第14話 イナゴの来襲(飛来編)
段ボール屋ウェーブのプロジェクトが相変わらず裁判沙汰になりかけており、品質担当のパートナーは各チームのマネージャーにヒアリングを掛け、どうにか裁判を避ける方法を検討しているようだった。
正人のところにもヒアリングに来たので、正人は包み隠さず、山部パートナーの軍隊的ではあるが、適格な指示は全くできない。すなわちリーダーとしての能力や、クライアントを呑ませて喜ばせることはできてもそれ以上ではないことを吐き出した。
ただ、品質担当パートナーからは、 "君の感想を聞いているのではなく、事実だけ話してくれ。" とまあ、コンサルらしい注文を付けられてしまった。そりゃそうだ。ちょっと感情的になってしまった。
山部は、ウェーブのプロジェクトで生産管理や調達を担当するマネージャーや、林田(できないマネージャー)と同じファームからやってきていたが、最近、そのファームから更に20人ぐらい来るような話があるらしい。
山下や牛山などパートナー陣がオフィスでうろうろして何やらバックオフィスのスタッフと打ち合わせをしている。
森田をオフィスで見つけたので聞いてみた。" 何やら他のファームから人が大量に来るらしいですが、どうなんですか。" 森田は、" 知らん" と、まあ、いつものように確定していないもの、もしくは、噂話は一切しないので、期待はしてなかったが、やはり期待を裏切らない回答だった。
仕方がないので、向こうから歩いて来る山下にも聞いてみた。" おお、鈴木はん、耳が早いおまんな。ブルーロックからマイクはんがぎょーさん連れてくるって話やで。おかげでWest(大阪オフィス)にもとばっちりが来るらしいで。。。。。。ちょっとしゃべりすぎたかな。鈴木はんこの話はここだけに。" と足早に去っていった。
ブルーロックはTCPと同様監査法人系の外資ファームで、競合相手だ。この業界4大監査ファームでぐるぐる転職するのは当たり前で、最後にはそこから零れ落ちて小さなファームに移るか、事業会社へ転職するかの道をたどることになる。イケてるメンバーは独立して事業を営むものもいるが、それでも半分ぐらいは戻ってくる。
朝、メールを開くとデニーから1通のメールが届いていた。
’親愛なるメンバー諸君(アメリカ人らしい始まりだ。)、この度ブルーロックのマイクがTCPにJOINしました。これを機に組織の見直しを行います。ソリューション割の組織からインダストリーとソリューションのマトリックス組織に見直します。今まで、東京と大阪、博多で分けていたオペレーションを統一し、Japan一体で管理することにします。詳細は新しい組織の担当パートナーから追って連絡があります。'
なるほど。これが山下さんが言ってたやつね。だけど、一体オペレーションってどうやってやるの?誰がボスになるの?次々疑問が湧いてくるが、下っ端は待つしかない。
翌週、今度は新しくやってきたマイクからメールが届いた。
' この度、TCPにJOINしたマイクです。ブルーロックではSCM(サプライチェーンマネジメント)をリードしていました。TCPでは、産業機器およびSCMをリードします。新しい組織では、東京、大阪、博多の多くのメンバーと一緒に仕事ができることをうれしく思います。特に大阪でSCMを率いていた森田さんとそのメンバーには近い将来直接お会いして今後のプランを議論したいと思います。'
ほー。大阪のパートナー連中はどうなるんだろう。もちろん、それよりも自分のことの方が心配だが。正人は単なる組織改編では終わらないことを認識した。しかし、間もなくJOINしてきた側に吸収されるとはこの時点では理解に及んでいなかった。多分、今の時点で森田に聞いても "知らん。" の一点張りだろう。
以前のJOBで一緒に仕事をしたメンバーでブルーロックへ行った沢田がいるのを思い出した。メッセンジャーでコンタクトとってみるか。
'沢田さん、お久振りです。兵庫で一緒にプロジェクトをやった鈴木正人です。ブルーロックへ行かれたとはお聞きしました。今度そちらのことに興味があるので、会食でもしませんか。今週末か、来週の頭にでもお会いできたらと思います。TCP鈴木'
こういったことは、会社のメールを使うと相手がブルーロックの社員だけに秘密漏洩云々でブラックリストに入ってしまう。個人スマホからSNSを使って連絡を取った。
'鈴木さん、お久振りです。私も今、大阪のJOBマネをしているので、いつでもOKです。昔話をでもしながら食事しましょう。いつでも都合のよい日時をお知らせください。21時以降だったら何とかして空けます。'
三津寺近くの四国鶏料理店で正人は沢田と待ち合わせした。飲み屋にしてしまうと沢田は下戸なのでかわいそうというのが理由だ。高級な店でプロジェクトの経費を使ってというのもありだったが、そうすると沢田が引いてしまって聞きたいことが聞けなくなるような気がした。
以前のプロジェクトのバカ話をして、過ごしていたが、呑んでいるわけでもないので、いつまでも本題に入らないわけにはいかないと正人が思っていると。
"鈴木さんが聞きたいのはマイクの件でしょ。" 図星だ "あんなに大勢で移動して問題にならないわけがないっす。こっちでも騒ぎになってますが、私としてはうれしい限りです。"
正人はすかさず切り込んだ。 "どういうこと。そのうれしいっていうのは"
沢田は待ってましたとばかりに "いやー。もうあの連中は最悪っす。軍隊だか、何だか知らないけど、仲間でない奴らはとことん潰して。スタッフをとっかえひっかえプロジェクトで使っては捨てるを繰り返してたんすよ。おかげでスタッフは10人以上やめてしまって、鬱になったのも何人いることやら。マイクは自分たちの部下を1ランク、いや中には2ランク上げて連れてきていて、挙句には何もできない学卒間もない坊主をマネージャーに仕立てて"
いやー出てくる出てくる。不満の塊が噴き出てきた。
沢田と言えば穏健な性格でコンサルのマネージャーとしては珍しく敵はいないと言われていたが、彼からこんな不満が聞けるとは。
しまいには "結局、最後に奴らはスタッフをがたがたにして、プロジェクトもクライアントからクレームの嵐を受けながらそのまんまTCPへ飛んでいきましたよ。あれじゃファームで散々食い尽くして飛んで行ったイナゴですね。"
"イナゴねー。アフリカで大量発生するあれか。"
なるほど。こちらは心せねば食われる立場ってことか。
第14話 了
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