10年後に溺愛激重王子×2から逃げられなくなるタイプの異世界転生ライフ

ほうじ茶

プロローグ 雑に転生

 俺、由良 透は、ある日あっけなく事故で死んでしまった。まあDV気質のクソ男に浮気されてフラれ、この世のどん底みたいな気分だったのであまり未練はない。

 だというのに、なぜか俺に第二の人生が与えられるらしい。


「えー、由良透さん、あなたには異世界に行って結婚してもらいます」

「はい先生、じゃなくて神様? 俺ゲイだから結婚とか無理なんだけど」

「神様であってますよ。大丈夫、相手はどちらもあなた好みの美形な男性です」

「わあいイケメン大好き♡うれしいけどなんで?女性のほうがよくない? ほら、流行りの…聖女とか悪役令嬢転生とか」

「その聖女とか悪役令嬢とかの尻ぬぐいに行ってもらうんですよ」


 曰く、俺が飛ばされるのは「竜と光の聖女~魔法よりも素敵な真実の愛を探す学園恋愛ADV~」の、シナリオ終了から20年経った時代らしい。「竜と光の聖女~魔法よりも素敵な真実の愛を探す学園恋愛ADV~」は世界各地から王侯貴族が集まる名門魔法学園を舞台に、主人公は聖女として世界を救いつつ、多種多様なイケメン達と愛を育む…早い話が乙女ゲームだ。


「確かに世界は救われました。ええ。救われましたとも!」


 男とも女ともつかない、麗しい見た目をした作り物のように綺麗な神様が、社会の理不尽をありったけぶつけられた社畜のような顔で語気を強めて言った。


「世界を救えば何をしてもいいと思うな! もう! おかげで新たな世界の危機です!」

「そんな世界に行くの嫌なんですけど。その乙女ゲーム知らないし」


 俺は思わずそう返した。終末世界にロマンを感じるタイプではないし、せっかく第二の人生を与えられたのにまた早死にするなんて嫌でしょ?あと苦労も嫌、貧困も、悪意に振り回されるのもごめんだ。これって普通のことだと思うんだけど。


「ああ、誤解しないでください。そんなに差し迫った危機があるわけではないですよ。ただ混乱の余波とめちゃくちゃになった血筋管理のせいで、次の世代では世界のバランスが崩れるかも、というだけの話です」

「それって俺が何とかできる問題?」

「できます。あなたはこちらが指定した二人の王子と結婚していただければそれでいいので。簡単でしょう? 前回の反省を踏まえ、必要なら指示も出します。よくあるナビゲートシステムですね」

「指示されたことをこなすだけなら簡単だろって?まぁ、面の良い男と楽しく暮らすだけって話なら大歓迎だけど」

「なんとでもおっしゃってください。あなたに拒否権もないですし、こちらとしてはさっさと転生してもらうだけなので」

「強制なんだ。なんかブラックだね」

「どうせ転生して数年はただの子供ですから、ここでこれ以上詳しく説明しても無駄でしょう。めんどうですし。文明レベルは現代日本と同じくらいですから大丈夫ですよ! ちょっと魔法があるくらいの違いです!」

「結構違うと思うけど」

「気にしない気にしない! ではその円の真ん中に立って。はいそこで止まって。では、よい異世界ライフを!」


 こうして、極めて雑に由良 透は転生した。


 と、いうのを今朝、6歳の誕生日に思い出したわけだ。


「数年はただの子供って、そういうことね」


 急に約30年分の記憶がインストールされたせいか体がだるい。寝起きなのに。しかたなしに軽く伸ばし、深呼吸をした。頭がすこしだけクリアになった気がしたが、正直二度寝したい。なにも誕生日の朝に思い出させなくともいいんじゃないだろうか、と心の中でぼやき、それから前世では考えられないような豪華なベットからのたのたと這い降りた。

 そして部屋に取り付けられた鏡をのぞけば、そこには色合いこそ違うものの、前世の幼いころと同じ顔をした子供が映っていた。

 ふわっとしたストロベリーブロンド、同じ色の長いまつ毛、とろりととろけそうに甘く大きな目はちみつ色の目、白い肌には通った鼻筋が控えめに。それから、桜色の上品な唇にそっと艶っぽさを足すほくろ。

 うん、我ながら将来有望な良い美ショタっぷりだ。

 前世の俺は引くほど男運がなかったのと、ゆるめの貞操観念を持っていたせいで散々な恋愛をしてきたが、それでもまぁ、俺は男女問わずモテた。顔だけには自信があるんだ。

 そんな俺だからこそこの役割をもって転生したのだろう。王子二人と結婚しなければならないということは、その二人が不快に思わない程度の見た目が絶対条件だろう。それと立ち回り。これも俺の胸を張れない性格の悪さがぴったりなのかも。それから重婚をものともしない貞操観念。うん、たしかにこれは俺にあった仕事かもしれない。


「そう考えると、俺ってすごく嫌な奴。悪女に思えてくる」


 男だけど。あと性格がよろしくないのは真実だけどね。


「ま、いいか。せっかく転生したんだし、乙女ゲームの王子様ならひどい性格もしてないだろうし」


 そう気楽に考えて、俺は鏡の中の自分に大してにっこり笑いかけた。

 さよならぼく。ハッピーバースデー俺。さ、新しいユラ・クラールハイトの始まりだ。



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10年後に溺愛激重王子×2から逃げられなくなるタイプの異世界転生ライフ ほうじ茶 @hozcha

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