第5話

それから観察で⑧月曜と金曜に図書館へ行くのがわかり、本を返すために金曜の放課後に図書館へ向かった。

図書館には、様々な本があるのだが、うちの高校には結構最新の小説なんかも置いてある。

図書担当の教師がよほどの本好きらしく、色々買っているようだ。

レイアウトも工夫されていて、本屋のように最近映画化された図書コーナーなんかもあったりする。

そのせいか、学生がよく利用している。

今日も明日の土日で読む本を借りに来ている学生がたくさん来ているようだった。

人気の少ない奥に向かう。


「いた」


梨央りおが窓際の席に座って本を読んでいる。

光があたって、またドラマのワンシーンのように見える。


美少女とはこんなに絵になるものなのか、そう思いながら、奏汰かなたはゆっくりと梨央の方へ向かった。


「大久保さん」


梨央はびくっとしてこちらを見ると、「市川くん」と声をかけてきたのが奏汰と少し気が抜けたよう微笑んだ。


「ごめん、突然声かけて」


「全然いいけど、どうしたの?」


「これを返そうと思って」


借りていたアガサクリスティの本を差し出すと、「もう全部読んだんだね」といって梨央は微笑みながら受け取った。


「貸してくれてありがとう。ほんで、貸してくれたお礼にと思って、これなんやけど」


奏汰は一冊の本を差し出した。


「俺の好きな本なんやけど、良ければ読んでみて」


「ありがとう。この本、本屋さんで見かけて気になってた」


梨央が目をキラキラさせて、本をぱらぱらとめくっている。


「喜んでもらえて良かった。じゃあ、俺行くわ」


「うん。あ、そういえばどうして私がここにいるってわかったの?」


「え?いや~それは・・・」


(観察してたんで、なんて言えるはずがない)


「たまたまや、たまたま図書館へ入るのが見えた」


「そっか。本ありがとうね」


「おぅ」

なんとかバレずに済んだようだ。

ホッと胸をなでおろすと、その場を後にした。


「奏汰、どこ行ってたんや」


教室へ戻ると、誠が奏汰の机に腰かけながら、不機嫌そうな顔をしている。


「すまん」


「お前が今日ゲームでのせえへんかって言うたんやん」


「せやったな、ごめん」

奏汰は急いで鞄に荷物を詰め込む。


「それにしてもどこに行ってたんや」


「え?図書館やけど」


「図書館?陰キャが図書館とか絵になりすぎるからやめとけ」


「うっせぇよ」


「なーんか最近お前おかしいよな」

まことが眉をひそめながら、眉間に人差し指を置いた。


「は?なんやねん」


「ぼーっとしたり、いつもとちゃうとこ行ったり・・・これはズバリ」


〇田一少年のようにびしっと奏汰を指差す。


「君は恋をしている!!」


そう言って誠がにやにやしている。


「あ、あほ!んなわけないやろ」


「おい、顔赤くすんなよ」


「怒って赤くなってんのや」


タオルを差し出されてびっくりする梨央

クールに本を読んでいる梨央

恥ずかしそうにうつむく梨央

微笑む梨央

本を貸してくれる梨央

保健室で静かに本を読んでいる梨央

目をキラキラさせながら本をめくる梨央


「恋なんてしてへん。じっちゃんが泣くぞ、誠少年」


「俺のじっちゃんは名探偵ちゃう。ただの大工や」


教室を出て歩きながら、奏汰は恋と言われて梨央のことがたくさん浮かんだことに気づいた。

奏汰と梨央が結ばれなければ、未来で世界が崩壊する、そう言われて梨央に近づくために観察をしてたのだが―

微笑む梨央を思い出すと、胸がドキドキしてくる。


(まさか、俺ほんまに恋してんのか・・・?)


「危ない!」


誠の声が聞こえた時には、スパーンっとソフトテニスのボールが奏汰の顔を直撃した。

「・・・っ!」

奏汰がその場でしゃがみ込むと、上から「バレーボールやのうて、ソフトテニスやったか。硬式やなくて良かったな」と誠ののんきな声が聞こえた。

文句を言おうと立ち上がると、鼻からたらりと血が垂れた。


鼻にティッシュを詰めたまま帰宅すると、自室へあがり、鞄を投げるように置くとそのままどさっとベッドに横になった。


「マジ疲れた~」

天井を見上げると、梨央の顔が浮かぶ。


「ちゃうちゃう、俺は未来のためにやってるだけや」

誰にかわからない言い訳をしていると、パソコンが急に立ち上がった。


「え?」


恐る恐る起き上がってパソコンに近寄ると、「次の中間テストで成績1位を取るべし」と文字が表示されている。


「は?」


カタカタと音がして、「彼女は成績のいい男が好きだ」と表示された。


「未来の俺ならわかるやろ、俺の成績は中の下やで」


またカタカタと音がして「未来のためだ」と表示された。


「未来の為ってなぁ・・・」


プシューっと音がして、パソコンの電源が切れた。


「やるしかないんかあああ」

ため息が混じる。


(次の作戦は「成績1位をとるべし」か―)


奏汰は、とりあえず席に座ると、問題集を手に取った。

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