第4話 真実の愛?


 後日来たルーベンスからの報告によると、その男はやはり前日捕まった反王制派の残党だったようで、まだ数名がどこかに潜んでいるということが分かった私は、学園と家の往復以外の外出を禁止された。

 普段から学園の行きも帰りも必ずルーベンスが迎えに来てくれているのであまり変わりはないけれど、やはり不安はある。


 さすがにそれを察してくれているのか、今は一時休戦で、ルーベンスからの婚約破棄の申し出は止まっている。


 そして卒業を翌日に迎えた最後の学園登園日。


「ネリアリア様、明日はいよいよ卒業式ですわね。最後までよろしくお願いします」

「えぇ。よろしくね」

 学友たちと挨拶をした後、私は一人教室に残って、職員室へ最後の打ち合わせに行った婚約者を待つ。


 王太子であるルーベンスは、明日の卒業式で卒業生代表のスピーチをする。

 そしてその後に城の大広間で行われる王家主催の卒業パーティで、私のエスコートをし、決定したばかりの半年後の結婚式について、大々的に宣言する。

 それが終わればもう、私たちは引き返すことはできなくなる。


「いよいよ、か……」


 誰もいなくなった教室に、私の声だけが響いた。


 明日で最後。

 もうここで学友たちと授業をきいたり、談笑することもない。

 王太子妃になれば、気軽に会うことだってできなくなる。王妃になればなおさら。

 そう思うと、すこしばかりしんみりとしてしまう。


「それにしてもルーベンス、遅いわね」

 少し段取りを確認してすぐ迎えに来ると言っていたのに、何かあったのかしら?

 この間の反王制派のこともあって不安になった私は、鞄を手に足早に教室を出た。



「まだ職員室かしら?」

 私が職員室へ向かう階段を一歩降りたその時──。


「──殿下……っ」

「!?」


 女性の高くか細い声が、ルーベンスを呼んだ。

 教員の声というには若い。おそらく生徒だろうけれど、ここからではよく見えない。

 私はスカートの裾をつまみ上げると、気配を消し、一段ずつ、慎重に階段を下りていく。

 そして現れたその光景に、私は思わず息を止めた。


「しっかりしろ。大丈夫だ。卒業しても、はぐくんできた愛というものは変わらない。だから安心しろ」

「はい……っ」

 泣いている女生徒はルーベンスの胸に顔を寄せ、ルーベンスが抱き留めている。


 誰?

 何なの? この状況は。

 はぐくんできた愛?

 この女生徒と?

 ならまさか、私に婚約破棄を突きつけ続けてきたのは……この方のため?


「っ……」

 私は息を詰まらせると、音を立てないようにそっとその場を離れた。


 無の状態で教室に戻って少ししてからしばらくして、ルーベンスは私を迎えに来た。

 それから何を言われても上の空状態で、ルーベンスの訝し気な視線を浴びながら、私は公爵家へと帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る