■21.1 黒い瞳は常に遠くを見据え /雷撃のドラゴンの誕生

零の黒髪は風に乗って静かに揺れ、その長い前髪が瞳にかかるたび、彼の冷静な表情に神秘的な影を落とした。戦いの最中、額に張りついた前髪の隙間から覗く彼の黒い瞳は、まるで世界の全てを見透かすように鋭く輝いていた。

その視線には、ただ敵を討つためだけではない、仲間を守り抜き、未来を切り開くという強い信念が刻まれていた。


風が吹くたびに、零の髪が軽やかに揺れ、その動きは彼の沈着冷静な表情と相まって、まるで無音の中に潜む力を予感させるかのようだった。彫りの深い鼻筋が彼の厳しい表情をさらに引き立て、その眼差しは敵だけでなく、未来をも見据えていた。普段は口数が少ない彼だが、戦いの場ではその内に秘めた情熱と力強さが一気に解き放たれ、まるで嵐のように周囲に影響を与えていた。


その日、零、麻美、守田の三人は、次々と押し寄せる敵の群れに追い詰められ、体力も限界に達しようとしていた。息を切らせ、傷を負い、立ち止まる余裕さえない。麻美は何度も魔法を放ったが、その力も底をつき、ついに膝をついてしまった。


「もう…無理かもしれない…」麻美のか細い声が、切ない吐息となって地面に落ちた。彼女は疲れ切った瞳で零を見つめ、その名を呼んだ。「零君…」


零はその声に反応し、剣を地面に突き立てて、疲れた体を支えながら麻美の方を振り返った。前髪が汗に濡れて額に張り付いていたが、その瞳の中に宿る光は消えることなく、むしろ鋭さを増していた。彼は微かに微笑み、優しくも力強く言った。「まだだ、俺たちは…まだやれる」


麻美は不安そうに首を振り、震える手でローブを握りしめた。「でも…魔法が…もう…」


零は彼女の肩にそっと手を置き、静かにささやいた。「心配するな、俺が守る。今は休んでくれ」


その言葉に、麻美の瞳が驚きと感動で揺れた。零の表情には疲れが見えたが、その瞳に宿る強さは決して揺らぐことなく、仲間を守るという決意が彼の全身から溢れていた。風がまた彼の前髪を揺らし、再びその瞳を覆ったが、その視線は鋭く敵を見据えていた。


「零君…」麻美は彼の言葉に心を打たれ、言葉を失った。


零は剣を握り直し、守田に向かって力強く言った。「俺たちで奴らを引きつける。麻美が回復する時間を稼ぐんだ」


守田は疲労を堪えながらも、零の言葉に頷き、拳を握りしめた。「わかった、任せろ!」


零は深く息を吸い込み、前髪をかき上げた。その瞳には恐れが微塵もなく、ただ冷静さと決意だけがあった。敵の圧倒的な力を前にしても、彼の剣は鋭く、しなやかに動き続けた。その動きはまるで風そのもの。零が剣を閃かせるたび、敵は後退を余儀なくされ、彼の周りに張り詰めた空気が少しずつ緩み始めた。


「すごい…やっぱり、零はただ者じゃないな」と守田は零の背中に感嘆の声を漏らし、その力強い姿に勇気をもらいながら、全力で敵と戦い続けた。彼の剣の一振りが、仲間たちの命綱となっていた。


麻美はその戦いを見ながら、かすかな光を魔石から手に宿し、回復の呪文を唱え始めた。「癒やしの光よ、私に力を与え、傷を癒やし給え…」彼女の手から放たれる柔らかな光は、零と守田の体を包み込み、疲労と傷を癒していった。ポーションから溢れ出る神秘的な光が、彼女の心にも温かさをもたらした。


「ありがとう、麻美!」零は戦いの最中でも、その回復の力に感謝し、彼女に向かって微笑んだ。守田もまた、その光によって力を取り戻し、再び敵に突進していった。


「これで…勝てる!」守田は力強く叫び、最後の敵に渾身の一撃を叩き込んだ。巨大な敵たちはついにその勢いを失い、地面に崩れ落ちた。


戦いが終わり、静寂がその場を包んだ。零は剣を収め、深く息を吐き出し、前髪を手でかき上げながら仲間たちを見渡した。彼らはまた一つ、試練を乗り越えたのだ。


「少し休めそうだな」零は静かに微笑み、麻美と守田に向けて言った。その言葉には、仲間を思いやる温かさがこもっていた。彼の言葉は、彼らが共に歩む冒険の道しるべとなり、これから待ち受ける試練への準備を促すものだった。



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荒涼とした大地に、不気味な沈黙が広がっていた。

大気は雷鳴と共に震え、妖魔王の鋭い瞳がその光景を冷酷に見つめている。彼の前には、無数のドラゴンが苦悶に満ちた唸り声を上げながらも、己の運命に抗うことができずにいる。かつて強大で誇り高い彼らの姿は、今やパワーストーンの圧倒的な魔力によって蝕まれていた。


「飲め。これは命令だ。」

妖魔王の声は低く、だが確固たる意志に満ちていた。彼の手には、地球から奪い取ってきたパワーストーンが握られており、その石からはかすかに光が漏れ出ている。パワーストーンの輝きは美しいが、その中に秘められた力は計り知れない。そして、その力はドラゴンたちにとって、破壊にも等しい苦しみを与えていた。


「グォォォ…」

最初のドラゴンは目を見開き、苦悶の表情を浮かべながらその石を飲み込んだ。しかし、彼の体内で即座に魔力が暴走し、血液の代わりに雷が全身を駆け巡るかのように彼を苛んだ。巨大な翼を広げて地面を引き裂こうとするも、その力はもはや無意味だった。ドラゴンの皮膚は黒く焼け焦げ、目から光が消えていった。

「耐えきれぬか、愚かなものだ…」

妖魔王は冷酷に呟き、その姿が消えるのを見届ける。


次々と、他のドラゴンたちも同じ運命を辿った。彼らはパワーストーンを口に含む度に、その魔力が全身を貫き、まるで体の内側から裂かれるかのような激痛に襲われた。ドラゴンたちは、この圧倒的な力を拒絶し、抗おうとしたが、結局のところは力に飲み込まれ、命を落とすしかなかった。山のように積み上げられたドラゴンの屍が、次々と地面に崩れ落ち、雷の閃光が彼らの体を焼き尽くす。


だが、一匹だけが違った。

「フッ…ようやく見つけたか…」

妖魔王の瞳が鋭く光る。


最後のドラゴン――その銀色の鱗が雷光に照らされて輝くその姿は、まるで雷そのものを纏っているかのようだった。彼もまた、嫌々ながらパワーストーンを飲み込んだ。しかし、その瞬間、他のドラゴンたちとは異なる反応を見せた。苦痛の表情を浮かべることなく、彼の体は魔力に適合し始めたのだ。雷が彼の体内で暴れ狂うように走るも、それはすぐに収束し、ドラゴンはその力を受け入れたかのように、再び目を開けた。


「見よ…この完璧な姿を。」

妖魔王は満足げに微笑み、眼前のドラゴンを見上げた。その体は、まさに雷撃の具現化であった。大地に響き渡る雷鳴は、この新たな雷撃のドラゴンの誕生を祝福しているかのようだ。

「お前はこの世に二つとない力を手にした。雷の王として、私の忠実なる僕となるのだ。」


ドラゴンは妖魔王を見下ろしながら、その眼にかすかな輝きを宿していた。彼はもうかつての自分ではない。今や、雷の化身として生まれ変わった存在だった。闇と雷鳴が交錯するその場で、妖魔王は雷撃のドラゴンの誕生に満足していた。


「これでよい。」

妖魔王は静かにそう呟き、冷酷な笑みを浮かべた。





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