2: 溜息

彼女は溜息をつき、額を窓ガラスに押し付けた。冷たい感触が、過去の記憶を呼び覚ます。カウンセラーとして他者の心の傷を癒す立場にありながら、自身の傷は未だ癒えていなかった。

一方、光明会本部では、鷹野隆司が新たな信者を前に熱弁を振るっていた。


「皆さん、光の道こそが、この混沌とした世界を救う唯一の方法なのです」


鷹野の声は、柔らかくも力強く響き渡る。その姿は慈愛に満ちた聖者のようだったが、瞳の奥底には計算高い光が宿っていた。信者たちは、その言葉に陶酔し、熱狂的な拍手を送る。誰も気づかない。この建物の地下で、恐ろしい儀式の準備が進められていることを。

警視庁のデスクに向かう佐藤健太の表情は、疲労と焦りに満ちていた。彼の前には、山積みの未解決事件ファイルが置かれている。その多くが、カルト教団に関連する行方不明事件だった。


「どうしてこんなに増えているんだ...」


佐藤は眉をひそめ、ため息をつく。彼の直感は、これらの事件の背後に大きな闇が潜んでいることを告げていた。しかし、証拠はまだ何も掴めていない。

そして、運命の歯車が動き出す。


ある静かな夜、光明会の本部から異様な光が漏れ、周辺住民の通報が相次いだ。警察が駆けつけたとき、そこにいたのは空っぽの建物だけだった。信者たちは、まるで霧散したかのように姿を消していた。

この事件を境に、神崎、鷹野、佐藤の運命が、予期せぬ形で交錯し始める。彼らの前に待ち受けるのは、想像を絶する真実と、人類の存亡を賭けた壮絶な戦いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る