も一気に作ったら、さすがに目立つだろうし…それで一応、確認を取りたかったんだよ」


「確かに…目立ちますね。でも…」


 ガレックさんには世話になっているし、今日も聞きたいことがある。

 それに、オレは「作らないで」とは言ってない。

 ただ、ガレックさんが気を遣って確認してくれただけだ。


「気にしなくていいですよ。禁止してないですし、作りたければどうぞ」


「そうか!?  よし、やった!  ありがとな、レイ!」


 そこで、オレは作るのならばエリナたちの分もお願いしようと思い、それを伝えてみた。

 子供サイズだから、そう大きくはないがそれでも、そこそこの粉末が必要になる。

 それでも、大丈夫かどうかを尋ねてみる。


「あの…作るのであれば、オレと同じくらいな大きさのマントを三枚ほど追加してもいいでしょうか?」


「三枚もか? 替えにしちゃ、多い気がするが…そんなに必要なのか?」


「あ…いえ、オレの他に三人ほど、持ってて欲しい友人がいるんです…ダメでしょうか? お金はお支払いします…今は無理ですけど、必ずお支払いしますので…」


 オレはうつむき加減で、お願いしてみた。

 そんなオレをみて、ぽりぽりと頭を掻きながらガレックさんが話し出す。


「あのな…おまえがマントの制作を考えて試したらすごいものが出来たんだ。それを、分かっているか?」


 なんのことを話しているのだろうかと、オレは思った。


「だからな。実際は、こっちがお金を払ってその閃きを買わなければならないんだ。本来はな。おまえの制作したマントにはそれくらいの価値はあるってことだ。わかるか? だからな、お金なんて払わなくても、おまえが必要なら頼んでやるよ…っとに」


 と、こころよくガレックさんが答えてくれた。

 オレは嬉しくて、お礼を言った。


「ありがとうございます。ガレックさん…」


「こっちこそ、ありがとな。いいの作ってもらってやるよ。はは」


 二人して、互いに笑いあった。

 それから、前に頼まれていたパワーグローブだけど、ダンジョンにいって、ヌリウムを見つけないとどうにもならない事を告げる。


「…ヌリウ…ム…? なんだそれ?」


 あ、あれ…これも、この世界では違う名前なのだろうか?

 仕方ないので、特徴を伝えてみた。


「えっと…淡い緑色で、薄い青の透明感があって、時々黒い縞模様も見える。形は板みたいに平らで、触ると冷たくて安心感がある石なんですけど…」


「ああ! それ精霊の涙って、呼ばれてる鉱石だな。なんの変哲もない物だから、そう需要はない鉱石だな。まぁ、見た目がいいから好事家には宝石として、それなりに価値があるやつだな」


 …なんて、ファンシーな名前なのだろうか。

 少しベタすぎて、笑っていまいそうになった。


「それと、もう一つは色は深い青紫で、星空みたいにキラキラするの。形は不規則な結晶で、少し重い感じ。」


「なるほど、それなら星の浮石って呼ばれてる鉱石だな。見た目以上に重い石じゃないか?」


「それです」


 …こっちも、すごいファンシーだった。

 まぁ、でも名前が分かったのは良かった。


「…へぇ、その二つを組み合わすと、レイが持っているグローブが出来るのか…なんか奥が深いな…」


「ですかね…」


「そうだよ。オレやパーティの面々…いや、だれもそんなことをやろうなんて考えるヤツなんて存在しなかったよ…自分の武器や防具の強化で満足していたしな…レイ、おまえすごいな」


 そんなに褒められると、凄く照れくさい。


「そうですかね…」


「そうだよ…自信を持て、レイ。おまえはダレも出来なかったことをやったんだ、誇ってもいい」


 そういわれて、オレはますます照れてしまう…


「それで、これも三人分欲しいのか?」


「はいっ! できるのであればお願いしたいです。ですが…出来れば六組分欲しいです…無理を言ってすいません」


 そう言われて、ガレックは首をかしげた。


「なぜだ?」


「あ…えっと…足にもつけたいからです…」


 そう言うと、「ハッ」とした顔をガレックは浮かべた。


「なるほどな。おまえ頭いいな。はは。分かった。引き受けるよ」


 少し笑いながら、ガレックさんは快く引き受けてくれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る