第36話 女という生き物は
えりとそんな会話をした後、しばらく経てば奥の席がドッと急に盛り上がった。
どうやらサークル内で起きた懐かしい珍事件の話題のようで、ドラゴンとクマちゃんが皆んなから詰め寄られている様子だ。
多分キャンプに行った時にドラゴンの下着がなくなって、それをクマちゃんがなぜか持っていた件だろう。
あれからしばらくクマちゃんはソッチなんだと皆が思っていたんだっけ。
そんな光景を懐かしいなぁ、なんて遠くで見ていれば「憲司はやくこい!」と洋二に呼ばれて、何故か俺まで巻き込まれることになるのだった。
その後はもう散々だった。
話に巻き込まれて酒を飲まされみんなで騒いで笑って。
えりもまたこっちに参加して楽しそうに笑っていた。
結局その後もドラゴンに捕まって二次会まで連れて行かれ、カラオケで喉が潰れるくらい懐かしい曲を歌いまくった。
まぁ、色々あったけど、皆で久しぶりにこうして会えて酒を飲めて昔話をして、なんだかんだ同窓会は楽しかった。
やっぱり、酒と昔話は最強なのである。
◇
二次会が終わり帰宅すればいつの間にか深夜2時を回っていた。
17時から始まったことを考えれば結構な時間が経っていて、勿論俺はベロベロな状態。
あれから「朝まで行くぞー!」なんて言い出す同じくベロベロなドラゴンをタクシーに無理やり押し込んで、一緒に中野まで帰ってきたのだった。
「ただいまぁー」
ふわふわとした身体をゆっくりと動かして玄関に上がれば、まだリビングの電気がついていることに気がついた。
一応、酔った頭でも気を遣いそっとリビングへ入っていく。
レイナはいつもリビングで布団を敷いて寝ているからだ。
「あれ、レイナ起きてる?」
けれど、そこには布団が敷かれてもいなければ誰もいない。
あれ?どこに行ったんだ?なんて考えながら、とりあえず冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いだ。
それをぐいっと一気に飲み干せば、着ていた服をそこら辺に投げ捨てて定位置のソファーへダイブする。
「…あれ」
ぐだっと身体をソファーに預ければ、そこにはいつもはないはずの「何か」があった。
そして鼻を掠める甘い香り。
肌から感じるソファーとはまた違う柔らかい感触に不思議に思えば、下からは苦しそうな声が聞こえてきた。
「…お、お帰りなさい」
「なんだ、レイナか」
少し身体を浮かしてから、重たい瞼を擦って見れば目の前には俺の下敷きになったレイナがいた。
「…眠っちゃってました。すみません」
「なに?待っててくれてたの?」
「はい、テレビで見たんです。同窓会ってお酒を飲みすぎる場所だって」
「あはは、なにそれ」
「本当だったみたいですね」
そんな会話をしながらも、未だに動こうとしない俺に彼女は不思議そうな表情をする。
そして「水飲みます?」と聞かれたので「飲んだよ」と答えれば少し安心したように笑った。
「…というか、早くどいて下さい」
「あー悪い悪い」
伸し掛かる俺の身体を両手で一生懸命押しながら、起き上がろうとするレイナ。
けれど「悪い」なんて言いつつも一向に起き上がろうとしない俺。
しばらくそんなことをしていれば、徐々にレイナの表情は険しくなり終いには俺を睨みつけていた。
「ねぇ、今日一緒に寝てもい?」
そして、そんな彼女の俺の胸元にあった手を捕まえて、視線を重ねてそう言った。
大きく見開かれた蜂蜜色の瞳には、しっかりと俺の姿が映っているのだった。
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